yosumi birthday live2023「式日」に参列して
会場まで
慣れない味の、けれどどうしてか「美味しい」と感じる白く澄んだ煙を吐き出しながら、この一年を振り返っていた。
ひとつひとつの思い出のページをめくってみると、どれも当時に比べればずいぶんと褪せているのが分かる。
自他問わずに言葉をかき集め、選り分けて、何とか取り繕った筆先でその色を補っていく他なかった。
それでも嬉しいことに、365ページの内の数ページ、片手の指の分くらいはあの時の顔のままでいてくれる。
純粋に嬉しいかどうかはそのページの表情にも依るのだけれど、自分の脳みそも捨てたもんじゃないなと思えるのだから、中身がなんだってとりあえずは喜んでいいはずだ。
もちろん、その中身が真に楽しいものだらけだったなら、こんなに幸せなことはない。
そうやって行く宛てのない思考を巡らせていると、不意に喉からククっと笑いが漏れて、同時に思い切り咽せ込んだ。楽しい気分で満たされていた胸に煙が刺さる。
考えてみればシーシャはほとんど素人で、尚且つ最後に吸ってから3年経っている。
ほんの1時間程度のリハビリではまだまだ煙を御し切れない。
yosumiと言えば「夜」に「青」、そして「煙」。
——人によっては「蝉」とか「犬」とか「グラコロ」なんて言うのかも知れないけれど。
ともかく今まであまり手のつかなかった「煙」という要素に則したコンテンツ、コラボやグッズというのは素直に嬉しかった。
相席を許してくれた方に申し訳ないくらいしつこく絡み、散々喋り倒した挙句の今、ニコチンとアルコールと鎮痛剤のシナジーに頭の回転が縛られている。
色々と思い出してきたものの、もはやファンレターを書き上げることは半ば諦めていた。
2週間前に始めて進捗はほぼ0だ。やめやめ。
合流した妹が一服するのを待ってから、吸う予定のない煙草用のケースを購入して、会場へと移動を始める。
オノデンの階段から会場の中まで続く数十人の行列。
前について進みながら浮つく指先で2つの綺麗なフラスタを写真に収め、その先の壁に掛かった水井軒間さんの原画展示を眺めた。
ベゴニアという名と色を初めて知って、きっと実物も可憐な花を咲かせるのだろうと思った。
まだ始まってもいないのに、終わりの来ないことを願わずにはいられなかった。
花の美しさはその儚さによって際立っているなどとつまらないことを思ってみると、胸を締め付けるほどに美しく切り取られた彼女の姿が、少し怖かったのだ。
人の流れに乗って物販とクロークでそれぞれ用を済ませ、飲み物を手にする。
可愛さが、グラスになみなみと注がれていた。
俺の手にはどうにも収まりが悪いように思われたけれど、本当に可愛いものは人を選ばないのかも知れない。
飲み干す頃にはそんな風に考えるようになった。
第1部のオープニングアクトは、The Herb Shop。
yosumiの歌唱曲では「Rebellion」や「夏のリトゥール」などを手掛けている、つまりこの場の観客のほとんどが知っているだろう音楽プロデューサーであり、同時にDJとして数多の現場を渡っている方だ。
4, 50分だろうか。良い時間だった。
この言葉に尽きる。
好きなDJがこの日の主役を前に一歩引きながら、丁寧に丁寧に会場を温めていく。嬉しくない筈はない。
終盤に響いた「Rebellion」のVIPは原曲ドロップのクライマックス感、「最終局面」のイメージから大きく翻った。
イントロの張り詰めた空気を引き継いであくまで厳かに、そして滑らかに手を引かれていく。
誰が予想しただろう。辛うじて掴んだ頼りない勇気で飛び込んだ先。
そこで待ち構えていたのは祭典の「始まり」を告げる、低く重たいラッパの音だった。
叶うならもう何時間でも聴きたいと、そう思わずにはいられない。
そんな贅沢な時間と、僅かな幕間のあと。
深い青が視界を覆う。
ライブパート
火蓋を切ったのは、あのイントロだった。
「パトリオットノイズ」。2年前、クラブのことなどまるきり知らなかった学生をasiaのフロアに引っ張り出してくれた、きっかけの曲。
背中のスクリーンが放つ眩いほどの赤がステージを照らし、会場に充満する。彼女の輪郭をくっきりと描き出す。
その姿はどこまでも「青」で、この音楽と互いに引き立て合うようにしてよく映える。
そう、あの路地裏を抜け出して、今夜の彼女はステージへと上がっていた。
どうしたって意識してしまう前回との差異に、期待が加速する。
彼女がyosumiとして何かを「変える」のは必ず意味と価値のあることだと、俺はもう十分に思い知らされてきたから。
『君だけは、覚えていてね』
そう語り掛けて歌い出す「phantasm」を、耳と目の記憶に焼き付ける。
彼女の1stEP、そのタイトル曲だ。
一貫して微睡むように穏やかに、起伏を抑えた曲調故か、クラブシーンとしてのライブで聴く機会は少ない気がする。
