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女子プロレス観戦記 #07 on 2023.05.13

Ⅰ:はじまりは「田村様とタニー」

今日、5月14日に新しいプロレス団体が旗揚げされた。その名前は「hotシュシュ」。アイスリボン系列の男女混合・ジェンダーレスの新団体である。また特筆すべきは所属選手全員が「デビュー前の新人、生え抜き選手だけ」ということ。本日、その全員がデビュー戦を今しがた終えたばかり。そんなどこの馬の骨かわからない団体の旗揚げ戦を観に行くなんてどうかしてる!正直、そう思う。そう思うけれども、この旗揚げ戦に対しての思い入れが僕にはある。その思い入れとは「タニー・マウス」「田村欣子」の存在である。
今から13年ほど前、僕は女子プロレスに夢中になっていた。とはいえ、直接生観戦に行くこともなく、レディースリング?誌を購入したり、インターネットで調べたりで、自宅でのみ楽しむ「隠れプヲタ」だった。そんな僕が意を決して一度だけ、女子プロレスを観に行こうと思って実行したことがある。それがおよそ13年前のNEO女子プロレスの道場マッチである。とはいえ、道場についた時には最後の試合の数分前で試合は観れなかったけれども、お金は払った記憶がある。その時にタニー・マウス選手から「もう終わっちゃうけどいいの?」と訊かれたのだけれども、果たしてタニー選手だったのか、どうか。それと道場の外で「すいとん」か何かを作って売ってたような気がする。当時、スターダムはまだなかったような気がするけれども、レディースリング?誌の表紙を宮崎有妃選手タニー・マウス選手野崎渚選手田村欣子選手が飾っていて、僕は宮崎有妃選手のファンになってしまって、それが故にNEOの道場マッチに行ったのだと思う。
結局、僕はNEOの試合を一度も観れずに団体が解散してしまったので、たしかこの道場マッチ未遂のすぐ後に解散の報道があったような気がする、このNEOの中心選手だった4人を観れなかったことはとても後悔していた(とはいえ、宮崎選手と野崎選手はWAVEで初観戦することになるのだけれども)。
なので、YOUTUBEでタニー・マウス選手田村欣子選手が二人して動画チャンネルを開設した時はとても嬉しかったし、動画が公開されるたびに楽しんで閲覧していた。そんな折、重大発表と評した下記の動画が公開された。

この動画を観た瞬間に感じたのは「スーパーバイザー」として就任したとは言っているけれどもタニー・マウス選手田村欣子選手現役復帰のフラグなんじゃないか?ということ。練習生が集まらずにこのままなし崩し的に復帰するんじゃないか?と甘い期待を覚えたものだ。
その期待もすぐに裏切られた。練習生として動画編集を手伝っていた「ゆづきちゃん」という女性が練習生としてスカウトされた模様が公開されたからだ。その動画公開の次のタイミングで「ゆづきちゃん」が練習生として参加することになる、つまりは運動音痴の女性が女子プロレスラーを目指すという物語が始まるのだけれども、それが秀逸だったのだ。

この「ゆづきちゃん」という女性、なかなかの経歴の持ち主だということが徐々に明かされたりするのだけれども、それよりも「ゆづきちゃん」が女子プロレスラーを目指す!と決めてからの行動・言動がとにかく素晴らしい。別に僕はプロレス関係者ではないし、ただの女子プロレスヲタク(プロレス者)だけれども「女子プロレスラーを目指してくれてありがとう!」とただただ言いたくなるような頑張りっぷりだったのだ。詳しくはYOUTUBEチャンネル「田村様とタニー」の#hotシュシュシリーズをチェックしていただきたいのだけれども、この物語を観ていると応援したくなるのがヲタ心というもの。旗揚げ戦の日程が発表されてからだいぶ時間が経ったけれども、最前列席(お土産付き)を抑え、現地に向かったのでした。

Ⅱ:ゆづき選手だけではない新人選手の厚み

ホットでディープな個性派集団・hotシュシュ。当然、団体始動発表記者会見から今までドキュメンタリー動画が公開されているので、この物語の主人公が「ゆづきちゃん」と思うのは当然のことかも知れないが、よくよく動画を観ていると主人公・ゆづきちゃんを取り巻く他の練習生面々というよりは、それぞれが物語を背負った主人公だというのが伝わってくる。今後、その物語が動画化されていくと思うのだけれども、当日の試合順での選手メンバー紹介を。
・桐生健豊(元練習生バイオ):現役高校生レスラー。大日本プロレスファン。
・茶色:NEO女子ファンという筋金入りのプ女子ヲタ。hotシュシュを選ぶところにセンスあり!
・佐藤洋平:芸人さんで過去ありな存在。プロレス者なのが動画でもよく伝わってくる。
・サマス:年齢・名前・出身地など秘密な英語圏男性。とにかくデカい身体の持ち主。
この簡単な説明だけで「なんか変!」が伝わると思う。今後の各自の取り合げられ方が楽しみ。動画内ではそれぞれが「ヘタレ感」を克服していく様子が収められていくのだけれども、実際の試合ではどうか?

