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ジェーン・エア  C・ブロンテ著

家に「ジェーン・エア」が3冊あります。
 何故、3冊かと言うと、間違って最初に下巻を2冊買ってしまったからです。自分の迂闊さにムカつきました。再度ブックオフに行って上巻を買って来ました。
 最近は専らブックオフです。たまに行って大量に購入してきます。基本的に購入した本は処分しないので、どんどん増えて行きます。
 買って読もうと思って、そのまま忘れてしまい、また同じ本を買う事もあります。 (これ、あるあるですね。(笑))
 『デューン 砂の惑星 1』は何故か3冊あるんですよね・・・。どうしてだろう・・・?
 
 余談ですが、数年前に『嵐が丘』を読み返し、登場人物達のテンションの高さに改めて驚きました。感情が激し過ぎる。この人達生きてて疲れないのかなと思いました。
とても演劇的な物語だと思います。その内『ジェーン・エア』も読み返そうと思っていました。

 さて、「ジェーン・エア」です。
 有名なブロンテ姉妹の姉、シャーロットの作品です。
 妹のエミリ・ブロンテは『嵐が丘』を書いていますね。
 同じく妹のアンは『ワイルドフェル屋敷の人々」を書いています。(これは読んでいません)

 訳者による解説では、シャーロットは1816年、北部イングランドの寒村に生まれたとあります。彼女は家庭的に恵まれた女性では無かったようです。
 6歳の時に母を失い、兄弟姉妹も次々に亡くなり、1854年に牧師と結婚をしたが、その翌年に病の為に亡くなったとあります。38歳でした。
 彼女の父は愛情深い人では無かった様です。なので、彼女の子供時代は寂しく満たされないものだったのでしょう。その寂しさを埋めたのが自然の美しさと彼女自身の想像力でした。彼女は自分の考えた物語の登場人物達といつも一緒にいたのでしょうね。

 私がこの本を読んだのは、10代の頃です。自然描写の美しさに魅了されました。イングランドの高地の風景が精緻にまた美しく描かれています。
 印象深いのはヒースの野です。同じ様にエミリーの書いた「嵐が丘」にもヒースの荒れ地が出て来ます。『嵐が丘』の方が荒涼感がより強く心に残ります。

 物語の主人公ジェーンは幼いころに両親を失い、母の兄に引き取られました。伯父はジェーンを可愛がってくれましたが、伯父が亡くなり、その妻(リード夫人)や従妹達は事有るごとにジェーンを厄介者扱いします。ジェーンは辛い日々を送りますが、保母のベッシイだけは彼女を愛してくれました。ジェーンは自分がもっと陽気で美しく愛想がよくて単純だったら、彼らも自分をもっと受け入れてくれたと感じます。けれど、彼女は自分がそんな子供で無い事を知っています。
 彼女は正しいと思う事を貫く強さがありました。単純でも弱い子供でも無かったのです。
 自分の意に沿わないジェーンを持て余したリード夫人はジェーンを寄宿舎の付いたローウッド学校に入れてしまします。そこがまた酷い環境なのです。管理者のブロックルハーストは酷薄でケチで薄っぺらな人間です。生徒達にはぎりぎりまでの節約と質素を要求して置きながら、自分の家族は豪華に飾り立てます。
 身寄りのない子供達も沢山いるその学校は栄養状態も悪いし、衛生状態も悪い場所で、亡くなる子供達もいました。湿気の多い森の中の谷間に位置し、チフスが流行して何人もの少女達が亡くなります。しかし、どんなに劣悪な環境であってもジェーンは強い意志と信仰の力でそれを乗り越えて行きます。
 その学校での心の支えは年上の友人のヘレンと温情厚いテンプル先生でした。
 信心深いヘレンと過ごす事によりジェーンは信仰に付いて深く考える様になります。しかしヘレンもその学校で亡くなってしまいます。

