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2022年11月のわたくし(1)

アメリカとカナダの国境を跨いで連なるロッキー山脈。
カナダ側に位置するそれはカナディアン・ロッキーと呼称されており、
まあ、野生と自然が豊かな美しい場所なわけです。

そこに位置するアルバータ州はキャンモアという田舎町に越して、
早くも2ヶ月が経とうとしております。

なかなかに貴重な経験ゆえ、11月の生活を、
総括としてここに記したいと思います。
日記感覚ですので、崩れた文体にご容赦ください。

こちらわたくしの2022年11月プレイリストでごぜーやす。
よければご一聴を。↓↓

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○ トロントに行きたいだけなのに。

11月1日〜3日、友人が帰国するとのことで、
引っ越す前に住んでいたトロントにお見送りに行くことになりました。
キャンモアではショッピングも満足にできないので、久しぶりのトロントはかなり楽しみ。

しかし、キャンモアは山岳地帯に位置するど田舎です。
一番近い空港は、カルガリーという都市に位置するカルガリー国際空港で、
そこまではバスで1時間ほどかけて行かねばならぬのです。

予約したフライトは午前9時40分出発。
前日から前乗りして、空港で寝ることも考えましたが、
午前6時30分にキャンモアを出発するバスを見つけたので、
フライト当日にキャンモアを出ることに。

早朝5時、日々の崩れた生活習慣ゆえ一睡もできなかったことなど
気にもせず、最寄りのローカルバスの始発を経由して、
カルガリー行きのバスが来るホテルに到着。

時計を確認。6時25分。
すばらしい。
日本であれほど怠惰な生活習慣を送り、大学のあらゆる選択科目を、
涙と共に翌年に流していたあの頃のわたしは、いつしかこんなに立派な人間になりました。

しかし、幾つかの不安要素がその時のわたしの脳裏をさすっていたことも
また事実。以下、不安要素。


不安要素1:どこにもない!お留守番を決意したLightningケーブル
家での準備中、iPhoneの充電が少ないことに気づいたわたし。
しかし考えました。ここで充電してしまうことで、
iPhoneの存在を失念し、iPhoneを持たずに家を出てしまう可能性があると。

iPhoneがなければ、旅を通して不安に駆られることはもちろんのこと、
中にはデジタル化されたバスと飛行機のチケットが入っていたので、
それだけは避けなければなりませんでした。

充電は25%ほど。
数年間の使用でバッテリーが劣化しているわたくしめのiPhoneSE2が指す25%は、とてもじゃないですが信用しきれません。

しかしわたしは焦っていませんでした。
わたしのリュックサックの中には、十分充電されている
Anker様の名モバイルバッテリー、PowerCore Fusion 10000がありました。

家を出てから、ゆっくりと充電すればいい。
さらにバスにはコンセントもあるはず。
こんなことで杞憂していては海外生活など務まらないでしょうて。

結果、
Lightningケーブルを忘れました。

わたしと長年を共にしてきたPowerCore Fusion 10000は、
モバイルバッテリーという名の文鎮となったのです。

不安要素2:This isn't an airport!! 終点は見知らぬショッピングモール
カルガリー行きのバスを予約してすぐ、ぬめっとした不安を抱いたわたし。

予約を確認すると、バスの目的地はカルガリー国際空港ではなく、カルガリーに位置する謎のショッピングモールでした。
焦りを感じたわたしは、すぐにGoogleマップで位置を確認。
そこはお世辞にも空港に近いとは言えませんでした。

Googleマップで当日のシミュレーションを行うと、
謎ショッピングモールから空港まで1時間8分を要するという結果に。

謎ショッピングモールから空港までの実際の経路

しかし空港の到着は、遅く見積もっても飛行機の出発時刻の1時間前。
見知らぬ土地の交通インフラを使うことに一抹の不安はあったものの、
方向感覚やそういった状況への適応能力にはある程度自信があったため、
(キャンセルしたとて返金もされないし)そのバスで行くことにしました。


時を戻して、ホテルのエントランス前です。わたしは焦っていました。

白色の風がわたしの頬を冷やしていました。
既にバスに乗っているはずの、6時50分に、です。

そう、バスが来ないのです。
出発時刻を20分超えてもなお、来ませんでした。

…間に合うのか?

