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百年前の二十世紀(未来を見通す力)

先日、自身が主催する読書会に持ち込んだ書籍は、個人的には夏休みの読書におすすめしたい本の一つです。来るべき長期休暇には、じっくりと読書し、普段考えないことなど思索にふけることも自分の肥やしになるのではないでしょうか?少しだけ僕の今年の夏の推薦本のご紹介にお付き合いください。

1.誰のどんな書籍なのか?

著者は横田 順彌(よこたじゅんや)さん、1945年生まれ(73歳)のSF小説家で戦前の日本で書かれた古典SFを研究する方です。本書は、昔の文献からかつて日本が行っていた未来予測について整理をした書籍です。

1994年初版で、中高生向けに書き下ろされた同書は、1995年に青少年読書感想文全国コンクール 高校の部の課題図書に選出されました。

2.ざっくり言うとこんな本

明治・大正時代に日本ではどのような未来予測(100年後の見通し)がされていたのかを研究し、整理した本です。言い換えれば、1900年前後に2000年頃を予測した視点を紹介する本とも言えます。ちなみに、1900年は明治33年で日露戦争開戦の4年前という時代背景です。

3.なぜ、この本を取り上げたのか?

アマゾンの書評を読んだわけでも、書店で見つけたというわけでもありませんでした。ある日、自宅で子供が公文の宿題(国語)をしている際、これで正解かどうか見て欲しいというので、ふと問題文を覗き見ると・・・そこに記載されていた国語の問題文の内容が面白く、子供の勉強のアドバイスはそっちのけで文章に見入ってしまったというわけです。それが、この『百年前の二十世紀』という書籍です。

4.主な未来予測のご紹介

僕が関心をもった、明治の文献のエッセンスをご紹介します。明治34年(1901年)に報知新聞に掲載された『20世紀の予言』という連載で日露戦争の3年前の文献などからポイントだけ抜粋してみます。※この文献の執筆者は未だ誰なのかは特定されていないそうです。

大前提として、当時の日本にはデータ収集やエビデンスを確保することが現代とは天と地の差ほどできない時代のことです。おそらく、「想像と願望」が中心となり、論文やレポート類ではなく、SF小説を通じた未来予測がほとんどの時代のお話です。

(1)電送写真の誕生 
 ⇒ 現代の「写メ」?
(2)小型自家用飛行機 
 ⇒ 現代の「ドローン、空飛ぶタクシー」?
(3)300階建ての家
 ⇒ 現代の「タワマン」?
(4)声に反応して施錠が開く仕組み
 ⇒ 現代の「スマートロック」?
(5)部屋に入ると人造人間が探知して電気をつけてくれる
 ⇒ 現代の「アンドロイドロボット」?
(6)ボタン一つで壁がスクリーンになり世界中の演劇などが観れる 
 ⇒ 現代の「プロジェクター」「衛星放送」?
(7)ボタン一つで机の下から2~3分以内で食事が出てくる
 ⇒ 現代の「デリバリー」「電子レンジ」?

<特に的中した予言で印象的だったもの>

(1)国際電話
(2)遠距離の写真電送 ⇒ メールや衛星放送?
(3)高速鉄道 ⇒ 新幹線
  :冷暖房が完備され、東京と神戸間は2時間半でいけるとまで的中。
  :当時は列車で17時間22分かかる時代。
(4)自動車の普及
  :1901年は国内に4~5台しか車がない時代。
  :すでにこの時から50年後には乗り捨ての自動車が登場し、使いたいときに必要な人が利用する形式を予測。⇒ レンタカー、カーシェア?

「通信と移動手段」は特に願望が強く未来予測に入り、また実用性や社会の利便性向上に人々の関心も高かったのでしょう。それが、現代の私たちの生活や仕事の基盤にもなっているから感銘すら受けます。

また、自動車の普及は注目のテーマです。現代は、自動車業界が、いま激変期に入りました。自動車が普及してからは、馬車や乗馬が一部の人が楽しむ高級な遊びになりましたが、きっと自動車も数十年後に同じようになるでしょう。

僕がおじいちゃんになる30年後(2050年)以降には、「そういえば車を自分で運転する時代があったなぁ・・・」と。その頃には、かつての馬車や乗馬と同じように、自動車マニアや運転が趣味の人以外は、車の運転が日常生活から趣味の一部に変わっているのだと思います。

ちなみに、最後に挙げた自動車の普及のさらにその先でカーシェアのようなものまで予測できていたとすれば、当時の人々の未来を見通す力に敬服です!

<その他の個性的な予測>

一番面白かった予測は、「冷凍睡眠機」です。これは書籍の表紙にある挿絵にも使われています。簡単に言うなら、人間を生きたまま冷蔵保存し、300年間冷凍。300年後にはなんと蘇生し、生き返れるという機械です。浦島太郎を実現しようということなのでしょう。もちろん、まったく同じ予測は技術的にも実現していませんが、精子の冷凍保存や死体の冷凍保存という技術が普通にありますので、いつか予想どおりに実現する日がくるかもしれませんね。

5.なぜ予測が的中したのか?

