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ライカにCanonのオールドレンズ | Serenar 50mm F1.8という選択

先月の始め、僕のもとにちょっと変わったDMが届きました。

「ワタナベさんに使ってもらいたいオールドレンズがあるんです」

不思議な内容ですが本当の話です。

メッセージの送り主は普段からSNSで交流のある方。話を聞いてみると、こんな理由があるとわかりました。

・フィルムライカは素晴らしい。ウェブにはたくさんの情報や作例がある

・ただ、ライカはボディもレンズも高く、ライカに手を出せない人もいる

・そこで注目してもらいたいのが、非純正レンズ。手に入れやすく質の良いライカL/Mマウントレンズは存在している

・純正に比べ極端に情報が少ないそれらのレンズの素晴らしさが広まることで、ライカへのハードルはぐっと下がるはず

・手持ちのレンズを貸すからそれで写真を撮ってnoteを書いてほしい

要するに、オールドレンズのレビュー依頼です。

たしかに、フィルムライカの購入にはそれなりの初期投資が必要。 仮に中古カメラ店でボディ・レンズともライカで揃えるようとすれば、M型で15万円〜、バルナックで7〜8万円程度が相場ではないでしょうか。

ぼくが愛用している Summicron 50mm F2 1st(沈胴)もなかなか勇気のいるお値段です。

関連:Summicron 50mm F2 1st - ぼくが偏愛する沈胴ズミクロンのこと

さらに購入後はここにフィルム代や現像代などのランニングコストも乗ってくるわけで、手を出しにくいのも頷けます。 だからまずはライカのボディだけを買い、レンズはお手頃な非純正を合わせる。そのセットでしばらく撮影を楽しみ、ライカとのフィーリングが合えば純正レンズにステップアップしていく。

 今回提案するのは、そんな、フィルムライカの入門ルートです。



Serenar(Canon)50mm F1.8

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こんな経緯でぼくの手元にやってきたのがこのSerenar 50mm F1.8 I。ライカLマウントのオールドレンズです。

キヤノンの公式ページによると発売は1951年。リンクではSerenar(セレナー)と紹介されていて、注釈にもあるようにCanon銘とSerenar銘が混在しているようです。

このnoteでは公式ページに合わせてSerenarと呼ぶことにしましょう。

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金属鏡胴の仕上げが美しく、持ってみるとズッシリとした重みも。クラシックレンズと呼ぶにふさわしい雰囲気です。

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L/Mアダプタを噛ませてM3に装着。(バルナックライカにはそのまま付けられます)。M3のボディと比べると少し光沢感があります。前から見るとズミクロンを付けているようですね。似合う。

さて。

このセレナーとライカの純正レンズを比べるなら、年代的にもスペック的にもやはり初代ズミクロン(50mm F2)が妥当です。 

市場価格はセレナーが1〜2万円、ズミクロンが6〜12万円と大きな差がありますが、実はセレナーの方が開放F値は上なんですよね。ズミクロンより先に発売されたことを考えればすごいことです。

もしもこれでしっかり写るのであれば、セレナーはライカの入門レンンズとしてはかなり良いはず。

というわけで早速、カラーとモノクロのそれぞで撮影をしてきました。

Serenar 50mm F1.8とカラーフィルム

まずはカラーフィルムからです。

そもそもこの時代の主流はモノクロフィルム。コーティングの違い等から、こうしたオールドレンズでカラーを撮ること自体に少し条件が悪い部分があるでしょう。

例えば、ぼくの手持ちのズミクロン。比較用にまず写真を載せますが、よく言えばあっさり、悪く言えばコントラストが低めの写りになります。

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こんなふうに。

これはこれでオールドらしいアジと捉えることも出来るのですが、個人的にはカラーはもうちょっと鮮やかに写ってほしい。そのため、ズミクロンはもっぱらモノクロ専用にしています。

ではここからセレナー。カラーネガで撮るとこんなふうになりました。

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おぉ...!ずいぶんと鮮やか!