 成長したジェーンはそこで学んだことをもとに家庭教師をする事にしました。で、彼女を雇ってくれたのが貴族であるロチェスター氏です。
 ロチェスター氏は随分年上ですが、ジェーンは彼に魅かれて行きます。そしてロチェスターもジェーンの一風変わった性格、率直さや賢さ、飾り気のない態度に魅かれて行きます。

 身分違いの恋ですが、ロチェスターはジェーンに結婚を申し込みます。ジェーンは天にも登る気持ちでそれを受けたのですが・・。

 実は彼には恐ろしい秘密があったのです。
 秘密はロチェスターの館に隠されていて、時折、ジェーンにも、その片鱗を感じる事は出来たのですが・・。
 秘密については本の表紙に書いてあるので、すぐに分かります。(笑)

 読んで強く感じたのは、これは全くキリスト教的な(プロテスタント的な)物語だという事です。
 罪と罰。贖罪の後に訪れる許しと福音。
 そのルートに従って物語は展開します。物語の後半はやはり演劇的だと思いました。

 この物語を貫いているのは『信仰』です。
それもジェーンが真摯に考え、辿り着いた『信仰』です。
それは堅実で深く彼女はそれに身を捧げる事も厭いません。
彼女は辛かろうが苦しかろうが、その『信仰』から外れた道を歩むことは出来ません。
きっと同じような人達が沢山いたのでしょうね。
当時のイギリスには。(勿論、今も)

彼女は自分の内なる声に従って生きて行きます。
だが、しかし、そんな彼女も死ぬほど悩んだ事がありました。
それは自分が尊敬する従兄のジョンの申し出です。
彼はイケメンという設定です。
(ジェーンは面食いでは無いので、あまり関係がありませんが)

ジョンはジェーンに結婚を強要します。何故ならそれが神の意思だという強い信念があるからです。愛では無く、神への義務の為に自分と結婚をするべきだと迫ります。
神への義務の為に自分と一緒に異国へ伝道に行くべきだと。それが神の意思であり君の幸せだと。そこにジェーンとジョンの男女愛は必要無いらしい。

何なの?このヒト。
と思う訳ですよ。確固たる『信仰』など無い私共は。
何、言っちゃってんの?
手前勝手な理屈を言っちゃてさ。
人権無視じゃん?
独りでさっさと行けよ。
でも、彼はそれは神の意思だと本当に思い込んでいる。だから、迷い無しです。

ジェーンは危うく頷きそうになりますが、そこで神の奇跡(?)が起きます。
信仰ってすごいなあ・・・・と思いましたよ。読み終わって。
そりゃあ、魔女裁判だって起きるでしょうよ。

そしてこの本のもうひとつの魅力は先に述べた様に自然描写の見事さです。
それは神が与えてくれた自然の美しさなのでしょうね。
例の如く、一部を挙げましょう。

ー 褐色の花壇には一面に緑の草花が芽生え、日に日に新鮮になって行くのを見ると、夜、「希望」がそこを通り過ぎ、朝になると日増しに美しくなる足跡をそこに残して行くのかと思われた。
雪の下、サフラン、紫色の桜草、黄金色の目をした三色菫など、花々が葉っぱの間から顔を覗かせていた。・・・ー
『ジェーン・エア 新潮文庫  C・ブロンテ 大久保康雄訳』
きっと訳文の素晴らしさもあるのでしょうね。

そして何よりもジェーンと言う主人公の情熱、心の強さと正義感です。
揺るぎない。
この物語を生き生きと動かしているのは、華美や虚飾や嘘とは無縁の、ジェーンの人間としての強さと情熱なのだろうなと思います。

 

 この本が世の中に出た時には大評判になったそうです。「良家の子女に読ませてはいけない」とも言われたそうです。伝統と真っ向から対立して、愛と自由を求める新しい女性像と表書きにはあります。

 ストーリーの中でロチェスターが変装したりする、変な場面もありますが・・・(好きな人がこんな事をしたら完全に引くと思う)1800年代初期のイギリスの田舎の風景を眺めながら、恋愛&信仰の物語を楽しんでみてください。

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