同一視

中学校の生徒全員を集めたら、そこには1年生、2年生、3年生と学年ごとに分類できる。また、生徒の人数が多い学校だと、1年生でもさらに細かく1組、2組、・・・、n組と分類できる。分類の仕方だけでいえば、男子生徒と女子生徒の2分割も考えられる。

このように生徒全員から、いろいろな分類の仕方が考えられます。

例えば生徒全員を学年ごとに3つに分類するというのを考えると、生徒全員の集合をSとして、Sを3つの互いに交わりのない集合A,B,Cの和集合で書き表すことになります。ここでAは1年生の集合、Bは2年生の集合、Cは3年生の集合としました。
 S=A∪B∪C,A∩B=B∩C=C∩A=Φ
ただし、Φは空集合{}を表しています。

一般には、集合Xが与えられたとき、Xをいくつかの互いに交わりのないXの部分集合の和集合で表すとき、Xを分割するといいます。あるいは、それらの部分集合の全体をXの分割といいます。

なお、互いに共通部分のない和集合を⊔という記号で書くこともあります。英語では”disjoint union”と言われます。上のSの例では、単に
 S=A⊔B⊔C
と書けば、自動的に後半の条件
 A∩B=B∩C=C∩A=Φ
を満たしているという意味です。

ところでXの分割があると、自然にこれらの部分集合を元とする集合が考えられます。上のSの例でいえば集合{A,B,C}を考えるということです。A,B,Cはもはや1年生、2年生、3年生というくらいの意味でしかなく、生徒一人ひとりについての情報は落ちています。

さて、この分割を使って、次にようなXの上の2項関係~を定めます:
a~b ⇔ aとbはXの分割の同じ要素に属する

例えば、1年生のa君,bさんは同じ1年生の集合Aに属するからa~bである。しかし1年生のa君と、2年生のc君はそれぞれお互い違う集合のメンバーであるから、a~cではない。

このXの上の2項関係~は
(1)反射律:a~a
(2)対称律:a~b ⇒ b~a
(3)推移律:a~b,b~c ⇒ a~c
を満たすので、同値関係になっています。

逆に、Xが集合で、Xの上の同値関係~が与えられたとすると、各元xについて、xの同値類と呼ばれる集合[x]を次のように定めよう:
[x]={a|aはXの元で、a~xを満たす}
これは、xと関係~を持つような元すべての集合ということです。

こうすると、いくつか重複するかもしれないが重複を除けば、このようないくつかの同値類たちによって、Xは分割される:
 X=[x]⊔[y]⊔・・・
いくつかの同値類が重複がなく、しかもXをもれなくカバーしたとき、それら同値類を作る元の集合{x,y,・・・}を、Xの同値関係~による完全代表系といわれます。

例えば、再び生徒全員の集合Sの例でいえば、1年生の集合Aの中から誰か1人を指定することは、1年生の学年代表を1人指定するようなもので、それをa君としよう。2年生Bからは2年生代表bさん、3年生Cからは3年生代表c君を選べば、{a,b,c}がSの同学年の関係による完全代表系を与える。もちろん、完全代表系{a,b,c}以外にもいろいろ取り方が考えられる。

このように、Xの分割を1つ与えるとそれに応じてXの同値関係~が1つ定まり、Xの同値関係~を1つ与えるとそれに応じてXの分割を1つ定める。

そして、両者は互いに1対1に対応している。

従って、両者はこの1対1対応を通して同一の概念だということになります。

特に、X上の同値関係~から構成したXの分割を、Xの同値関係~による商集合(しょうしゅうごう)、あるいは、Xを同値関係~で割った集合、などと言われ、その集合をX/~と書かれることがあります。

例えば、さきほどの例で生徒全員の集合Sの上に、同学年による関係~を定義すればSの~による商集合S/~は{A,B,C}に他なりません。

こうして、商集合X/~は、Xの元を同値関係~によって同一視したものと解釈される訳です。


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