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パンからはじまる朝だった


京都でひとり暮らしをしていた。
その小さなアパートの下は、大家さんが営む喫茶店と、八百屋だった。


朝起きると、下の喫茶店からコーヒーのいい匂いがする。
今日はモーニングをいただこう、そう思った日は
ぼっさぼさの頭で、のそのそと扉を開ける。
すると大家さんと奥さんが「いらっしゃい。おはよう。」とカウンター越しに声をかけてくれた。

目の前で挽かれるコーヒー豆のいい香りで、すっかり目が覚める。
手際よく出されたコーヒーを飲みながら、最近の仕事の具合なんかを聞かれて話したり。
ちょうど自分の親くらいの年代の、大家さん一家が好きだった。


はたまた別の日。
アパートの正面にはパン屋さんがある。
かなり年季の入ったパン屋さんだ。レトロな感じが、近所の人に愛されている。

洗濯物を干すためにベランダへ出ると、自然とパン屋さんが視界に入る。
あぁ、今日はあのパンを食べようと決意する。

たんたんたんと階段を下って、道路を渡ればパン屋さんだ。
私はそのパン屋さんのラムレーズンコロネが好きだった。
他のお店に売っていない、オリジナル。

ふと、おじさんに話しかけられる。
聞くと、私の通う調理師学校の先生のお友達だそう。
お名前が出ただけで、パァっと輝く顔は、正にジャムおじさんのような温かさだった。


また別の日。
今日の朝ごはんはサンドイッチだなぁ。
そんな日は、アパートを出て右手に向かってあるく。
そこに、小さなショーケースに沢山のサンドイッチが並んだ小さなお店がある。

小さいけれど、大人気だ。
いつも人が並んでいて、みんな沢山買っていく。
このパン屋さんはサンドイッチだけを売っているからか、夕方には閉まっている。
並んで、ちらちらとショーケースを見ながら、自分の番になったら何を買うか考える。
けれどもやっぱり、玉子かハムレタスみたいな定番がピカピカと光って見えて、それを買う。

普通の三角。
手に馴染む分厚さ。
パクッと食べやすくて、気づいたらなくなっている。
だから、きっと皆んな買うんだな。


またまた別の日。
今日は大きなパンにかぶりつきたい。
そんな日はアパートを出て、左に曲がる。
ちょっと歩くには遠いから、自転車を漕いでいく。
途中、昔ながらのお豆腐屋さんがあって、いつもおじいさんがキビキビと仕事をしている。
それを見るのも好きだった。
そうして着くのは、またもこじんまりとしたパン屋さん。
1度に入れるのは2人くらいだろう。
そんな店内にひしめき合う、大きめのパン。

このお店は、素朴な丸パンが沢山ある。
いつも違うものを買って、家でガブガブと食べるのだ。



思えば、私の中の京都はパンの街でもある。

今も自転車を漕いで行った数々のパン屋さんを思い出す。
鴨川沿いのシナモンあんパンのお店。
薪で焼いた笑顔の描かれたクリームパン。
お花ののったオシャレで美しいパン。
カリカリのメロンパン専門店。
パン屋さんなのに、ドーナツが美味しいお店もあったなぁ。

そんな風に、たくさん食べた。
今もまだあるんだろうか。

働いていた時は、朝昼晩とまかないごはんがでた。
だから、パンを食べることは、私の中では休日の出来事。
今思うと、お休みの日の、楽しみのひとつだったのだなぁと思うのでした。


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