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機織りと「もやい直し」

浮浪雲工房で初めて綿繰機、糸車、織機を見て、私は大興奮してしまった。小さい頃、大熊町図書館でよくDVD を借りて見ていたトミー・デ・パオラという絵本作家の『チャーリーの赤いマント』というお話がある。羊飼いの男の子が自分のマントを作るのに、羊の毛を剃り、その毛で糸を紡ぎ、木の実で赤色に染め、織機を使って素敵な赤色のマントを完成させるお話。その工程がたんたんと描かれているお話なのだが、何かとても惹かれるものがあった。全部手作業でマント1着を作るのに季節を跨ぐくらい長い時間がかかってしまうなんて大変だなあと思ったり、つるっぱげになってしまった羊も冬になるとまたモコモコの毛を生やしていて、そこに何か循環するものを感じたり、自然にあるものだけでこんなにステキなマントを作ることができるんだと感動した記憶がある。それを実際にやっている方にお会いすることができたのだ!金刺宏子さんは、春に綿の種を蒔くところから始めているそうだ。私が工房を訪ねたときには、その綿についている虫を自分の手で取りながら(そしてその虫がどんな虫なのかを自分たちで調べながら)大切に育てていた。見ているだけで気が遠くなるような作業だなと正直思ってしまった。宏子さんが育てていたのは、綿が下向きになるアジア綿。繊維が短いため機械紡績には不向きだと、近代化のなかで使われなくなっていったそうだ。でも、アジア綿は高温多湿のアジアの気候に向いており、しっかりとしたふくらみがあるそうだ。何かを作り出すために育てられるものも近代化の影響を受けているのだなと改めて思った。
私がずっと織機を見ていると、宏子さんが「やってみる?」と言ってくださった。遠慮なく、綿繰りと糸紡ぎを体験させていただいた。綿繰りでは燃料を使ったり、排水・排気ガスなどを出さなくても、こんなにも簡単に種を取ることができるんだと感動した。次の日に体験した糸紡ぎは、まあ難しい(私が不器用すぎなこともあるけれど笑)!!宏子さんや私の友人は、いとも簡単にくるくると糸を紡いでいたが、私の糸は急に太くなったり細くなったり、きつくなったりゆるくなったり、ちぎれたり…まるで私の心の中みたいだなぁとか思いながら、夢中になって糸紡ぎをしていた。下の写真は織機にぶら下がっていた、潤平さんが作った和紙を使った灯り。普通の電気よりも光がとっても優しくて、心を落ち着けて機織りができそう。私が勉強する部屋にも欲しい…。

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水俣に来てから「もやい直し」という言葉をよく耳にした。「もやい」とは、もともと、舟がバラバラにならないように舟と舟を繋いでおくことを意味するそうだ。水俣病事件が起きたことでバラバラになってしまった自然と人間、人間と人間を繋ぎ直すこと。これを「もやい直し」と言うそうだ。工房から宿泊先に移動する車の中で、潤平さんが次のようにおっしゃっていたのが心に残っている。
「『もやい直し』という言葉があるけど、それは一本の糸が切れてしまったのを頑張って結び直すのではなくて、水俣では何本もの糸が折り重なっていてその一部が切れてしまっているだけ。だから、きっと修復していくことができる」
潤平さんたちの工房は、この「もやい直し」のことを教えてもらえる場所だなと私は思った。一本一本の糸は色んな色に染まることができて、それらは太かったり細かったり、強かったり弱かったりする。でもそれらが折り(織り)重なり合えば、力強いものが生み出される。一本だけではなく折り重なっているから、どこかが解けそうになっても色んな方向から差し伸べられる手がある。そして、宏子さんもおっしゃっていたように、例え一本一本がデコボコしていても、一つになるとそれが味だったりする。工房を見学させていただいて、そして綿繰り・糸紡ぎを体験させていただいて、自然から生まれるものが人間たちが持つことのできる優しさとか、誰か・何かとの繋がりを思い出させてくれている感じがした。何だか自分が何を言ってるのか分からないな…笑。勝手にそんな妄想を繰り広げて、すっかり機織りの虜になってしまった。


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