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ブエルタ・ア・エスパーニャ2022 第9ステージ

オランダの「大人しいブエルタ」で始まった第1週目も、後半はカンタブリア山脈4連戦という実にブエルタらしい展開へ。その最終章となる第9ステージは、2018年のブエルタで初登場し、サイモン・イェーツがその年のマイヨ・ロホを掴み取る大きな一手となる勝利を遂げた激坂1級レス・プラエレス(登坂距離3.9㎞、平均勾配12.9%)。サイモンはここで「復活」を遂げられるか。そしてここまで絶好調であり続けているエヴェネプールは引き続き強さを見せられるか。

予測不可能な展開の続く2022ブエルタ最初の山場ステージ。


前日に続く逃げ切り勝利も期待できるこのステージで逃げに乗ったのは9名。

サミュエーレ・バティステッラ(アスタナ・カザフスタンチーム)
エドアルド・ザンバニーニ(バーレーン・ヴィクトリアス)
ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ)
ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
フィリッポ・コンカ(ロット・スーダル)
ジミー・ヤンセンス(アルペシン・ドゥクーニンク)
ロバート・スタナード(アルペシン・ドゥクーニンク)
マヌエル・ホセディアス(ブルゴスBH)
シモン・グリエルミ(アルケア・サムシック)

プロトンはもちろんクイックステップ・アルファヴィニルが隊列を組んで先頭牽引。スタート直後の激しいアタック合戦の際にはリチャル・カラパスやテイメン・アレンスマンといった危険な選手も入り込んでいたらしいが、それらもクイックステップがきっちりとペースを上げて引き戻していたようだ。

結果的に、最も総合タイムの良いメインチェスでも8分28秒遅れと、そこまで危険でないメンバーに逃げを許したクイックステップはそのままペースダウン。残り22㎞でタイム差は4分13秒と、逃げ切りも十分に見込めるタイム差で終盤戦へと突入していく。


逃げに2枚乗せているアルペシン・ドゥクーニンクが波状攻撃を仕掛け、最終的に残り9㎞でサミュエーレ・バティステッラとジミー・ヤンセンスの2人が抜け出す。

ヤンセンスは追走集団にチームメートがいるために先頭交代を拒否。これを振るい落とすため最後の1級山岳突入前から結構登るレイアウトをガシガシと踏んでいくバティステッラだが、ツキイチ状態のヤンセンスを振り払うことはできなかった。

そしてプロトンではこの日もジュリアン・アラフィリップが強烈なペースで牽引し、一気に集団の数が削り取られていく。

そして残り4㎞。1級レス・プラエレス(登坂距離3.9㎞、平均勾配12.9%)の登りが始まる。

いきなりの15%勾配区間で、ここまでツキイチを続けていたヤンセンスが加速し、バティステッラがもがくもフラフラと蛇行し離れていく。時速11㎞。900m後方を走るプロトンもアラフィリップ先頭で登りに突入し、その数はすでに20名もいないほどであった。

先頭はヤンセンス。16%勾配区間を3秒遅れでバティステッラが追いかけるがその顔はもう前を向いていない。そして2人の後方から、登りに入って一気に息を吹き返したルイス・メインチェスが現れ、一気にバティステッラの背後にとりつく。

先頭残り2.8㎞。プロトンではフアン・アユソーが先頭に立ち、その後ろにはもうエヴェネプールとマスとログリッチだけ。カルロス・ロドリゲスが少し離れて単独追走し、その後ろのサイモン・イェーツやシヴァコフ、オコーナーらはもうこの日の勝負権を失っていた。

先頭残り2.7㎞。エヴェネプールがプロトン先頭に立つ。この日は何度か後ろを振り返るが、先頭を譲ることはせず相変わらずのシッティングでペースを上げていく。

先頭残り2.6㎞。メインチェスが先頭のヤンセンスに追い付き、一気にこれを抜き去っていく。ここで心が折れたヤンセンスは急激に失速し、バティステッラにも追い抜かれる。

先頭残り2.5㎞。エヴェネプールがひたすらプロトン先頭で踏み続ける。そして第6ステージのとき同様に――マスだけが彼に食らいつき、アユソーとその後ろについていたログリッチは離れていく。

先頭残り2.3㎞。残り3㎞ゲートを通過したエヴェネプールはシッティングのままペースを上げ続け、この日はマスも引き離されていく。マスはたまらずダンシングで追いかけようとするが、シッティングのままのエヴェネプールとの距離は無情にも開いていく。

先頭残り2㎞。17%の超激坂区間に突入したエヴェネプールはさすがに腰を上げる。その後方のログリッチは追い上げてきたカルロス・ロドリゲスにも追い抜かれ、ロドリゲスはさらに前方のアユソーとマスに合流する。

総合争いを左右する重要な一戦となったこのカンタブリア最終戦。レムコ・エヴェネプールは破壊的な強さを見せつけ、そしてログリッチが崩れる中、マス&アユソー&ロドリゲスのスペイン3人衆(うち2名はグランツール初出場)が総合TOP5入りを決める鮮烈な走りを見せつけた。

だが、そんなエヴェネプールもスペイン3人衆も、前日に遅れ苦しい状況に立たされながらも執念の走りをこの日見せつけたルイス・メインチェスには届かなかった。

2016年・2017年にツール・ド・フランス総合8位。その後は失意の時代を過ごしながらも、アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ入りした昨年から少しずつ復調し、今年のツール・ド・フランスでは一度遅れながらもラルプ・デュエズで復活し最終的には自身3度目の総合8位を掴み取った男が、このブエルタでも一度遅れた中からの復活の可能性を感じさせるステージ勝利を成し遂げた。

年齢表記はすべて2022/12/31時点でのものとなります。


そして、総合争いではエヴェネプールが頭一つ抜け出す形で第1週を終える。ログリッチは連日の遅れでそのタイム差は1分53秒に。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2022 第1週終了時点での総合リザルト


だが、まだ何も決まってはいない。昨年のジロ・デ・イタリアでもエヴェネプールは第1週は非常に好調であった。そんな彼が、第11ステージでまさかの失速。

この先はまさに未知数の世界。今大会最も厳しい第2週を経て、この総合順位表がどのように変化してしまっていても何も驚くことはない。

それこそ、最終的に総合表彰台の頂点に立つのがアユソーであるという可能性すら、まだまだある気がしている。


そんな、注目の第2週については以下のコースプレビューを確認してほしい。

バレンシア州からアレハンドロ・バルベルデの故地ムルシアを経て灼熱のアンダルシアへ。そしてイベリア半島の「天井」シエラネバダ山脈でのクライマックスが描かれる。

果たしてどんなドラマが待ち受けているのだろうか。

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