2018年に聞いて好きになった11曲

2018年に聞いて好きになった曲たちを紹介します。2018年の曲ではなく2018年のぼくの耳に合っていた曲です。ぼくの耳は近年オーナーの怠慢によりアップデートがなされておらず、あまり現代的な仕様ではないので、必然的にやや古い音楽が中心になります。ぼくもナウい音楽に明るいいっぱしの音楽リスナーになりたかったよ。

The Bats - Miss These Things 

ジャケのイラストからその筋で「研ナオコ」と呼ばれていたらしいんですが、ホントかよ。ニュージーランド屈指のインディーレーベルFlying Nun Recordsから87年に出たアルバム「Daddy's Highway」より。というかぼくはここ以外ニュージーランドのレーベルを知らない。所属してるバンドはどれも六十年代に酔ってる時代錯誤なへろへろギターポップをやるので安心していいです。The Batsはレーベルの中では「ちゃんとしてる」バンドで、インディー丸出しのサウンドを除けば抜群にポップ。アップテンポなナンバーは普通に踊れそう。でもアルバムで一番ぐっと来たのはスローなこの曲で、理由はなにかというと空虚さがすごかったところですね。イントロのクリーンなギターが空っぽの空間に残す残響はGalaxie 500に通ずる感触がありますし、その後乗ってくるボーカルの弱々しさは喪失感をどこまでも深くします。世の中には音楽に虚無感を求める人とそうでない人がいますが、自分が前者だと感じる人は聞いておいて損はないです。

David Grubbs - Whirlweek

二十代後半に差し掛かったころから「なんでこのアルバムもっと早くに聞いておかなかったんだろう」と思うことが増えました。存在は知っていたけどつい聞く機会を逃していたアルバムや、好きなバンドのメンバーのソロアルバムなんかを聞いたときによくそういう感想を持ちます。ぼくもいよいよ新しい音楽を追うことが難しくなって、過去を利用して退屈をしのぐパートに入ってきたということなんでしょうかね。よくわかんないですが。

デイビッド・グラブスといえばジム・オルークと組んだGastr del Solでの活動が有名ですね。ぼくも勝手にサンプリングする程度には好きなバンドですし、ジム・オルークのソロも聞いたことがあるんですが、不思議とグラブスのソロは聞いていませんでした。Gastr del Solで一番好きなアルバム、グラブスの色が強いUpgrade & Afterlifeなのに。

そういうわけで見過ごしてたなと気付いて、グラブスのソロ「The Spectrum Between」聞いたんですが、再生して三曲が続けてすばらしかったので最速で名盤の判定が下りました。最初の三曲がよかったら、後がどうなろうと名盤です。まあ、このアルバムの場合は全部いいんですが。36分というコンパクトさの中でグラブスの透明なギタープレイが堪能できて、しかも曲自体すばらしい。グラブス、ボーカルもすばらしく、繊細ながらどこか投げやりで突き放した歌唱はほんとうの癒しです。比較に上げたくなるのはミヒャエル・ローターのソロ作でしょうかね。Katzenmusikあたり。プレイスタイルは違いますがギターにアンビエンスな感じがありますし、二人組ユニットのギタリストが解散後に出したソロアルバム、近しい文脈に属する腕っこきのドラマーを起用、ということで。そう、忘れてましたが「The Spectrum Between」のドラムは大半がジョン・マッケンタイアのプレイ。本当になんで最近まで聞いてなかったんでしょうね。二年くらい前に聞いておくべきアルバムでした。

Bernerd Collins-Young Wings

みなさん大みそかはなにをしてましたか。ぼくは一人でレゲエを聞いてました。寒かったので気分だけでもジャマイカに行きたかったんです。そんな中たまたま聞いた曲がこれなんですが、イントロが大分よくってボーカルも好感度高かったので即座にリピートして何回も聞いてました。タイトル通り、若干の青臭さを残しているのがいいんです。ぼくはあまりにメロウなブラックミュージックを聞くと反射的に怒りを覚えるのでこのくらいがちょうどいい。フィッシュマンズとか好きな人はだいたい好きだと思います。ぼくのレゲエに関する知識はボブ・マーリーとフィッシュマンズで止まっているのでそれ以上のことは言えませんが。

あとこの曲とは関係ないんですが、やはり大みそかに聞いたPeter ToshのLegalize It、なにいってるかわからないけどガンジャって単語だけはやたらはっきり聞こえるのと幸せそうなジャケ写に笑ってました。ミュージシャンは頭があまりよくない生き物なので、すぐにジャケットに自分の好きなものを使ってしまいます。

