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萩くんのお仕事 第十二話

 なんか、俺、人から頼まれたことを、このまま続けていると、生涯一の仕事になりそうなので、どうなのかなぁ、と思っている所なんだけど・・・。

 あの後、病院の外来の診察を終えた、緋山先生、というか、あの方、院長先生なんだよね、そして、お父さんなんだよね、・・・の所へ、優馬くんご本人と行きましたよ。

 院長室で、緊張してね、大変だったんだけどさ。

 優馬くん、俺を連れて行って、変なことになっちゃうのが嫌で、多分、覚悟を決めたんだと思う。

「お父さん、僕は、実は、脚本家になりたいんです。こちらの、羽奈賀萩さんのように・・・」

 ううっ、来たかー、と、その時、思ったんだよね。こっそり、お父様の、院長先生のお顔を伺っていると、表情変えずに、優馬くんを見て、

「それで?」

と、仰った。

 なんて、クールな。この役は誰にしよう・・・とか、バカなことをまた、俺の頭の中が、過りそうになりつつも、俺は、神妙な顔に、軌道修正していた。

「あの、・・・それで、十倉坂大学の医学部に進みたいと思いまして」
「・・・それは、どういう意味だ?」

 え、えーっ、優馬くん?脚本家になりたいならば、東都の演劇学部って、話、ではなかったっけ?

「僕は、確かに、羽奈賀さんのような脚本家になりたい、ということもあるのですが、もう一つ、夢がありまして・・・」
「ふん、なるほど・・・」

 院長先生、何が、なるほど、と?
 優馬くん、めちゃくちゃなことを、言い始めていますが・・・。

「つまりは、以前に言っていたこと、・・・この病院では『月鬼症候群』を診ることができない。それに不満があるということだろう?」
「はい。僕は、あの十倉坂大学の医学部で、それを学びたいんです」
「宛てつけか・・・」

 あああ、先生、ここで立ち上がって、後ろを向かれた。窓の外を見ておられて。もう、そのまま、ドラマにしたい一シーンだ。それにしても、脚本家の道ではないぞ、あくまでも医者の・・・えっ、これ、ひょっとして?

「・・・今、これから、まだまだ、患者が増えていく病ですから。お父さんが、東都を目指してほしいのは、本当によくわかりますが・・・」
「東都の方針に合わないからと、東都を出て、この病院を立ち上げた。十倉坂に聞いたが、今は、それこそ、専門科が立ち上がり、進み始めたばかりだというから・・・、とても、まだ、他の病院に医師を派遣できる余力はないと・・・」

 えーっと、これは、ああ、前に調べたことがある。

 十倉坂大学病院が「月鬼症候群」と言われている、通称「黒墨」の臨床研究の第一人者といわれる教授がいるからだ。それと、系列が違う。東都と十倉坂は、全く、正反対のスタンスを取っていると聞くし・・・、実際の所、提携は難しいんだろうなあ・・・。

「だから、僕が、十倉坂の医学部に行きます。・・・なので、脚本家になる夢を、許してもらいたいんです」

 えっ?・・・わわわわ、これ、難しいよね💦

 あれ?・・・でも、この進路、実は、約30年ぐらい前に実現していた人、いたんだよね・・・。その人は、役者で、医者だったから。

 そう、月城先生だ。うちの劇団の主宰、現在、行方不明中の、往年の名俳優と言われている。そう、今、ドラマ出演をお願いしている、志芸野さんとうちの先生、志芸野咲哉か、月城紫京かと、ある時期、人気を二分していたんだから。流行りのドラマが、トレンディドラマと称されていたころ、20代、30代頃は、二人して、ファンを二分する、人気俳優だったんだ。

 確かに、脚本家は、俺のポジションで、裏方ではあるが、同じようなことになるけど、つまりは、月城先生みたいな、二足の草鞋を履くような感じを、目指そうっていうことなのかな?

