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【分解する物語(2)】整除関係

分解を語る上で基本的になってくる約数や倍数の言葉を見直し一般の単位的半群においても同様な概念を定義しよう。そのあとこれらが引き起こす2項関係の性質を調べよう。

1.約元

約数とはその与えられた数を割り切る数であった。例えば整数の12の約数は、
 ±1,±2,±3,±4,±6、±12,
がある。±とは+またはーの2通りを表している。これらは、
 (±1)×(±12),(±2)×(±6),(±3)×(±4),
 (±4)×(±3),(±6)×(±2),(±12)×(±1)
のように、ある整数との積がもとの整数12となるような数である。

これにならい、一般の可換な単位的半群でも”約数”に相当するものを定義しよう。一般のRの中ではこれを約元(やくげん)と呼ぶ。定義は、次のようになる:
 bをRの元とする。Rの元aがbの約元であるとは、Rのある元xが存在して
 b=ax
と書けるときにいう。

2.倍元

次に、例えば整数4を固定したとき、4の倍数とは4と整数の積:
 0,±4,±8,±12,±16,・・・
という整数である。

一般の単位的半群における場合も同様に言葉を定めよう。約元はaを主語した言い方あったが、bを主語にする場合は倍元(ばいげん)と呼ぶ。即ち、
 aをRの元とする。Rの元bがaの倍元であるとは、Rのある元xが存在してb=axとなるときにいう。

3.整除関係

約元と倍元は、元aと元bのどちらを主語にするかによる違いのみで、どちらも2元a,bについて論理的には同値である:
 「aがbの約元である」 ⇔ 「bはaの倍元である」
そしてこれを、
 a|b
と書き、|をRにおける整除関係という:
 a|b ⇔ あるRの元xが存在して、b=axを満たす

例えば上記の例では
 ±1|12,±2|12,±3|12,
 ±4|12,±6|12,±12|12
である。

なお、Rに零元0がある場合、零元の定義:
 0×a=a×0=0(aは任意のRの元)
により、0は任意の元の倍元である:
 aがRの元 ⇔ a|0

4.整除関係の性質

さて、整除関係|は、可換な単位的半群Rの上の2項関係である。この関係の諸法則を確認しよう。それは反射律推移律を満たすが、必ずしも反対称律を満たすとは限らない。また、任意の2元で常に比較できる(比較可能性)とは限らない。つまり、
「任意の元a,bについてa|bまたはb|aが成り立つ、ということはない」

・反射律の確認:
Rの元aを任意に取ってくる。Rには単位元1が存在するから、
 a=a・1
と書ける。よって、
 a|a
である。

・推移律の確認:
Rの元a,b,cで、a|bかつb|cとする。あるRの元x,yが存在して
b=ax,c=by
と書ける。よって
c=by
 =(ax)y  
 =a(xy) (∵結合法則)
従って、a|cである。

・反対称律を満たさない例:
例えばRの元cが単位元とは異なる可逆元が存在する場合を考えよう。仮定よりcの逆元c’が存在する。c’も当然単位元ではない。このとき、cc’=1であるから
 c|1
である。一方c=1・cでもあるから
 1|c
である。ところ仮定よりc≠1である。よって、反対称律を満たさない。
具体的には、R=Z(整数すべての集合)における乗法を考えると、Zの可逆元は1以外にー1がある。実際,
 (-1)×(-1)=1
である。このとき、例えば
 1|2 かつ -1|2
を満たすが、1≠-1である。

・比較可能性を満たさない例
 例えばR=Z(整数すべての集合)における乗法では、2と3については、 2|3でないし、3|2でもない。

5.順序関係

以上より、(R,|)は反射律、推移律を満たすので前順序関係であると言われる。また、反対称律を満たす場合は半順序関係であると言われる。

例えば自然数の集合Nに通常乗法(×)を考えた可換な単位的半群(N,×)では、可逆元が1のみである。そしてN’の元a,b
 a|b かつ b|a
とすると、
 b=ax かつ a=by
となる自然数x,yが存在する。よって、自然数の積であるから
 b≦a かつ a≦b
ゆえに、
 b=a
となる。従って反対称律を満たす。

半順序関係でさらに、比較可能性(任意の2元で比較可能)を満たす場合は全順序関係と呼ばれるが、比較可能性を必ずしも満たさないことは先ほど見た通りである。よって必ずしも全順序関係とはならない。(順序関係の話は「順序」を参照)

例えば、0以上の整数の集合N’=N∪{0}の通常の加法(+)を考えたときの可換な単位的半群(N’,+)では、
 a|b ⇔ あるN’の元xが存在して、b=a+x
となるから、b≧aであれば、そのようなN’の元xは存在する。
b<aであれば、今度は入れ替えて同様に考えれば
 b|a
を満たす。従って、a|bまたはb|aが常に成り立つゆえ、比較可能性を満たし、全順序関係となる。






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