The Tape-beatles - A hard hand to hold

今年聞いて衝撃を受けたバンド……バンドかなあ。名前からテープとビートルズが好きなんだという純粋な気持ちが伝わってきますね。ミュージシャンという生き物は頭があまりよくないので、すぐにバンド名に自分の好きなものをいれてしまいます。つまりアルビニはよっぽどレイプマンが好きだったんでしょうね……。

この曲はなにもかもがすごいんですが特にタイトルはすさまじいですね。聞けばその意味するところは一発で、A Hard Day's Night と I Wanna Hold Your Handをぐちゃぐちゃに混ぜてあります。方法論としてはジョン・オズワルドのプランダーフォニックスまんまですが、エディットのセンスが天才的としか言いようがない。近年のポップスはスマホでの再生に最適化されていて最初の三十秒で気に入ってもらえるようにみんながんばっているそうですが、この曲は再生して五秒で愕然とします。新時代のポップスとはこうでなくてはならないのかもしれません。

Maher Shalal Hash Baz - These Days

ようやく2018年のアルバムが出てきましたね。よかった。時代の流れについて行けそうです。こちらMaher Shalal Hash Bazの2018年の新譜になります。バンドの音楽性については、Mayo Thompson、Jad Fairがファンを公言、Kレコーズからアルバム出してた、あたりで察してください。

とくにコメントすることのない曲なんですが「五年経ったらみんな死ぬ」の歌詞が狂おしく好きで、聞くたびに「五年経ったらみんな死ぬんだなあ」という気分になります。五年経ったらみんな死ぬんだぞ。なんかビタミンについて歌っているのでカンのビタミンCの話しようと思ったけど、絶対関係ないですね。五年経ったらみんな死ぬし。

Hiperson - He’s As Proud As My Teacher 

これも2018年のアルバムですね。2018年にリディア・ランチの影響が色濃いポストパンク(というかノー・ウェーブ)を聞くことになるとは思わず、しかもそれがまったくなじみのない中国圏のバンドだったので完全に興奮してしまった。そのせいで去年の六月ごろはひたすら中国のロックを掘っていた形跡があります。掘ってみてわかったんですが、二十一世紀入ってこっち中国ではポストパンク的な音楽やるバンドがかなりいますね。後で調べたところによるとP.K.14という中国のバンド(これもめちゃいい)の影響が大きいらしいです。とにかく一昔前のポストパンクリバイバルでリバイバルしなかった類のポストパンクが発展形となって現在進行形で聞けるので、中国のロックバンドはとてもいいです。付け加えるならフォークもかなりいい。萬曉利のライブアルバム、一曲目で完全に持っていかれました。欠点はしばしばバンド名が読めず検索が難しいこと。

John Cage - Annelie Gahl, Klaus Lang ‎– Melodies & Harmonies

ジョン・ケージのSix MelodiesとThirteen Harmoniesなんですが、編成がバイオリンとフェンダーローズなんですよ。正直この情報だけで既にいい。ローズはアコースティックのピアノに比べて響きと揺らぎがシンプルで純粋に感じるのでケージのこの曲には完全にマッチしています。奏者についてはよく知らないんですが、ローズ弾いてるKlaus Langはヴァンデルヴァイザー楽派に連なる作曲家っぽいです。なんかそう知ると急に間を活かした演奏に聞こえてくる気がしませんか。ぼくはよくわからないです。

どの曲もいいんですが特にSix Melodiesの四番、一分ごろから三十秒程度ローズピアノ左手での同音反復があって、そこに続く解決の美しさがすばらしいんです。純粋な響きの中に不安と恍惚の両方がある。

Algebra Suicide - Tonight

明らかにスーサイドとパティ・スミスというニューヨークパンクの文脈に連なる音を奏でているんですが、パンクには遅すぎたバンドです。ミニマルな構成、安っぽい音のドラムマシンとポエトリーという組み合わせはスーサイドを彷彿とさせますが、こっちはオルガンでなくギターでエフェクトもかなり控えめ。狂気も怒りもなく、もっと落ち着いた覚めている音楽で、完全に抑制が効いています。88年当時ならもっとマシな音のドラムマシンがいくらでもあったのにあえてスーサイドやYMG、初期The Durutti Columnのようなちゃかぽこと鳴るチープな音を使ったのは自分たちのやりたいことがわかっていたからなんでしょうか。アルバム「The Secret Like Crazy」はバンド編成、アルバム構成、曲構成とすべてにわたりミニマリズムが貫徹してるので文句のつけようがないです。大事な情報を補足しておくと、EPの「An Explanation For That Flock Of Crows」のジャケットが完全にあしゅら男爵です。