「だから、宛てつけかと、言っているんだ。どうせ、美沙子に言われたのだろう?」
「いえ、お母さんは関係なくて、・・・というか、えーと」
「二足の草鞋を履いていた人がいるのよ、とか、言われたんだろう?」

 え?
 えーと、宛てつけって、そこ?
 え?これって・・・確か、奥様、月城先生の大ファンだったよね。

「そう、です。だから、あなたにもできるはずよって、お母さんが・・・」

 しばらく、黙って、院長先生は、後ろ向きのままで・・・。
 多分、こっち向きづらい表情をしていたんだろうなあ、と思う。

 針の筵なのは、息子より、父親だったのではないかなあと思いましたよ。
 俺という第三者までいてね。

 多分、当時の月城先生と、そう変わらない頃、緋山先生は、東都の医学生だったんだしょうね。その頃から、少しずつ、テレビに出始めていた、月城先生でしたから、すぐ人気が出ていた。もしも、その頃、緋山先生が奥様と付き合い始めていたとしたら・・・?

 しかも、「月鬼症候群」は、女性の病気で、今は、本当に必要とされている診療科が、東都大学の系列にはない。むしろ、その新種の未知の病に対し、これまでにある他の病気ではないかという否定と、そのために、研究は無駄と、十倉坂を馬鹿にしていたというスタンスだったから。

 奥様にとって、俳優でかっこいい月城先生は「月鬼症候群」の皮膚科専門医でもあったから、恐らく、緋山先生から見ると、二重の負けみたいなね、そんな感じなのかなあ・・・と、脚本家は、この話の流れで推測しているわけで・・・。

「ああ、すみません。お茶もお出しせずに・・・、親子の茶番に突き合わせてしまって、申し訳ありません」

 そう言いながら、体裁悪そうに振り向き、緋山先生は、一人掛けのソファーに、腰掛けた。

「いえ、それは、大丈夫なんですけど・・・あの、その・・・」
「まあ・・・、病院を継ぐという気持ちはあるようで・・・」
「勿論です。お父さん」
「生半可なことで、できることではないぞ」
「はい、頑張ります」
「じゃあ、あの・・・」
「すみません。羽奈賀さん。あなたも、妻に頼まれてきたのでしょう?息子の進路について、私に許可をと・・・」
「あ、まあ、はい・・・」
「いつも、狡いんですよ。そういうやり口で・・・」

 やっぱり、そんな感じなのかなあ・・・。
 でも、これって、なんか、奥さんとの現役感を感じてしまうんだけど・・・。また、脚本家は勘ぐってしまうよねえ。

 立場弱いんだあ。お金持ちの家の娘さんみたいだったしなあ。うちの本家と取引があったようなことも言ってたしなあ。

 とにかく、上手くいったかあ。
 よっしゃあ、これで、明日のミズキ飲料の撮影、芽実ちゃんと秦素臣くんのやつ、オッケーになったなあ。やったあ。

✨💻✨


「お母さん、見て、見てー、ほら、CM、来たー」
「どれどれ?あらー、本当だわあ。レインボー戦隊の子じゃない」
「そうそう、秦くんだよー」

 あー、よかったあ。無事、良いCMに仕上がってるじゃんか。

 と、俺は、今夜も、卯月家の食卓にお邪魔しております。

 今夜は、鶏のから揚げと、マカロニサラダ、きゅうりの浅漬け、豆腐の味噌汁、煮物が並んでいる。和洋食ディナーだあ、やったぜぇ・・・。

「おかわり、遠慮しないでくださいね。萩さん」
「ああ、はい。いつも、ありがとうございます」

 あれ?そういえば、朱莉ちゃんは?
 ああ、そうかあ・・・その件が残ってたなあ・・・。
 あ、電話だ。ああ、神崎さんだぁ。
 俺、今、箸、持った途端だっつうのに・・・!!

「あ、はい、羽奈賀です。今回は、まあ、色々とありましたが、一応、脚本の方、間に合ってますよね。・・・え、神崎さん?なんか、ちょっと、声、変じゃないっすか?・・・ああ、はい、風邪?気を付けてくださいよ。はいはい、解りました。明日、渡せば、間に合いますよね?はい、明日、こちらに立ち寄りますか?わかりました。玄関先で渡すんで、いいですよね?はい。はい。じゃあ、明日、朝、・・・いいですよ。8時?大丈夫ですか?そんなに早くて?ああ、そうなんですね。ロケハンに行く途中?はいはい。わかりました。はい、どーもー・・・」

 まあ、大変だなあ。神崎さんも。多分、どうしても、自分で見ておきたいところがあるんだろうなあ。俺がオーダー出してる所もあるけど・・・。撮影場所、見つけてきてくれるの、スタッフさんたちだしねー。

