すらすら会計ができる人になれたお話。第1話。

ごく普通の銀行員でした。

預金集めとか住宅ローンとかが長くて、法人融資は2年ちょっとやったくらい。

特に自分から希望を出したわけじゃないのですが、何の因果か経理部門に放り込まれました。

事前に会計の勉強や研修を受けていたわけじゃありませんし、大学は文学部でドイツ史専攻でしたので・・

さて、そんな私ですが、なぜか今は「すら先生」などとも呼ばれる、すらすら会計ができる人に成り上がってしまったのです…

まだ過去の思い出を美化して懐かしむような年ではないのかもしれませんが、ちょっとだけ書いてみようと思います。

会計といえば簿記なのでしょうが、銀行では借方貸方という言葉はあまり使われていません。

出金・入金といいます。出金=借方ですが、これは預金者の目線で預金を引き出すことから来ています。預金は銀行のバランスシートでは負債ですね。預金者がお金を引き出すと預金が減少しますから、出金伝票=借方で負債の減少。

この意味がわかったのは、ずいぶん経ってからになります。入金は貸方伝票ですね。預金者がお金を預け入れすると預金が増加して銀行の負債が増加することになりますね。

経理部門、銀行では主計という用語で呼ばれます。主計って軍隊用語なのでしょうか?あまり一般的な言葉ではないのかも。

そこに放り込まれた私ですが、転勤してきてしばらくしたら、決算というものが始まりました。今みたいにデータを抽出してきてペタペタ貼ってポチッとシステムが集計してくれるような仕組みは存在しません・・ひたすら紙、手入力、電卓ガシガシです。

決算が始まると各支店(営業拠点)からFAXで伝票を作るための資料が送信されてきます。それを前のを見ながらひたすらチェックで。

そうやって数日かかりで伝票の元数字を作って入力させて、締め上げすると電算センターから厚さ50センチくらいの元帳が紙で出力されるのでクルマで取りに行きます。

それを営業拠点の分と本部ので2回繰り返し最後に税金の伝票を入れて最後の当期純利益まで出します。

今はもう使いませんけど、当期純利益まで出して決算を締め上げするのを「ケツを合わせる」と呼んでました。最終利益をお尻というのは今でも使う業界はあるのでしょうか…

さてさて、ケツを合わせると会計監査というものが始まります。この仕事をするようになって公認会計士という職業の人に初めて会って話をしました。

公認会計士というのは、難しい試験に合格した人達で先生と呼ばれてました。監査に使っている部屋は紙の資料が山積みなのとタバコの煙で空気が悪くてゲホゲホです。

監査は2週間くらい続くのですが、いちばん下の私は会計士に呼ばれてほぼ一日中、監査の質問事項の対応です。

この数字の意味は?

これどういう取引??

エビください!🦐🦞🦐

なお、エビというのは数字の根拠になる請求書とか伝票のコピーとか社内稟議の写しとかです・・

というのを、借方貸方というもロクに知らない私がぜんぶ受けて「この人が知っているのかな?」という人にあたりをつけて電話して聞いて、また答えとエビを持って会計士に説明して・・というのを繰り返して。

ちなみに銀行の内部の人は、ほぼ何も引き継ぎも研修もしてくれません。今思うに、自分でも理解していないので教えてくれなかったのだと思います…

そういう状態でいきなり実戦ですから、「ひのきのぼう」でキラーマシーンと戦うイメージでしょうか。監査の質問の答えを求めて、あたりをつけて電話したら全然違う担当で怒られてしまったり、そんなの答える必要ないよねとか、お前が全部やればいいだろとか言われたり。

いろいろ理不尽な目にあわされて疲弊していきつつも。

そんな無謀な戦いを繰り返していくうちに、社内のどこに何のデータがあってどうやってお金が流れていくのか、この人はどういう情報を持っているのか少しずつわかるようになっていきましたが。

監査が終わると決算短信の準備です。

またしても、よくわからないのにひたすら作れと言われてプチプチ入力していきますが、当時は完全手作りエクセルシートが50〜60枚くらいあったような…

当時は時間外管理とかめちゃくちゃですから、深夜残業も続くし土日も休みがないしでよく死なないで生き延びたなあと。

決算短信を開示し終わるととりあえず一区切りでホッと解放感があった記憶です。まだ四半期決算はなかった時代なので、半年毎でしたが。

短信が終わると次は有価証券報告書です。当時は入力システムとかありません。ぜんぶ手作り!

前年度のデータを紙で吐き出してそこに赤ペンで今年の数字を書き入れて、短信から切り抜きした表を糊で貼り付けて東京の印刷会社に宅急便で送って。

作ってもらった原稿が送り返されてきたらまた赤ペンチェックして・・というのを何度も繰り返して。最後の方の校正はFAXだったかもしれません。

私のときはEDINETの電子提出が始まりつつあった頃で、さいたまの関東財務局まで有価証券報告書を出してくるというのは未経験ですが・・

こんなめちゃくちゃを3年くらいやっていくうちに、ちょっとづつ数字とかそれぞれの会計ルールとか短信や有価証券報告書に書いてあることの意味がわかってきました。

とにかく社内の人からは教えもらえない(教える能力も知識もない)ので、戦いながら自力救済で鍛えていく感じで方向性も効率も見当違いの連続だったようですが・・

続きます。


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