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祭りか、それに等しいもの/出版社とフリーランスが生き残るための1000の試論

先日、宮崎県の美郷町に行ってきた。

実は、今年新設された「西の正倉院 みさと文学賞」(企業版ふるさと納税を活用した文学賞で、映像化やラジオドラマ化も仕掛けていく予定の意欲的な賞)に、日本放送作家協会の会員として僕も携わっている。

無論、現地を知ったほうが良いものが書けるということで、審査委員長の中村航さん(85万部『100回泣くこと』などでおなじみ)のご協力を得て、現地講座も含めた美郷町ツアーを開催したのだ。

余談だが、小規模出版社やフリーランスは業界の協会に入っておくのは悪くない選択肢だ。

日本放送作家協会の場合、会費が月1,000円かかるのでそれがボディーブローのように効いてくる可能性はあるが(入会審査もしっかりしている)、秋元康さんが理事長をやっていた頃から、新たな事業を生み出そうと模索していたらしい。

2011〜2013年までやっていたニッポン放送「AKBラジオドラマ劇場」などは新人放送作家の登竜門として機能していたし(脚本が公募制だった)、今回のように新しい話を振られることも少なくない。仕事の幅が広がる可能性がある。

出版社・クラーケンとしては版元ドットコムに加盟しているが(同じく会費は月1,000円)、こちらは1,000円とは思えないほどデータベース関連が充実している(TRCのレポートで図書館の購入数などもわかる)。

出版に関する疑問にも幹事社のベテランの方々が答えてくれるので、困った時に頼りになる存在でもある。

話を戻そう。人生初のツアー主催者は緊張感があったが(飛行機のチケットを全部自分が持っているので、遅刻が許されない!)、それはどうでもいい。

美郷町は2,000人くらいの自治体で、町内にあるのは中学まで。人口は減り続けているものの、師走祭りという火祭りを毎年実施している。時期が合わず生ではまだ観ていないが、映像や写真を見るだけでもすごい。

▲火事に見えるが、そういう祭りである。

小さな町でも、日本全国の祭りと比べても遜色ないどころか、むしろエッジの立ったものが力強く開催されている。企業や住民も協力を惜しまない。このことに、少なからず心を揺さぶられた。

帰りの空港で中村航さんがぼそっと言っていた、「本も祭りのように売って欲しい」という言葉も、編集者は胸に刻むべきだと思う。

出版社にとって本の出版は日常だが、著者の側はそうではない。たいていは多くても年に1〜2冊の刊行なのだから、もっと祭りのように盛り上げて欲しいというのは、当然の気持ちだろう。

講談社のような年1,500〜2,000冊出しているような出版社には無理だが(毎日が祭りになってしまう)、ウチのような年10冊以内の出版ペースの会社なら、それはたぶん可能だ。

実際、3箇所で延べ1,000名を動員した出版イベントの開催や(QuizKnock『東大発の知識集団 QuizKnockオフィシャルブック』)、 前代未聞の“他力”発売カウントダウンイラスト企画(ブルボン小林『ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論』)など、クラーケンでは祭り感のある販促プランが増えてきている。

▲特大会場にて開催した『QuizKnockオフィシャルブック』発売記念イベント東京追加公演(2部合計400名)。

▲5名の豪華漫画家に参加いただいた『ザ・マンガホニャララ』の“他力”カウントダウン企画。写真は『メタモルフォーゼの縁側』が大ヒット中の鶴谷香央理さんのイラスト。

クラーケンでは著者に稼働いただいた分は(印税と別に)極力多くギャランティをお支払いする方針で(当たり前と思うかもしれないが、印税で払うのがビジネスモデルと主張して、一切払わないケースが多いのが出版業界の悪しき慣習だ)、特にイベントは採算的に自主開催が多くなってしまう。

自主開催は準備から当日の運営まで気が抜けずに大変だ。だがそれも祭りと思えば気にならない。

ブルーシープのような主に展覧会・展示会とセットになった書籍をリリースする出版社も出てきた。出版社はイベント下手が多い印象だが、イベントを核にして付随する業務として出版事業を行うケースは、今後増えていくのではないだろうか。

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