新たな不安が生まれ、既に抱えていた不安は膨張していきました。

(この時聴いてた印象に残ってる曲。)

結局、バスは7時ごろに到着しました。
とりあえずバスが来たことへの安堵を受容。
バスの席に着くと、そこから搭乗までのプランを見直しました。

とりあえず、航空券のチケットとGoogleマップの経路の詳細のスクショを
iPadへ転送。(ちなみにiPadはSIMが入っておらず、バッテリーの老朽化による不具合で、急に充電が切れたりする状態。)
ショッピングモールから駅への経路を、見知らぬ土地ながらできるだけ具体的に把握し、到着してから迷わず向かえるよう対策。

考え得る限りの対策を施したわたしは、カルガリーに着くまでの1時間、iPhoneの充電の減少に怯えながら眠りにつきました。

未明。カルガリー行きのバスは、其処此処に雪が積もる不安定な路を進み、車体はわたしの心情を表しているかのようにガタガタと揺れます。



***



8時過ぎ、カルガリーに着くと、まだ辺りは暗く空はどんよりとした青色でした。(当初の到着予定時刻は7時30分でした。)
バスが謎モールに着くとほぼ同時に、わたしのiPhoneは息絶えました。
バスを降りたわたしは、バスの中でイメージした地形と実際の地形の圧倒的な齟齬に軽く絶望した後、雰囲気で右に行くことを決意し走り出しました。

スクショした経路案内は、謎モールを通過して
駅に向かう道順を示していましたが、早朝8時に客を歓迎する
ショッピングモールなどこの世にありませんので、
謎モールを中心に大きく迂回することになります。

ショッピングモールに嫌悪感を初めて抱きました。(自業自得)

ともあれ、向かった先が正しければカナダの100円ショップ「Dollrama」
があるはず。

(当時のスクリーンショットを使用)

頼む。あってくれ…。ここからは一度の失敗も許されない。

無駄に横幅の広い謎モを抜けた先には、緑と黄色の配色が
象徴的な建物が。 「Dollrama」だ!

グミやチョコレートを一つ買おうとすれば4ドル近く吸い取られる昨今のカナダで、トロント在住時代、いつでもわたしを受け入れ、1〜2ドルでそれらを提供してくれた「Dollrama」。わたしはアルバータ州に引っ越してもなお、彼に世話になったのか。

零れ落ちそうになる涙を拭い、わたしは勢いよく左折してDollramaを通り過ぎました。

程なくして駅らしき建物を発見し、中へ入場。
ガッバガバな改札システムを横目に律儀に切符を購入したわたしは、
わかりにくい路線図と勘を頼りに電車に乗り込みました。

電車のアナウンスは、どうやら正しい車両に乗り込んだことを伝えてくれており、またも安堵の時。あとはしっかりと降車し、バスに乗るだけです。

窓の外を見て、殺風景な街だなあと思いながら電車に揺られ、
空港へのシャトルバスが出ている駅で降車。
時間は依然としてありませんが、絶望的な状況ではない。

バスの停留所がどこにあるか少し迷った後、それらしき場所を発見。
さらにバスの停留所の前には、カナダの大手チェーン「Tim Hortons」が。

ここでコーヒーを一杯楽しむほど余裕のないわたしです。
しかし、次のバスが何時ごろに来るのか、空港にどれくらいに着くのかを
正確に把握したいわたしは、店外からiPadを「Tim Hortons」のWi-Fiに接続し(ごめんなさい)、Googleマップを開きました。

そこに表示された情報は、わたしの心臓のBPMを急速に高めました。

”17min late”

「じゅうなぁなぁふん!?」
予想を超えたアディショナルタイム。
わたしは叫びました。(叫んでませんが)

到着時刻は9時25分と書かれていました。出発時刻は9時40分。
飛行機に乗ったことがある方ならお気づきかもしれませんが、
これは実質負け宣告なのです。

飛行機は原則として、出発の15分前に搭乗する必要があります。
わたしはトロントからカルガリーへの引越しの際、
このルールによって弾かれ、引っ越しを延期し、
1ヶ月ほどホームレスをすることになった苦い経験がありました(濃い話なのでいずれお話しできれば)。

チェックインは前もってオンラインでしていたし、受託手荷物もなかったため、機内手荷物の手荷物検査のみ行えば良いとはいえ、0分で搭乗口にはちょっと行けないです。

わたしは焦りましたが、こういった境地はトロントで経験していました。
わたしはすぐに考えを切り替え、タクシーで行くプランに変更。

すぐさまiPadにUberアプリをいれ、サインイン。
到着地をカルガリー国際空港に設定し配車依頼を進めました。
この時に指していた到着時刻ははっきりとは覚えていませんが、
確か飛行機出発時刻の40分前くらいだった気がします。

配車には40ドルほどかかるとのことでしたが、
往復の飛行機代を無駄にするよりはめちゃくちゃマシです。
クレジットカード情報を入力し、手続き完了するボタンをポチッ!!