Tom Waits - Earth Died Screaming

Netflixでテリー・ギリアムの12モンキーズを見ました。いい映画でした。ブラピはずっと狂人の役だけやってほしい。これは劇中で流れてた曲なんですが、キャプテン・ビーフハートかなと思って調べたらトム・ウェイツでした。

トム・ウェイツ、声がゲロ化してからのはほとんど聞いてなかったんですが、この曲をきっかけに再入門しました。初期のSSWのイメージが強かったので最初は戸惑ったんですが「これはゲロになったトム・ウェイツではなく、ややマトモになったキャプテン・ビーフハートだ」と思い込むことで事なきを得ました。

さてこの曲が収録されているアルバム「Bone Machine」はトム・ウェイツが急にパーカッションに目覚めていろいろ叩いた結果できたそうです。皆さんご存知の通り「急に○○に目覚めた」はゴミのリスク要因としてはかなり大きいものです(例:急にシンセに目覚めたニール・ヤングのトランス)。果たしてこのアルバムがどうなったかというと、期待に違わぬゴミになりました。人間急に目覚めるとろくなことにならないんですね。比較の対象として適切なのはSSW時代のトム・ウェイツの作品よりも圧倒的にトラウト・マスク・レプリカです。さすが急に目覚めただけあってパーカスはすごくて、荒涼とした音像の中にどたどた鳴り響くパーカスは呪術的というか破滅的。トム・ウェイツの行き過ぎダミ声もあいまって世紀末、あるいは末法。なにもかもが壊れた後のサウンドトラックという感じ。しかもそれでいてWho Are You This Timeみたいに初期に近い美しい曲も挟んでくる。なんでお前それできるのにこんなゴミやってるんだよ。

Ten City - That's The Way Love Is

急にクラシックなテクノとかハウスを聞きたい気分になってしまって、そのときハマってた曲です。今じゃ当たり前のR&Bにハウスを取り入れたやつのはしりですね。みずみずしくもちょっと角があるストリングスに始まる、多幸感にあふれたすばらしいダンスチューンなんですが、全体に粗さも残ってる感じがいい。特にボーカル、もっとうまい人はたくさんいるとは思いますが、愛についてまっすぐ歌ったこの曲には少し未熟さを感じさせるくらいがちょうどいい。ピアノも時代を感じる音でなんかなごみますね。少し脱線しますがハウスと言えば去年KLFの評伝が出てましたね。不勉強ななものでまだ読んでない、というか買ってすらいないのですが、趣味でサンプリングをする人間としては避けては通れない道ですし、近いうちに読みます。きみもKLFの評伝を読んで現金を燃やそう。

Puhyuneco - 恋バナ

ボカロを聞かない人にはなじみがないかもしれませんが、Puhyunecoは近年熱心なリスナーから大いに関心を集めているボカロPです。ホントです。歪んだ音響、シンプルで美しいメロディ、極端なピッチ処理がほどこされた異常なコーラス、90年代的な音色のリズム、チープなのに切々と胸に迫るストリングス、どこか情緒の不安定な歌詞で描き出す十代のサウンドトラック……影響を求めるなら90年代のAFXや竹村信和、そして2010年代のArcaやJames Blakeになるんでしょうか。恋バナを聞くと同時代的な響きと90年代的な過去への郷愁の間で引き裂かれるような気分になりますよね。なるんですよ。

正直なところ、ぼくが今日これを書いたのはPuhyunecoを知らないみんなにPuhyunecoを覚えて帰ってもらおうと思ったからです。いいか、覚えたな。Puhyunecoだからな。覚えたら明日はお友達に「Puhyunecoってのがマジできてるんだよ!」と教えてあげよう。そこで「は? おれはDavid K Andersonのころから聞いてるんだが?」と返してるオタクがいたら、それがぼくです。

そういうわけで2018年によく聞いていた曲たちでした。いかがだったでしょうか? この「いかがだったでしょうか?」ってやつ、書いていて無性に腹が立ったので二度と使わない。老化と孤独を噛みしめながら書いたので、読んでいただけたら嬉しいです。いいか、Puhyunecoだぞ。覚えたな。

最後に紹介した曲まとめたプレイリスト載せておきます。SpotifyなのでPuhyunecoはない。

#vocanote

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