Ⅲ:菊田一美vs桐生健豊

第一試合を任された高校生レスレスラー「桐生健豊選手」

団体のこれからを世に示す旗揚げ戦の第一試合。試合開始のゴング前からの桐生選手の不意打ちドロップキックで試合がスタート。これには会場の全プロレス大好きおじさんたちが歓喜の悲鳴!プロレスラー人生一日目の選手とは思えない大胆さで会場を沸かす。桐生選手に関しては「高校生」とかそういうキャプションが不要だと思えるようなファイト。そして今回全ての外団体からの参戦選手に言えることだけれども、デビュー戦の相手を務める選手たちの「胸を貸す」感。菊田一美選手もそうでプロレス初心者の弱い所とそれを克服しなければプロではないことを桐生選手に教え込みながらの試合展開に胸が熱くなる。桐生選手も試合開始直後はお客様とプロレスをするのだけれども、体力や気力が削られていくうちに、菊田一美選手のみに集中する、そして菊田選手の期待に応えようと必死に喰らいつく。当然ながら百戦錬磨の菊田選手に勝てるはずもなく、完敗。菊田選手からのメッセージも聞けずにリングを去る姿に「若さ」を思う。若いということは起きたこと全てを物語として完結させないことだ。良い選手になると思う。このデビュー戦、僕は忘れない。

Ⅳ:高瀬みゆきvs茶色

茶色選手のエルボーが打ち砕くのは自分自身の弱い所だ。

第二試合。動画を観ている中で1番気になっていた茶色選手のデビュー戦。相手は「熱い女子プロレスラー選手代表」の高瀬みゆき選手。僕的には100%THE女子プロレスラー茶色選手高瀬みゆき選手に対してどれだけ喰らいついていけるかというよりも、高瀬みゆき選手がどう茶色選手を盛り上げるかに注視するカード。案の定、試合開始早々から茶色選手のスタミナに翳りが見え始め、とにかく苦しい展開。多分、練習とは全く違う消耗に本人が1番戸惑っているのだろうなあとリング下から見て感じる。そして、そのことは高瀬みゆき選手が一番良くわかっている感じの試合運びに。茶色選手をいかに生かすか高瀬選手のやり取りに、茶色選手が目指すべきプロレスラー像があったような気がする。高瀬みゆき選手は多分、女子プロレスラーになることで大成したタイプのレスラーなので、どうやってこの業界で生き抜いていくかを良くわかっていると思う。一方、茶色選手には女子プロレスラーでなければダメな理由が伝わってこない。では、女子プロレスラー失格なのかといえばそうではない。色々な役割のレスラーが存在するべきだ。そのノウハウを伝えていたような気がする。茶色選手は正直若い選手ではない。残りのレスラー人生は16歳でスタートした選手よりは明らかに短いはずである。けれども、一日でも長くレスラーとしてリングに立ち続けるにはどうしたらいいのか。その答えが高瀬みゆき選手であり、その答えを茶色選手は見出して欲しいなあと思った。今回の大会の最大の功労者は高瀬みゆき選手である。よく最後まで試合として成立させたな、と。茶色選手を輝かせながらも最も輝いていました。やっぱり僕は高瀬みゆき選手が好きだわ。

Ⅴ:渡瀬瑞基vs佐藤洋平

後輩が格上になっていた!それでも立ち向かうのは意地か?それとも?

今回の大会で唯一「因縁」のあるカード。元々、芸人アイドルとして共にグループ活動をしていた二人。後輩が先にプロレスラーになり、今や団体のチャンピオン。そして、本日デビューする佐藤洋平選手は何もない実績のない状態。何を見せてくれるのだろうか?最初の二人の新人選手に比べて若干遅れて練習生になり、「田村様とタニー」ヘヴィ視聴者からすると「誰だこいつ」感がもっとも強いのが佐藤洋平選手。だからだろうか、少しだけヤジが飛ぶ。僕も正直、イマイチ、乗れないカードだった。けれども、相手選手の渡瀬瑞基選手だけはこのカードの意味を知っていたように思う。それはである。先輩である佐藤選手のプライドを完全に粉砕することが愛である。とにかくエグい攻撃で佐藤選手を削っていく。もう完全にボロボロ。けれども、必死に喰らいつく姿に心が惹かれたかというとそんなこともなく、僕が一番佐藤選手に惹かれたのは「アメリカンプロレス臭」。ああ、最高だ!という感じ。今回の大会のメインテーマである「新人選手の気合い」ではなく、僕は佐藤選手のプロレス脳の素晴らしさに感動した。一番、プロレスしていた。佐藤選手、確実に面白くなる。他の選手にはない期待がすごいです。プロレスラー・佐藤洋平選手、いい選手になりそう。やっとここに辿りついたんだね、と全く佐藤選手を知らない僕がいうのもなんだけど。

Ⅵ:宮本裕向vsサマス

見てみい!このガタイ!完全にプロレスラーだよ!