よかった。色々ハプニングがあったけど、試行錯誤して頑張った甲斐があった。

胸を撫で下ろしたわたし。しかしiPadの画面には何やら不穏な通知が。

「電話番号認証が必要です。」

…でんわばんごうにんしょう?

電話番号認証って電話がいるじゃん。電話ってiPhoneじゃん。
iPhone充電ないじゃん。充電ないじゃん。。。

気がつくとわたしは走っていました。
iPadは「Tim Hortons」のWi-Fiを駆使して取得した最寄りのコンビニの位置情報を示しており、セブンイレブンの自動ドアにダイレクトアタックする軽自動車のごとく入店しました。
冷や汗をかきながらLightningケーブルの有無を問いてきた謎の東洋人に、
レジ側からそっと出してくれた優しい店員さんに、
代金と"Have a good one!"の一言を残し店を後にしたわたしは、
ケーブルをiPhoneにぶっ挿しました。

Lightningケーブルを忘れたことに気づいたあの時、まさかその失態がここにきて響いてくるなど考えてもいませんでした。
空港で買えばいいやーなんて、間抜けで甘い考えをしていた自分を大いに責めました。

ともあれ、文鎮と化していたモバイルバッテリーは本来の責務を果たし、わたしのiPhoneは息を始めました。

iPhoneには既にUberアプリが入っていたので、電話認証の必要もなく、配車手続きを行いました。しかし、その時点で空港への到着予定時刻は9時15分ほど。もはや乗り遅れる可能性の方が高い状況です。

タクシーは程なくしてやってきて、「国内線のターミナルまで」ということを強調しながら乗車しました。
幸い、道路が混んでいるということはなく、スムーズに空港へ到着。
時刻は9時12分を指していました。

ドライバーに感謝の意を伝え、空港に入場。
残された時間は10分余り。
ゲートを確認し、手荷物検査のためBゲートへ走りました。

もはや手荷物検査場の状況に全てが委ねられました。
空いていたら勝ち。混んでいたら負け。

思えばホームレス生活の末、実際にキャンモアへ引っ越した日、検査場は混んでいました。
また乗り遅れるのかなと緊張していたその時のことを思い出しながら、また乗り遅れるのかなと緊張しながら検査場へ走りました。

火曜日の朝9時。平日で、早朝の便。

飛行機の混む曜日や時間帯はよくわかりませんでしたが、少なくともチェックイン場には人の姿はあまりありませんでした。
混んでいないでくれ。いや、混んでなどいないはずだ。俺はここまで頑張った。ベストを尽くした。天は俺の味方を!!!!

わたしはその瞬間、メッカにいました。

イスラム教最大の聖地 メッカ

いえ正確には、「メッカにいると錯覚しました。」
検査場には長蛇の列ができていました。激混みだったのです。
目測でも、搭乗に間に合わないことは理解ができました。

わたしは震えました。
努力についてわたしはかねてより反芻していました。

巷に蔓延る
「努力は報われる」というテーゼと、それに対する
「努力は報われない」というアンチテーゼ。

「努力は必ずしも報われないが、成功する者は努力をした人間だけだ。」
みたいなニュアンスのどっかの偉い人の名言。

それらについて、
わたしの人生における明確な答えは未だ出ていないものの、
わたしは「才能」というものよりかは「努力」というものを幾分か信用していました。

それが打ち砕かれた思いでした。
あぁ、努力って報われないんだなあ。

そんな思いに浸りながら、脳死で長蛇の列に並び、地獄の10分間は過ぎていき、時計は9時25分を回りました。

わたしは気力を失い、それからしばらくその場を動きませんでしたが、
このまま並んでいても仕方ないと思い航空会社のチェックインカウンターへ向かいました。

トロントからカルガリーへのフライトに乗り遅れた時も、チェックインカウンターへ行きどうにかならないかと訴えたことを鮮明に思い出しました。
結果まともに対応されず、トロントに一人の東洋人ホームレスが爆誕したわけですが。