本当の意味で予測が的中した理由は未だに分かりません。ただ、本書では著者の仮説が紹介されています。

(1)
情報がない時代は、未来予測やSF小説は現実逃避でもあったため、どうせ先のことは分からないし、予測が簡単に当たらないなら願望も含めて適当に考えてみようという 「楽天的な気持ち」を持つ心のゆとりがあったからでは?というものです。

※1900年代に入り、後に日本は軍国主義に突入。政府の見解や予測に反したメッセージは太平洋戦争が終わるまでは不可能な言論統制の時代に入っていきました。そういう点で、未来予測が出された時期は、唯一、適当な発言をしやすい時代環境であったのかもしれません。

(2)
日本人は元来「物まねがうまい民族」だからという仮説もありました。欧米での新技術をどのように自国にとりいれるかと想いを馳せているうちに精度が高い予測になったのでは?というものです。

日本はまだ技術力に乏しい発展途上国の時代のため、欧米列強の新技術と自国へのローカライズの検討、それらを踏まえた願望と仮説が絡み合って未来を見通す力がついていったのでしょうか。

※余談ですが、この本を読書会に持ち込んだ時に話題になったことは、時代の先読みは3つの鍵があるということ。「軍事、エロ、ゲーム」産業の動きで”兆し”を察知しやすくなるということです。インターネットやGPSに代表されるように、多くの産業で軍事技術が先行し、性欲をそそらせるエロ産業で一部では大衆化し、ゲームになってエンタメ化していく。

いわば、闘いの道具づくり(生存に関わるもの) ⇒ 性欲を満たすための快楽づくり(体に関わるもの)  ⇒ 心を満たすための快楽づくり(心に関わるもの)。このように時代は進化していくのかなと時代の一側面では語ることができるという見解でした。 もちろん仮説ですけどね。

6.予測が外れたものはあるのか?

もちろん、本書を読むと予測が外れたものもたくさんあります。完全的中、方向性だけ的中、まったく見当違い、まったく不可能、今は不可能など段階はあります。しかしながら、予測すら出されなかった(希少だった)テーマもあります。

あくまでも”諸説あり!”という前提で、こういう考察もある!という視点でお話を聞いてください。本書のセッセンスをかいつまみます。

(1)パソコン

これは予測できていなかったというのが意外でした。ロボットは予測できても、コンピュータという発想にならなかったようです。人型ロボットはイメージしやすくても、「パソコン≒半導体」というのは形すらイメージがしづらかったのかもしれません。

(2)バイオテクノロジー

薬は昔からあったものの、たとえば遺伝子組み換えによる植物(食物)の開発やクローン人間という発想になることは少なかったようです。クローン人間で言えば、「遺伝子」という発想ではなく機械でつくるような人間改造がメインだったようです。(映画ロボコップやターミネーターのイメージでしょうか)

(3)公害、交通事故、薬の副作用など負の予測全般

負の予測が少なかったのは予測ができないのではなく、きっと目を背けたかったのだと推測できます。予測といってもエビデンスがとれない時代には、願望や主観がかなり入りますからね。ただ、一部の人は「発展⇒負の側面」という順番で先回りして予測をした人もいたようです。プラスとマイナスの側面はいつの時代も表裏一体であると覚えておけばよいでしょう。

7.本書から学べたこと、感じたこと


(1)未来を見通すことは楽しい

単純に、未来を見通すことは楽しいということです。妄想でも空想でもいい、自分たちの未来が進化する様は問題や苦しみを解消してくれるという願望も入るため楽しいということです。

私たちは目の前のことに必死になる毎日を送っています。忙しいと目先のことしか考えなくなります。もちろん長期計画などをたてることもあるでしょう。しかし、100年単位で考えることは少ないことでしょう。(ソフトバンクの孫正義社長は300年構想を打ち出していますが)

時には思考の枠を大きくはみ出し、思考のジャンプをすることは頭を柔らかくするゲームのように楽しめるのです。

(2)未来予測には心のゆとりが必要

(1)でも書きましたが、目の前のことだけに血眼になっていると先のことなど考えようもありません。目先のことでさえ、時間もお金も、自由に考えて発言する権利も”ゆとり”がなければイメージすらできないことでしょう。

そういう意味では、人類の未来は”心のゆとり”がつくりだしていくのではないか。僕はそう思いますね。

(3)創造ではなく想像もするべき

僕の解釈では、「創造力」(クリエイティブ)とはスキルです。様々な情報を新たな組み合わせをしていくことで一定レベルで創造は可能なことでしょう。これは数々のヒット商品を見ていても思います。そういう意味では、「創造」は現状を踏まえて、イノベーション(革新)も可能にしてくれます。ただ、それだけでは時代の扉は開かないのではないか、延長線上にはない突飛な想像があってもいいのではないか。

そこで「想像力」(イマジネーション)の登場です。「想像」とはスキルではなく個人の意思であり、想いであり、人間の脳が持つ可能性である。僕はそう定義づけています。必ずしも過去の延長線上ではなく、非連続線上にありレボリューション(革命)すらも可能にしてくれます。

イノベーション(創造)の大切さが語られる昨今、視点をもっと先まで伸ばし、イマジネーション(想像)することで逆にイノベーションも可能になるのではないでしょうか。かつての明治以降の日本人のように。

この夏、想像する夏にしてみませんか?

著者・思考の整理家 鈴木 進介











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