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【演奏会】耳で聞かない音楽会2019


耳で聞かない音楽会 2019

落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団×ビジュアルデザインスタジオWOWによる音楽会が今年も開催された。

17世紀から続くオーケストラに、現代の技術を楽器として組み込むことで新しいアプローチを試みている。
そしてこの演奏会のポイントは、ろう者の方々でも楽しめるよう触覚・視覚にアプローチするデバイス(ステージ背後の巨大ディスプレイ、Sound Hug、Ontena)を導入しているところ。
音楽を聴覚以外で楽しむための仕掛けがふんだんに仕込まれている。

◇開演前


ロビーでヴァイオリンの試奏ができるということでクラシック楽器に触れてみたかった僕は思いっきり食いついてしまった。
フレットがないため音階のコントロールがとても感覚的、構え方がギターと違うのでそれらと指のコントロールに使う筋肉も変わってくる。

◇開演後
・ジョンケージの4:33と剣の舞のエアオーケストラの組み合わせ。

最初呆気にとられたが、面白いのは指揮と楽器の動き、息遣いに集中すると音が無くても何の曲か分かった。あの動きを見ているときの集中力は結構なものだったと思う。
ろう者の方がYoutubeでオーケストラを鑑賞するときはこんな体験なのか。

その後、映像つきによる「剣の舞」の演奏。

・カノン/パッヘルベル


二日に一回は聴いているような好きな曲。
ひたすらに映像が美しかった。クリスタルを透して見える光が穏やかに光の角度と色を変えて煌めいている。心地いい。

・タイプライター/ルロイ・ アンダーソン
タイプライターを楽器としたアメリカの現代作曲家の曲。

落合さんがタイプライターを弾く試奏あり、事前にスマホにインストールしておいた。
タイプライターアプリ(それもトム=ハンクス開発!)で観客も一緒に演奏。
最後には日フィルによるフル演奏。
何気ない物から音楽を、一体となって作る、原始的な音楽の在り方を感じた。

・サンドペーパーバレエ/ルロイ・ アンダーソン
今度はサンドペーパーを用いた作品。
事前にパンフと共に配られたサンドペーパーを用いてこちらも観客と合同演奏。

・インタミ ロビーでパーカッションの方々による観客を巻き込んだハンドクラップパフォーマンス
パーカッショニストの指示を受けるときの集中力。ここにも原始的な音楽の在り方が。

・動物の謝肉祭/カミーユ・サンサーンス


あらゆる動物をモチーフに、周囲の人間を皮肉って音にしたという作品。
映像は各動物が登場し、音と共に動く形式。
「白鳥」でひたすら波を眺める気持ちよさ。

昨年の変態する音楽会では圧倒的映像美でオケの上からぶん殴ってくる印象だった。
今回はオケと映像の距離感をもの凄く模索したのが伝わってきた。
去年は縦長だったディスプレイが横長になりオーケストラとの一体感が出ていた。
映像は派手すぎず、映像に噛り付くことなく全体をとらえられた。
(あのファランドールと圧倒的映像美でバコーンとぶん殴ってくる感覚もめっちゃ好きで、映像に振ってるという交錯する音楽会への楽しみも膨らむ)


クラシック音楽は時として高尚な空気に酔いしれる衒学的な世界観に陥ってしまうが、今回は音と距離がとても近い演奏会だった。
映像がある。試奏がある。道具を使って原始的な感覚で音を楽しむ。ハンドクラップでコミュニケーションを取る。ろう者の方も触覚と視覚を用いて新たなアプローチで楽しめる。


音だけの世界は、その世界の言語が理解できる者には通じるが、それ以外の人々にはとても障壁があるんだろう。
モチーフが音に変換されて、その音が映像や触覚に変換される、そのループがこの演奏会には仕組まれていた。

映像やデバイスは資本がないと取れないアプローチだが、それ以外の方法で皆で作り上げる演奏はなんだか暖かみのある演奏会に感じて、合唱を趣味としてクラシック音楽をかじる者の端くれとして、現代においての演奏会の在り方を落ち着いて考えるいい機会になった。

来週の交錯する音楽会ではよりアート的なアプローチに振られるらしい。実に楽しみ。

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