その時と同じ航空会社だったので、何も期待も抱かず、暇になったし行くかって感じでした。

カウンターにいる従業員に航空券をみせ、
「乗り遅れちゃったんやけど、どないしよう。」と言うと、
予想外の答えが返ってきました。

「まだいけるかもしれへんで。急げ急げ。」

聞き間違えたかと思いましたが、やはりそう言っていました。
わたしはトロントでのトラウマから正直理解が追いつきませんでしたが、
従業員が言ってるし、どうせ暇だしということでもう一度走り始めました。

時計は30分を過ぎた頃でした。
出発時刻まであと10分を切っています。
現実的な話、乗せてくれるわけありません。
安全なフライトのためにもそうであるべきなのです。

そう思いながらも、別のゲートの従業員に無理を言って、くっそ空いてるゲートを使用させてもらって手荷物検査を行いました(やさc)。手荷物検査が終わった頃には、出発まで残り5分ほどでした。

走りました。不恰好だったと思います。
何度も回想を重ねて申し訳ありませんが、わたしがトロントで飛行機に乗り遅れた日は、走りませんでした。間に合うはずという淡い期待と、何より搭乗ロビーで走るのなんてダサいからです。

しかしその結果、わたしは以前乗り遅れたのです。
では走るしかないじゃないか。

走っても何も変わらないだろう。既に飛行機はエンジンをふかし、
離陸の準備を着々と進めているはず。息を切らしながら動く歩道を走るわたしを人々が見ていました。
それでも走り続けます。
途中、マラソンしてる時に感じる嫌な感触を口内に覚えましたが、
それでも走ることをやめませんでした。

「努力は報われる」

そんなテーゼがわたしの頭の中を満たしていました。
男には走るべき時がある。

幼少期のフォレスト・ガンプがいじめっ子から逃げたあの時のように。
メロスが友人を思いながら妹の結婚式へと走ったあの時のように。
不安感を抱えながらも、体裁を気にして搭乗ロビーを走らなかったあの時のように。

今がその時だ。ガンプは、メロスは、努力したから報われた。
俺は、努力しなかったから乗り遅れた。

ならば、走るしかない。



***



搭乗口は最も遠い位置にありました。
まともに息もできない状況でたどり着いたそこには、カウンターに立つ従業員と、搭乗ゲートから出てきた従業員の2人がいました。

これはわたしの想像していた景色と違いました。
あの時、トロントで乗り遅れたあの時は、従業員なんていなかったからです。

わたしは彼女に話しかけると彼女はこう口にしました。

"Let me check your ID."

パスポートの提示を要求されたのです。
わたしは依然としてぜぇぜぇと息を切らしていましたが、
その音色は次第に変わっていきました。

だって、
搭乗しない客のIDを確認する必要などないんですから。

パスポートを見せ終えると、ゲートが開きました。
わたしはさらに驚きました。
中で列ができていたからです。出発時刻の1分前に、です。
異様な光景でした。

列が進み、その理由を理解しました。
乗客は、機内手荷物を積む場所を探していました。
機内手荷物の総量が多く、積み場所を探すのに時間を要していたのです。
そのハプニングが、わたしを救ったのです。

わたしの荷物はリュック1つだったので、スムーズに席に座りました。
手にした成功をすぐには実感できませんでしたが、次第にそれはわたしを包みました。そして飛行機の座席でわたしはこうツイートしました。

ツイートの通り、間違った選択と正しい選択、それに加えて環境的な幸運と不幸がわたしをこうさせました。

バスの誤予約、Lightningケーブルから始まり、受託手荷物をつくらない判断、バスの遅延、iPadにスクショを残すという英断、あらゆる局面で発揮された勘、「Tim Hortons」、コンビニの立地、長蛇の列を抜けるタイミング、チェックインカウンターで助言してくれた優しい従業員の方、空いているゲートを使わせてくれた空港の従業員の方、そして搭乗に際するハプニング。

あらゆる事柄がわたしを苦しめ、また救ってくれました。

しばらくすると機体は動き出し、離陸しました。
トロント行きの飛行機は、其処此処に雲が浮かぶすっきりとした空路を進みました。機体はガタガタと揺れていましたが、それが何かを表していたとすれば、それはトロントへの期待や、努力が結実したことへの興奮でしょう。

トロント編、及び帰宅後のキャンモア生活は、(2)以降へ続く…

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