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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)⑲

  ショップバッグを提げた信二郎がナナミに再び近づく。

「諸君、私は自分の欲しいものを手に入れた。早速帰って聴こうと思う」「待て、待て」ナナミが怒りを込めた口調で返した。

「あなたのそういう所、理解してるつもりだったけどさ。」ため息も混じる。

「今回は引き下がれないわ、私たちにも聴かせなさい、そのバート…」

「ヤンシュ」カズマサが付け加える。

 一瞬眉をしかめた信二郎だったが、すぐに元の表情に戻り、その後少し考え込むような仕草をした。少し演技がかっているようにも見える。その視線はナナミではなく信二郎に向けられている。

「ふむ、そうだな、それも良いかもしれない」「そうよ、私たちにはそのレコードを聴く権利があるわ」

何の根拠もない権利だと思ったが、カズマサは黙ったまま俯いた。

「わかった、了承しよう。カズマサ君、君は聴いてみたいか?」

驚きながらも答える「はい、とても興味があります」

「そうか、わかった」

「なんかワタシに聞かないところが釈然としないけど、ま。いいわ、じゃ行きましょ」

「え、行くって、何処へ?」

「決まってるじゃない、信ちゃんの家よ、みんなで聴くんだから」

「え、あ、ここでじゃなくて?」

あまりの展開にカズマサの思考が追いつかない。

「いや、ちょっと待ってよ、そんな、悪いよ」

「いや、構わない」

ナナミはともかく信二郎の口から出た言葉に驚く。もしかしたら自分という人間に興味があるのかもしれない、先程の反応と共にカズマサはそんな風にも考えた。

「じゃあ決まりね。兄貴早く袋に入れて」

「あのさ、まだお金もらってないんだが?」


 三人で店を出て歩き出す。傍から見てもこの三者は不思議な組み合わせだろう。強盗に行くようにも見えないし、ましてバンドメンバーなんかにも見えない。カズマサの数歩先をナナミと信二郎が並んで歩く。二人の歩幅は広く、カズマサは少しだけ急ぎ足になる。二人が話すときにはナナミが少しだけ信二郎を見上げることになる。その姿はとても様になっていて、カズマサにはなんだか、自分だけ違う世界の人間のように思えた。

 信二郎の自宅はレコードショップから五分もかからなかった。ただ自宅に着いたとカズマサが知ったのは、自宅に辿り着いてから数分後だった。カズマサは気づかずに信二郎の家の外壁に面した道を歩いていた。そう、信二郎の家は少なく見積もっても豪邸と言ってよかった。たとえ控えめに言っても豪邸としか表現できない類のものだ。

 信二郎には失礼かもしれないが、カズマサにはとても彼の家とは思えなかった。見た目で人を判断すべきではないが、彼の風貌はどう控えめに言ってもアルバイトをしている売れないミュージシャンのようにしか見えない。実際ナナミも彼のことをミュージシャンだと言っていた。この豪邸を見て驚いているのはカズマサだけだ。家主の信二郎はともかくナナミも全く驚く様子はなく、それはつまりここに来ること自体がお馴染みだということであった。カズマサの様子に気がついたナナミがカズマサに言う。

「ねぇ、今、ここが本当に信ちゃんの家なのかって思ってるでしょ」

「え、いや、そんなことは・・」

「なんでこんな売れないミュージシャンみたいな人がこんな大きな家にって思ってるでしょ」クスクス笑いながらカズマサを責める。図星すぎる問いに思わず言葉を失う。

「図星だぁー。でも大丈夫、みんな思うことだから」

「え、あ、いや、うん」少しほっとする。

「なんで信ちゃんがこんな大きな家に住んでるかっていうとねー」

「ナナミ」

信二郎が静止する。

「え、何、駄目なの?いいじゃん別にー」

「話す時がきたら私から伝える」

「はーい」

ナナミは少し残念そうにしながらも素直に従い引き下がった。(続く)

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ありがとー!
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すぱのば

小説を書きたくて、書き上げたくて、満足したくて、誰かに見てほしくて、誰かに褒めてほしくて、誰かに認められたくて、誰かから反応が欲しくて、noteをはじめました。よろしくお願いします。
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