気象条件等は違うにせよ、ズミクロンに比べれば明らかにハイコントラスト。華やかさみたいなものも感じられて、より現代レンズに近い写りをしています。

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ムムム...いい感じだ。

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開放での解像感もなかなかで、ピントのきている面は木目がよく見えてます。すごいな。

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一方、弱点で言えばやはり最短撮影距離でしょうか。最短1mなのでテーブルフォトでは引ききれない場面が多くなります。

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あとは逆光時の耐性。上の写真はゴースト?下の写真はでは真ん中の植物のあたりにムラがあります。

とはいえ、最短撮影距離と逆光の弱さはズミクロンも一緒。というより、これはオールドレンズの宿命みたいなもの。どんなレンズでもこの問題はあるでしょうから、セレナーの弱点とするのもアンフェアかもしれません。

まずはカラーでの描写を見ましたが、正直に言えばカラー限定で使うならセレナーです。何倍も高いズミクロンを持っているぼくが言うんだから間違いありません...(涙)

Serenar(Canon)50mm F1.8とモノクロフィルム

では続いてモノクロフィルムでの撮影。モノクロの時代を生きたレンズにとってはこっちの描写でこそ真価が問われます。

こちらもまずは比較用に初代沈胴ズミクロンの写真を紹介します。言わずもがなですが、沈胴ズミクロンの本職もモノクロです。

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さすがによく写っています。解像感も立体感も個人的には文句の付けようがありません。M3にはこの初代ズミクロンを付けっぱなしでいいと思っているくらい。

(もう少し詳しく見たい方のために関連noteも貼っておきます)

関連:ILFORD HP5 PLUSというモノクロフィルムを試した

それではここからセレナーです。フィルムはコダックのTri-X、現像液も同じくコダック D-76を使っています。

現像データ
Kodak D-76(stock) 22℃ - 6分

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うん、セレナーも全然悪くない。シャドーの締まりや被写体の素材感もそれらしく出ています。

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スナップでもこんな感じに。大きな不足を感じることもなく、このレンズが2万円以下で手に入るなら十分じゃないかと思ってしまいました。

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写りであえて気になる部分をあげれば、遠くに写る建物の解像感や雲を写したときのグラデーション。このへんはズミクロンの方が上手というか、個人的に好きな写り方をしてくれる印象でした。

現像後のPhotoshopでの編集もズミクロンのときの方がしやすいと感じました。

(と、ここまで書いてから気づきましたが、セレナーはイエローフィルターなしで撮影していました。イエローフィルターはコントラストを高める効果があるので、もしかしたらそのありなしでも差が出ているのかもしれません)

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(ライカレンズ所有者としては悔しい)まとめ

というわけでご覧の通り、セレナーは普通に使えてしまいました。モノクロでの描写はお好みで、カラーではセレナーというのが結論でしょうか。

他に判断基準となりそうなところで言えばデザインと操作感。セレナーも全然悪くないのですが、M3につけたときのマッチングではやっぱりズミクロン。これは純正で合わせて開発しただろうから当たり前です。

操作感で気になったのは絞りリング。セレナーは幅が細く感触も固め。気になる人は気になるかなぁというレベルで違いを感じました。

(もちろんOHされた個体であれば、絞りリングの動きももっとスムーズな可能性もあります)

とはいえ、これだけ写るレンズが同時期のズミクロンの半額以下で買えてしまうのはお得というほかありません。最低でも5万円くらいは差があるので、コスパ良すぎだと思います。Canonが戦後まもない1951年にこれだけのレンズを発売したという歴史も胸熱です。

これからライカを買おうという方の選択肢としては間違いなくアリですし、気に入ればセレナーだけを使い続けても何も問題ないはず。バルナックにはマウントアダプターなしで付いちゃいますしね。オススメです。

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Mマウントでコスパ良し、といえばフォクトレンダー。COLOR SKOPAR 35mm F2.5 P IIもいいレンズです。

滑り込みで新レンズ。フォクトレンダー COLOR SKOPAR 35mm F2.5 P II
COLOR SKOPAR 35mm F2.5でスナップ初め

このSerenarやコシナのレンズならライカも少しだけ気軽に使えます。

「それでもライカ、でも安く!」という方にはズミタールなんかもいいかもしれません。

Summitar 5cm F2と歩く

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