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植物に学んだ人間の生き方~北海道の離島“奥尻島”でボランティアvol.2~

奥尻島に来て翌日。

受け入れ人の雄斗さんがブナ林のネイチャーガイドをしてくれた。

ゲストハウスから車に乗り、少し行ったところで降りた。
「え、ブナ林行くんだよね?ここなんもないけど」
と思ったのが最初。
ここ今から登ってくよ。と言われたのは、急こう配の植物が枯れ、一面茶色の斜面。

自分の体力の衰えを感じながら、はぁはぁ息をらして登ること数分。
先頭の雄斗さんが開けた場所で立ち止まった。
下を見ると、海が広がる。
海の真横の道路からスタートしたのでかなりの高さを登ったなと思った。

そんなことを思っているうちに雄斗さんのネイチャーガイドは始まった。
※この内容は私の覚えている範囲であり、雄斗さんと一言一句同じではありません。


意識しないものは見えない

立ち止まってそうそう雄斗さんが聞いてきた。
「今登ってきた道で気づいたことあった?この場所で気づいたことある?」
「え。登るのに精いっぱいだったけど…」
誰かが答えた。
「黄色と水色の花が咲いてる」

そう。この花たちは、今の時期まだちょっと寒いけど、木々たちが芽吹く前、大地まで燦々と太陽が降り注ぐうちに芽を出し、花を咲かせ実を結んで枯れるんだよ。

どうしてだかわかる?

「先に花を咲かせることで、他の植物がいない時期に光が浴びれるし、種とかも飛ばしやすいから。」
正直、植物が好きで生き物が好きでその分野の専攻をしている私にとっては当たり前の事実。

そう答えたのが私だったのか覚えてないけど、その答えを聞いた後に雄斗さんは続けた。

この時期に花を咲かせる植物が少ないということは、虫に花粉を運んでもらう植物にとってはライバルが少なく子孫繁栄の側面から見ると受粉の確率が上がり、有利な時期だから。
でも虫の少ない時期だからより目立つように、花は派手になっている。

また寒い時期に開花するのは、それなりのエネルギーが必要なんだよ。そのエネルギーは毎年春の間に得た養分を球根に少しずつ蓄えていることで、春先に一気に花を咲かせることができる。

なるほど。花の色の戦略や春までエネルギーを蓄えることは考えてなかった。面白い。
いつも植物の話を聞くと思うんだけど、植物は考えているわけではないのにその環境をしたたかに、されどしなやかに生きているのがすごいなと思う。

その話を聞いてからは、今まで歩いてきた斜面や立ち止まった場所にこんなにあったのかと思うほどの花に気づいた。
この先歩く道々に黄色や青い花が咲いていることによく気づくようになった。

人間の視野って本当に狭い。視界に入っていてもそのものを知らなければ意識いなければ見えていないんだもん。
私も日々興味関心があることしか視界に入っていないんだろうなと。

黄色い花だったのか青い花だったのか、どちらでもない他の花だったのか覚えていないけれど、こんな話をしてくれた。

ある花は花を咲かせるのに約10年もかける。
花を咲かせるまでは球根に養分を貯めることにのみ専念する。
でもその花は40年以上も花を咲かせ続ける。

続けてこう言っていた。

人間であれば努力が7年も実らないと諦めてしまうこともあると思う。でもあの花は花が咲く日を信じてひたすら準備を続ける。ただなんとなく咲いているように見える花にも見えない努力がある。

そう思うと花を見る目が変わる。


植物は自分にあった環境でしか育たない

ブナ林の奥に進めば進むほど、ブナを含めた大きな木が視界に増えていき、足元から腰元あたりまで笹が生い茂ってくる。

そこで言われた。

「周りの植物って何が生えてる?」

言わずもがなほぼ笹。

「さっきあった黄色や青の花はないよね」

そして雄斗さんは続ける

ここにはさっきの花たちの種が地面に埋まってるかもしれないけど、周りに植物が生い茂ってしまっているから咲けない。
いつまで待っても自分の良い環境でない限り咲くことはない。
ここは花たちにとっては、適していない場所なんだよ。

ガイドも終盤の場所になると、笹などがなくなり視界が開けた場所に。そういう場所ではまたちらほら花たちが咲いていた。

人間も植物も同じだと思うんだよね。植物が自分にあった場所でしか咲けない、あっていない場所なら一生花は咲かないのなら、人間だって自分にあった環境じゃなきゃ生きていけないと思う。

そう聞かされると、自分ののびのびできる環境ってとっても大事で、そういう場所で過ごしたいなと思った。


どこかでは役立たずだけどどこかでは役に立つ

タイトルのようにブナは木偏に無と書く。

なんでか知ってる?