 つまりは、撮影がいよいよ、本格的に動き出すってことですね。よしよし。あ、そうだ。朱莉ちゃんのこと。

「あの、朱莉ちゃんは・・・?」
「・・・お姉ちゃん、不貞腐れてるというか、萩さんにも謝りたいんだけど、降りてくるのが、恥ずかしいんだか・・・」
「ああ・・・拗らせちゃってるのかな?・・・まあ、でも、俺、もう、大丈夫だったしさ。何とも思ってないから、って、そう言ってくれないかな?芽実ちゃんから・・・」
「うん・・・」
「萩さん、おかわりは?」
「あ、はい・・・お願いします」

 奥さん、何気に、お茶碗に、ご飯よそってくれて・・・そういえば、お茶碗が大きくなっている気がするんだけど、まあ、いいか。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「んー、まあ、でも、芽実が出かけてる時にね、降りてきて、この萩さんの大きなお茶碗で、ご飯食べてるから、まあ、大丈夫でしょう」
「そうなの?お母さん」
「うん・・・まあ、ちょっとね、プライドが高いというか、誰に似たのかしらね?」
「お爺ちゃんだって、お父さんが言ってたよー」
「そうなのかしらねえ?」

 奥さん、というか、お母さん、なんというか、大らか、なんですねえ。
 不倫して、別れて、会社まで辞めてきて、本当に、大丈夫なのかな?

「心配そうなお顔してますね。萩さん」
「あ、まあ、・・・そうですね・・・朱莉ちゃん、真面目なお嬢さんだし・・・」
「そうなのよねえ、真面目が、あんな風になったからねえ、仕方なかったのでしょうけれど・・・まあ、大丈夫よ」
「お母さん、暢気すぎるぅ」
「んふふ、お姉ちゃんって、ずっと、そうだったじゃない?一生懸命やってきたのに、上手く行かなかったとき、色々とものを捨てたり、ご飯やけ食いしたり、私もね、最初はびっくりしたのだけれどもね、お父さんがやらせとけって、言ったのよ。気が済むまでやったら、元通りに戻るからって」
「へえー、初めて聞いたよ、それ」
「うん、割に、幼稚園とか、小学校の頃ぐらいまでだったのね」

 へえ、そうなのか。つまりは、以来、大きな失敗はなかった。その後は、比較的、順調だったってことかな?

「芽実に当たろうとした時があったのね、その時は、流石に止めたのよ」
「そうかあ、お姉ちゃんが、運動会のリレーで転んだ時、悔し泣き、ずっとしてたのは覚えてる・・・私の所為で負けちゃったって、・・・そんな感じかなあ・・・」

 微妙に違うかもしれないけど、結果的には、そうなのかもしれないな。

「その時が、最後だったかしらね?多分」
「そっかあ、ふーん」
「いくらかね、長患いで、数日くよくよしてるけど、立ち直りますから、大丈夫ですよ」
「ああ、だったら、いいんですけど・・・」
「今、芽実のCMとか、ダメかな」
「ん、降りてきたら、大丈夫だから、自然にしてれば、いいと思う」

 流石、お母さんだなあ。朱莉ちゃんのことを信頼してるんだなあ。

「まあね、恋の痛みは、話を読んでも、身につかないからって、よく、あの人が言ってたわ」

 えーと、誰だったっけなあ、そんなこと、言ってたの。
 まあ、確かにそうですな。
 あああ、また、艶肌に行きそうになるけど・・・その所為で、今回、ごちゃごちゃしたんだよなあ。もう、そんな暇はないから、とにかく、朱莉ちゃんには、自力更生してもらうしかないなぁ・・・。

 おっ、これで、ひとまず、絡まった糸は、解けましたかな?
 ああ、良かったあ。

 今日も、美味しいご飯、御馳走様でした。
 続きの脚本、やっつけるとしますか。
 どうか、明日は、トラブルが、ありませんように。

                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 萩くんのお仕事 第十二話

 ご無沙汰致しました。萩くんのお仕事 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 どうやら、萩くんの周り、仕事以外の面倒事トラブルは終わったようですね。・・・に見えましたが。

 次回は、いかなることやら・・・。いよいよ、撮影が開始するようですね。お楽しみになさってくださいね。

 このお話の纏め読みは、こちらから、一応、コメディ風ではあります。
 萩くん、毎回、何かしらのトラブルに巻き込まれまくっております。
 振り返ってみると、今回に繋がってきますので、お勧めです👍


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