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10年間海を漂ったボトルメールのようなデザインの話

昨年の夏、嬉しい再会を果たした。

話は今から11年前に遡る。

2007年8月。
当時20歳だった僕は、大学3年の夏休みを利用して1ヵ月間インドを旅した。

暗闇と、危うい空気を孕むオレンジ色のライトが溶け合う夜明け前。
到着したインディラ・ガンディー国際空港で一緒に降り立った日本人乗客のうちの1人に彼女はいた。
互いに学生だとひと目見理解した僕たちは他の学生数人と一緒に到着ロビーで夜明けを待つことにした。

そして同世代の日本人に囲まれている安心感は、僕から危機感と責任感を奪い、明るくなるまで1人無責任に眠った(らしい)。

日が昇り、意外と爽やかで過ごしやすい夏の気候の中、一行はそれぞれリクシャーに乗り込むと空港を後にしデリー市内へと向かった。僕はウェス・モンゴメリを敬愛する男と行動を共にすることにした。
この後僕ら2人は、リクシャーの親父とぼったくり旅行会社にまんまとはめられ(独立記念日前後だから早くデリーから出た方が身のためだとかなんとか)タクシーでアーグラーまで行きデラックスホテル(言うほどデラックスではない)に一泊、観光の後、寝台列車でバナーラスへ、というデラックスなツーリストプランを組まれ二晩共にすることになる。(朝別れた彼女たちも同じような旅程を経たことを後に知った)

2日間のツアーを共に生き抜いたウェス・モンゴメリを敬愛する男ともとっくに別れ、ガンジス川にも飽きてきた頃、偶然にも彼女に再会した。
バナーラスの牛たちと共に歩きながら20分ほど話した。彼女はあと3日で帰国するらしい。

「健太くんの夢は何?」
「目標は有名なグラフィックデザイナーになること。そして人の心や行動を良い方向に導くデザインを生み出して社会を少しずつ良くすること。君は?」
こんな会話を交わしたかは定かでないが、たぶんした。
見栄っ張りでカッコつけなぼくは、耳が赤く火照るような、でも本当にそう思っていたであろう非常にざっくりとした大きな夢を、通りすがりの人に語るように無責任に語ったに違いない。

そして互いの健闘を祈り、出会いに感謝し別れた。

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それから10年後、つまりこの話の冒頭に戻る。
現在、幸いなことに僕はプロのグラフィックデザイナーとして働いている。
夢を語ってから10年経った昨年の夏、彼女からFacebookメッセンジャー経由でメッセージが届いた。

彼女は食に携わるプロフェッショナルとなり、会社の仕事を終えてからの自分の時間に『calm』というブランドを立ち上げ、オリジナルコーディアルシロップを作っていた。
そのシロップのパッケージデザインをしてくれないかとのことだった。
僕は二つ返事で快諾し、後日打ち合わせの為に新宿の酒場で10年ぶりの再会を待った。

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10年前よりも勢いと説得力を増した声色で話す彼女のビジョンと願いは明確だった。

「口にすることで癒しや希望がもたらされ、人々が平穏な日々を過ごせるようなシロップをつくること。これがcalmの使命。」

シロップについての、つまりはお仕事の話と10年の間に起きた身の上話、そして10年前の出来事をツマミに楽しい酒を飲んだ。

「この人だけめっちゃ寝てるけど大丈夫かな? なかなか起きようとしないし、普通この状況で女子差し置いて朝まで寝る?って思った(笑)。しっかりして!(笑)って。」初日の僕の行動と印象について彼女は言った。それを聞くまで自分が我先に寝てたことすら覚えていなかった。睡魔は危機感も責任感も、そして記憶をもごっそりと奪うようだ。

いいものをつくろうとお互い誓い帰路についた。

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コンセプトが明確なため、デザインすべきものは早々に頭の中で整理できた。

彼女の最初のアイデアはボトルにタグを付けるというものだった。
だが予算を考えるともっと適したアイデアがあると思った。
僕は、細長いステッカーにフレーバー名・そこに込められたテーマをレイアウトし、ボトルを覆うように貼るというシンプルなパッケージを提案した。
ステッカーをボトル正面、キャップ、ボトル背面へと縦方向に貼ることで封印の機能も同時に実現できる。
細長い形状は面積が少なくなりコスト減につながる上、パッケージされたボトル全体をさらに優美に魅せることが出来る。

そして“彼女の願い”を表現するには“彼女自身による手書き”が最適解だと確信した。
“音楽やリズム”を感じされる彼女の独特なハンドレタリングには何度も惚れ惚れした。(何度も書き直してくれてありがとう!)

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デザインの本質の1つは整理整頓だ。

デザイナーは絡んだ糸をほぐし、交通整理した上で相手の望むビジョンに+αし、自らとクライアント、互いの目標のジャンプアップを図り、あるべき姿に落とし込む。

・予算含め合理的なパッケージの形を探ること
・手書きであること
・手書きの勢いと調和する書体を選び、適切にレイアウトすること

完成されている彼女の美学を、より人々に愛されるよう適切にディレクションし、彼女の想いをラベルに託し伝えること。これが今回与えられた僕の仕事だった。

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既に99%完成されていたシロップ。
残りの1%をデザインし、100%にする。
そのシロップのキャラクターに1番似合うドレスを着せてあげるように。

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頂いたシロップを毎朝飲んでいたが、本当に心安らぎ生きる活力がみなぎる、とても美味しいシロップだ。

そして現在、東京都渋谷区のTHE MOTT HOUSE TOKYOでも店頭販売されている。

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「どんな事をしていきたいのか?って改めて考えた時、小さな事でもいいから、自分の好きな人達に関わってもらえたら、私はそれを大事にしていける。だから、デザインも知らない人ではなくてけんた君にお願いしたい!って、実はだいぶ前から思ってたんだよね。」と彼女は言った。
とても大事なことだと思った。
こうやって少しづつ素敵なコトやモノが生まれていけばいいなあと思った。

10年前語った(かもしれない)目標は、少しずつだが着実に(有名かはさておき…)、僕と周りの人の生きる世界を少しだけ良いものに変えていけていると信じている。

デザインの仕事はいろいろとあるが、今回は10年という特別な時間軸が加わった。

同じ場所で同じ時をほんの少しの間だが共有し、10年の時を経て、いいものを作るという使命のもと再会するということは、人生においてなんて素敵なことなのだろうと素直に思った。





最後までお読みいただきどうもありがとうございます。