サマス選手カタコトの日本語のデカい身体という時点で最高なのだけれども、試合も最高でした!なんだこのプロレスの古さは!という感じが凄い。はっきり言って新人じゃないだろ?という予感もすごい。こんなにも出来てるのって異常じゃないか?子どもたちが大好きになるタイプのレスラーだし、FMWに来てたんじゃねえか?とふと記憶を探る感じの雰囲気で最高!これぞ外人レスラーという感じ!宮本選手もある程度は本気で当てに来ている感じがしていたし、本当に今日デビュー戦なの?という。先の佐藤洋平選手「アメリカンプロレス」なのに対し、サマス選手「日本のプロレス」なのはすごい感じだな。オールド・スクールも飛び出すし、凄い身体能力。先述の佐藤選手の試合に続き「エモさ」よりは「充実感」に満ちた試合となりました!

Ⅶ:宮崎有妃vsゆづき

メインイベントの重積を背負って戦う二人に涙する

メインイベントはゆづき選手VS宮崎有妃選手ゆづき選手に対する思い入れは今回の観客のほぼ全員が持っているはずだし、そして対戦相手の宮崎有妃選手への思い入れはこの団体への思い入れにも通ずるのだから、エモくならない理由などない。
入場ゲートから歩き出すゆづき選手。女子プロレスラーの持つ「美しさ」「強さ」、そして「色気」が出ていてとんでもない新人が現れたなあと思う。宮崎有妃選手が完全に胸を貸す試合になるかと思いきや、ゆづき選手の善勝っぷりが目立つ。最初の動画をチェックしていただきたいがこの運動能力だった人がここまで仕上げるのは並大抵の努力ではないし、それをやり切り、そこまで持っていったトレーナーの二人(タニー・マウス選手と田村欣子選手)の教育がマッチしたのだなあと驚く。ここまでできるようになるとは!という感じ。プロレスラーになるためにここまで生きてきた感にただただ感動する。動画を観ていると感じる「一所懸命さ」が試合にも出ていて、それをやはり、オレたちの宮崎有妃選手はちゃんと汲み取って、最後のフィニッシャーとなるムーンサルトプレスを引き出したのだろう。まさか、デビュー戦相手の新人相手にこの大技が出るとは思わなかった。ムーンサルトプレスで仕留めたことに最大限の敬意があると涙を流すオレ氏。みづき選手が立派な女子プロレスラーとしてリングに立つということはかつての戦友であったタニー・マウス選手田村欣子選手の想いや気持ちを引き継ぐということだし、それをやり切ったゆづき選手への感謝なのだろうなあと。試合後のゆづき選手の過呼吸な感じや、マイクを握る手が震える様に、彼女が120%の力で限界を超えての試合をしたのだと改めてその気合いや想いに感服したのでした。大人がここまで必死に頑張る姿を久しぶりに見た。最高のデビュー戦だし、大きな怪我なくプロレスラー人生を歩んでいてけば、必ずゆづき選手は歴史に名を残す選手になると思う。とんでもない選手の誕生を生で観れたのは僕のプロレスファン歴においての誇りです。どうもありがとうございました!

Ⅷ:感想戦、まとめ。

見事に大会を成功させた5人。素晴らしい大会でした。

hotシュシュ、旗揚げ大会。行って大正解な大会でした。正直、エンターテイメントとしてのプロレス的には、まだまだ満足のできる大会ではなかったけれども、この日にしか観れない戦いがあったことは事実だし、それは何事も勝ることのできない戦いの結晶でした。動画を観ながら選手たちの成長を見守る形で一つの終着点を迎えたわけだけれども、きっと、彼女、彼らの本当の戦いはこれから、いよいよ、始まるのだと思う。この5人、将来、団体を飛び出して活躍するだろうなあと思う。もっと大きなステージで、もっと大きなリングで活躍する。けれども、これから数年後、十年後、違うリングに立っているかも知れない彼らを観て、彼らの原点はここにあるんだと思い返すことがあるだろう。この日、この大会を、生で観戦できたことを僕はきっと感謝するだろう。素晴らしい大会でした。
この大会を実現するにあたって、さまざまな人たちが協力して作り上げたのだろうというのもよくよくわかる。特に代表とスーパーバイザーの二人は感慨ひと塩だと思う。田村欣子選手が声を枯らしてセコンドにつく姿がとても印象的でした。そして試合を終えた高瀬みゆき選手のセコンドもこの団体に対する期待を感じることができました。

氣合だけでしかそのプロレスに対する愛を表現できない若者たち。それをエンターテイメントとして昇華させるために先輩レスラーたちがしてあげられること。その集大成がこの大会にありました。また観に行きます!素晴らしい団体の旗揚げを生で観れたこと、感謝します。ありがとうございました!

#女子プロレス曼荼羅
〈2023.05.15 記〉


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