三匹が行くコロンビアの旅(1)旅立ち

<はじめに>
 本当は、昨年中にコロンビア旅行を敢行する予定だったのだが、紆余曲折があり延期が続いていた。
 一時は、航空券確保まであとワンクリックというところまでいったものの、新型コロナウィルスの情勢変化で急遽保留したこともあった。引き続き新型コロナによる出国・入国手続きの不安定さも気になっていたところに、予想外の円安という新事情も加わり、個人的に納得がいかない(!)状況が続いて、先延ばしが続いていたのだ。

 とはいうものの、娘ルピタはすでに3歳。機は熟している。円安が若干緩和されたタイミングを見計らって航空券確保を実行。その後は、To do Listに沿ってやるべきことを一つずつ潰していき、気が付けばあっという間に出発1週間前になり、お土産購入のラストスパートをかけて、出発前夜にようやくパッキングが完了したという具合。

<20XX年2月5日>
 太平洋を越えるフライトは12時間くらいかかるのだから寝る時間は十分にある。出発前夜は寝なくてもいいだろう、くらいの気持ちでいるのがいつものパターン。
 とはいえ少しは寝たいので、とりあえず寝て午前2時に起床。空港でやらなくてもいいように、仕事メールの最終チェックを片付けて、持っていくスーツケースや手荷物のパッキングを完了。アレクサはベッドに入らず、仮眠の後にパッキング作業を完了させた。ルピタはふだんは朝7時くらいまで寝ることが多いが、パパに似たのか朝はわりと強いので、早起きも問題ない。

 フライトは午前10時のため、その2時間前には空港に到着できるよう自宅を出発。いよいよコロンビアに行くとわかり、ルピタも少々興奮気味だ。
 当初は高速バスを使うことも検討したが、スーツケース3個以上と手荷物を持って子連れで行く手間を考慮し、結局いつも通り自家用車で行くことにして、空港近くの長期駐車場を予約しておいた。しかし、よく考えてみると前回のコロンビア旅行は母の綾子に空港まで送ってもらったので、長期駐車場を予約して自分の車で行くのは実はかなり久しぶりだということに、後で気づいた。

 長期駐車場に車を預け、ほぼ予定通りの時刻に空港第二ターミナルまで送ってもらう。母綾子と再々婚相手の川畑氏と合流し、母からの手土産を受け取ってからチェックインをして大型スーツケースと日本刀の形をした傘を預ける。
 いつもなら2階に上がり、フードコートで出発前の恒例行事であるパッタイを食べるのだが、新型コロナウィルスの登場で大きく変わっているであろう出国審査に要する時間などが気になったため、母と川畑氏との別れの挨拶を済ませ、早々に出国審査の列に並ぶ。綾子は、ルピタとのしばしの別れがつらそうだった。

 出国前のX線検査装置とゲート式金属探知機は変わらないが、手荷物や携行品を出すトレーを流すシステムがだいぶ変わったようだ。手荷物などを置くトレーは上段にあり、モノをトレーに置いたら向こう側のベルトコンベアに押し出す。足元の下段には空トレーが流れてくる仕組みになっており、少し離れたところから空トレーを持ってくるなどの動作は必要なくなっている。
 ただし、一見効率的に見えるこのシステムも、肝心のX線検査装置による画像判断に時間を要するので、荷物を載せたトレーは常時詰まった状態で順番待ちになっている。
 身体を検査するゲート式金属探知機は相変わらずだ。仕事がら、ゲート式金属探知機だけでなくボディスキャナーによる検査も日常的に受けているので、ゲート式金属探知機は古い世代(我々のような?)の検査方法に見える。米国は早い段階からボディスキャナーを導入しているというのに、日本はまだまだ導入する気がないかのようだ。

 X線検査の結果、手荷物から禁止物品が出てくる、というのはもうお決まりのパターンと言えるだろう。ただし今回は、持ち込み容量オーバーの練り歯磨きとシェービングジェルという比較的「ふつう」のものが引っ掛かっただけで済んだ。容量オーバーなんていう概念があったんだったな、と久しぶりに思い出した。

 出国審査も問題なく通過し、たいていはこの後、搭乗ゲートに向かうときにエスカレーターを使う場面があり、お見送りに来てくれた友人たちに手を振って別れを惜しむシチュエーションがあるのだが、今回はそのエスカレーターを使う場面がなく、出国審査を出てすぐのフラットアプローチで搭乗ゲートに着いてしまった。こういう時もあるのか。
 華やかなお店が並び、検査や審査の緊張感から解放された人々が集まるエリアを3人で歩く。アレクサとは久しぶり、ルピタとは初めて。3人でこのエリアを歩く日が来るとは、独身であちこち行っていたころには全く想像できなかった。

 午前10時、JL8006便は定刻通り成田空港を離陸した。我々にとっては最初の経由地であるニューヨークへと向かうフライトだ。これから太平洋を越える約12時間という時間は、ルピタにとって試練の時間となるだろう。
 と思いきや、実際はそうでもなかった。当たり前の話だが、3歳の子どもを席に座らせてみると、身体が小さいゆえに、エコノミーとはいえファーストクラス以上のゆとりがある。3人が並んで座るシートなので、3歳児なら横になって寝ることも十分可能だ。動きたくなって、あちこち歩かせないといけないのではとも思ったが、ルピタはあまり気にする様子がない。食事が来れば喜んで食べ、眠くなったら寝て、少しグズついても大好きなしまじろうの動画を見れば、いやな気持もすぐに飛び去ってしまうようだった。