ブナは水分量が多くて腐りやすいから木材として活用できる割合が低い。役に立たない、木じゃないってことから橅(ブナ)って言われてるらしい。

木を切って活用する人間にとっては確かに使えない木かもしれないけど、自然界ではどうなのか。

雄斗さんは教えてくれた。

ブナはたくさん水をたくさん貯える役割を持っている。

ブナは落葉樹なので秋になると大量の葉っぱを落とします。ブナの落ち葉は、他の木と比較して分解されにくいようで、完全な土になるまで時間がかかる。

確かに、3月下旬の時点でのあのブナ林は、他の葉っぱは分解されて跡形もなくなってしまったり、かなりボロボロになっていたものが多かったのにブナの葉っぱだけは残ってた!

なので一度落ちた葉は、なかなか腐らずにどんどん降り積もっていく。足元はブナの葉っぱだらけ。
このたくさんの落ち葉がスポンジとなって、雨水をどんどん貯めていく。これが洪水や氾濫を防いぐ役割も。
そして貯めた雨水をゆっくりと川や海へ放出していく…

落ち葉の層は土壌動物や微生物たちの住みかにもなっていて、落葉の堆積するほど微生物が働き、養分たっぷりの土壌へ変わる。
そしてこの土壌や微生物が川下へ流れることで田畑や海を豊かにするという。

人間には無しと判断されたブナでも、自然界では大きな役割を担っている。

どこかでは使えないと言われた個性でもどこかではとても役に立つものだったりするのかー。よく考えれば当たり前だけど忘れちゃいがちなことだよね。
しかもこれも人間も同じだよね。誰かに嫌われる性格が別の誰かには感謝されるかもしれない。物事は多面的。

そんなブナの原生林はとても少なくなってしまったそう。
最初に言ったようにブナは木材として使いにくいのでスギやヒノキの植林に置き換わっていったことが、原因の一つ。

人間の勝手で植え替えるのはどうなんだろうと思わせられるよね。

...そんな貴重なブナの原生林と、雄斗さんの素晴らしいネイチャーガイドが聞ける奥尻島へぜひ行ってください!


番外編 ギョウジャニンニク

ネイチャーガイドの途中、ゆうとさんが急に立ち止まって「美味しいものがいっぱい見えてるけど何か分かる?」と質問された??

「???」
「いや、ここただのブナ林だし、キノコすら大して生えてなくない??」

雄斗さんはギョウジャニンニク(キトビロ)のことを言っていた。
ギョウジャニンニクは、3月~期間限定の奥尻島の代名詞らしい。
これ目当てで毎年奥尻島に来るゲストさんもいらっしゃった。

北海道の山菜の中でも高級品で、「幻の山菜」とも。

「行者にんにく」の名前の由来は、「行者(修行僧)が好んだ香りの強い野菜」だといわれています。その昔、修行僧が行者にんにくを食べたことで滋養がつきすぎてしまい修行にならなかったため、食べることを禁じられてしまったそうです。しかし、その美味しさとパワーを求めてこっそり食べていたことから「行者にんにく」と呼ぶようになったという訳です。

こんなにも評判のいい、幻の山菜はどんな感じなのか・・・・・・


こちらが問題のギョウジャニンニク

ニラのように光沢のある葉、根元は赤褐色

雄斗さんに教えてもらうまでは、これが山菜だなんて気づかず。
そしておいしそうとも思わず…。
言われるがままに収穫する私達大学生を横目に、袋一杯にとっていく、雄斗さんと、アシスタントのももちゃん。

ゲストハウスに戻って、仕分けをして、天ぷらが美味しいというので半信半疑で調理していく…。

できた天ぷらを一口…。

美味しすぎる…!なんだこれ!なんとも表現しがたいけど美味しいぞ!!

お代わりの手が止まらず。
それから数日はゲストさんや雄斗さん一家からギョウジャニンニクの差し入れがあるたびに爆速で皿から消えてくほど笑

ぜひ3月末~奥尻島に来てご賞味あれ!!!

※行者にんにくは繁殖力が弱く、食べられる大きさの株になるまで数年かかるため、乱獲すると無くなってしまいます。
採る際は、必要以上の量は収穫しないことに注意!


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