ファーストクラス以上のゆとり

 私は、このフライトの間に、最新作の映画の中から「トップガン・マーヴェリック」と「ウェストエンド殺人事件」を選んで視聴した。
 80年代の映画「トップガン」はもちろんこれまで何度も見ているが、率直なところを言うと個人的にはあまり好きではない。主人公の性格も、女性教官(言い方が古い!しかし80年代なのでこういう言い方になるだろう)との恋愛という設定も、個人的に好きになれない。
 しかし、今作「マーヴェリック」は、良かったと素直に思った。「ザ・ロック」を彷彿とさせるエド・ハリスを登場させる序盤がまずよし。その後の展開も見ていて楽しかったし、戦闘機の技術革新などを感じさせる内容も勉強になった。
 偉そうなことを言うつもりはないが、1作目の「トップガン」があまり好きでない私でも、2作目の「マーヴェリック」は素直に評価したい。

 成田を離陸してから約12時間後の、現地時間5日午前8時半、ニューヨークのJFK国際空港に到着した。
 ニューヨークの外気温はマイナスだという。東京よりも寒いだろうと予想していたが、まさにその通り。入国審査はヒスパニック系の女性職員で、アレクサがスペイン語で対応(英語ではない)。キューバ出身だそうだ(話すスペイン語でわかる)。コロンビア人と日本人のカップルはたいてい関心の対象になるので、この女性職員とも少々その話題になった模様。

 預けた荷物をニューヨークでいったん受け取らなければならない、と成田空港でのチェックイン時に説明を受けていた。しかし、すべてのスーツケースを受け取って自動ドアを1枚通過したすぐ外にConnection Deskがあり、すぐに預けることができた。対応した男性職員は、いちおうJALの職員のようだがやはりヒスパニック系で、アレクサがスペイン語で対応(英語ではない)。スペイン語強し。

 荷物を預けて身軽になったところで、シャトルバスに乗って別のターミナル棟へ行き、そこからさらにエアトレインに乗ってさらに細かいターミナル駅で降りる。ここからマイアミまではデルタ航空になるため、デルタのカウンターでチェックイン。
 出発までまだ時間があったが、見るところは特にないので、手荷物検査入り口前のベンチに座って小休止。ルピタがぐずり始めたため、少し様子を見ながら時間調整。泣いたりするが、予想していたよりもルピタはわりと普通であり、3歳でこの長旅に耐えるなら十分にタフな子だと思う。

 手荷物検査へ。米国なのでやはりボディスキャナーがある。ただし、ルピタと手をつないで一緒に行動していたため、ボディスキャナーではなく、横のゲート式金属探知機へ案内されて通過。これが子連れ相手の対応らしい。
 手荷物検査終了後、飲み物とサンドウィッチを購入して空腹を満たす。

 航空機の到着が遅れ、予定より約1時間遅れの16時半、次の経由地マイアミに向けてニューヨークを出発。搭乗の際、手荷物の小型スーツケース2個を追加で預ける。客席上部にあるスペースには入りきらないらしい。機内に乗り込んですぐにルピタが泣き始めたため、ここはしまじろうの動画で乗り切る。

 20時、マイアミに到着。
 搭乗前に追加で預けた小型スーツケース2個はピックアップしないといけないというので受け取りに行ったところ、大型スーツケースと一緒にボゴタまで直行するはずの日本刀の形をした傘まで出てきた。追加で預けたものと勘違いされたようだ。
 しかしこれは決して困る話ではない。というのも、この傘はボゴタへ持っていくことになったと思っていたが、実際は、ここマイアミで会うことになっているアレクサの友人にお土産として渡したいものだったからだ。

 荷物を受け取って屋外に出ると、タクシーが流れるレーン、一般車が流れるレーン、バスが通るレーン、という3つのレーンが並んでいて、その一般車レーンでアレクサの友人、エレナ夫婦と合流した。

 アレクサは、来日する直前にしばらくマイアミのエレナの下に滞在していたので、久しぶりの再会となった。私は、彼らと直接会うのは初めてである。
 エレナの夫マウリシオが運転するホンダで市内を少し走り、レストラン「OUTBACK」へ行き、ディナーを共にした。帰りもマイアミ経由だが、乗り継ぎ時間が短いため彼女らと会うことは難しい。そのため、一緒に過ごせる時間は実質的にこの夜しかない。
 食後は、いかにもマイアミらしいビーチ周辺を車で流し、しばしマイアミの雰囲気を堪能。パトランプを回転させた地元警察のパトカーから警察官がおりて、右腰の拳銃に手を添えながら、前方に停車させた不審な車に近づいていく様子などが見られた。
 予約していた空港近くのホテルまで送ってもらい、エレナ夫妻にお土産を渡す。サムライ的なお土産を期待していたマウリシオにいくつかお土産を渡したところ、日本刀の形をした傘が特に喜ばれた。成田でのチェックイン時に預けることになってしまったこの傘が、マイアミでたまたま出てきたのは幸運のなせる業か。

 ホテルにて。
 日本のアパホテルになれた目には、かなりの広さの部屋と見える。スイートみたいだ。
 日本を出発する前に新聞を止めるのを忘れていたため、マイアミから自宅近くの新聞配達所に電話。日本国内から電話する時と同様、市外局番から普通にかけることができた。以前のように、0081をつけて市外局番の最初の0を外して…などは必要なかった。

 明日はいよいよボゴタに向けて最後のフライトである。乗り継ぎ2回、計40時間越えの片道は長いように見えるが、途中、ホテルに1泊してベッドで寝られるのは、ルピタのためにもむしろ良さそうだとアレクサと実感。
 体力的にもお財布的にも、優しい旅のような気がする。

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