yosumiを知らない観客が大勢いる場所では、よりインパクトの強い曲やノりやすい曲——それこそ「Rebellion」や「for good」、「syzygy」なんかがセトリに選択されやすいというのは頷ける。
そんな曲たちが大好きで、それをデカい音で聴いて跳ねて揺れるのが好きだから、彼女の出演に通い詰めている。それもひとつの事実だ。
だからこそ、今日この日。
彼女の独擅場としてのbirthday liveで歌われることに、口元が緩んだ。
俺にとってのこの曲は、幸福な夢が始まる合図だったから。
――――――――――――――――――――
その声は、どこか遠くで鳴っているようだった。
『眠れない夜にそっと寄り添うようなーー』
音の無い世界で紡がれる言葉は優しく、確かにあの箱の空気を震わせていた。
展けた窓は夜を、静かな海を映していた。
彼女の曲に救われてきた全ての時間と「今」がつながった。
――――――――――――――――――――
5曲目が始まった刹那、声にならない声が漏れた。
yosumiの歌う「星の唄」。
あの日の、じゃない。あの日から今日までの、夢の再現だ。
涙の滲んだ目元を両手で覆ってみても、口角が持ち上げられるままになっているのまでは隠しきれなかった。
だって、嬉しい。嬉しくて仕方がない。
分かってる、再現なんてものじゃないんだ。もっと綺麗だ。もっと切ない。
イントロが期待させた感動を、4分間で見事に上書きされてしまった。
曲の終わりかけに、1音目でそれと気づけたことを思い返していた。
物を覚えるのが苦手な俺だからこそ、その意味を咀嚼できる。
俺はこの曲が好きなんだ。こんなにも好きになったんだ。
彼女を通して見た世界が、自分の「好き」のひとつになる。
それはなんて、なんて幸せなことだろう。
夜が明けていった。
この満ち足りた時間を惜しむことなく、彼女の美しい物語は続いていく。
昨年のM3秋、前情報のほとんどないまま頒布された1枚のダウンロードカード。
年末以降は音沙汰もぱったりとなくなり、トラックを回す度に「大切な新しい曲」という彼女の言葉だけが頭の片隅で揺れていた。
曲に込められていたのは彼女の想いか、願いか。
その解に馳せた心は宙に浮かんだままで、いつしかそれでもいいと思うようになっていった。
爽やかな音色に乗って雲が泳いでいく。
根っこの部分では変わらないのかも知れない。それでも手を伸ばした先、突き抜けるように澄んだ空をつかまえて、yosumiの「青」は広がっていく。
曲が始まって少しして、何人かの観客の息を飲む音が聞こえた。
俺も前方を見遣って数瞬は、目を見開いたまま、揺れることもできずにただ立ち尽くしていた。
ステージに立ち並ぶキャンバス。そこへ投影された見覚えの無いアニメーション。中で踊っているのは、紛うことなく彼女だった。
真っ白になった頭で答えを探すけれど、辿り着く先は1つしかない。
……もうさっきからずっと、情けないにやけ面のままだ。
心の底から待ち焦がれていたとも。
けれどそうか、こんな魅せ方をするのか。
やっぱり一枚上手だ。
いつだって悔しいくらいに驚かせてくれる。いやというほど楽しませてくれるのだから。
yosumiがゆっくりと観客に語り掛ける。
空はいつの間にか日の光を手放し、濃藍に星を散りばめた。
圧縮された時の流れの中で、彼女の声だけが変わらずに鳴り続ける。
軽く揺らしただけで割れてしまうのだとでも言うように。
一つ一つの言葉を大切に、大切に並べていく。
彼女がクラブという空間にかけた想いは、彼女を通してクラブシーンに触れてきた全ての人間に共有できるはずだ。
ただ揺れて、「好き」「楽しい」なんてそんな無邪気な情熱だけを分かち合い、人と、音と、箱全体が溶け合っていく。
この新しい曲は、これからどんなシーンを渡っていくんだろう。
楽しい音運びにはしゃぎ、揺蕩いながら、船の行く末を夢想した。
朝が来ないことだけを祈りながら。
後半をカラフルに彩ったのは、MOTTO MUSICよりリリースされたfeat. yosumiの3作品だ。
曲間に一瞬暗転したかと思えば、背景は打って変わってポップかつモダンな雰囲気に。
そして何より、彼女の衣装が様変わりしていた。
8月上旬、心の準備をする間もなく始まったお披露目配信。
そこに現れた彼女の装いは、ダウナーでミステリアスな雰囲気を保ちつつ、よりアクティブな趣だった。
アシメでダボっとした余裕のあるスタイルでありながら全体はスマートにまとまっていて……一言で言うなら「可愛い!!」だ。
(ぴょこんと跳ねたアホ毛も可愛いすぎる……)
そんなステキ衣装へと早着替えを済ませるや否や「synergy」を歌い出す彼女。でかでかと踊る歌詞の前で軽やかに舞っている。
『いつまですんの?これ!』なんてライブ感のある歌い方が、最高に愛らしい。
続く「Snap 'n' Clip」は今年4月にリリースされたばかりの曲だ。
歌に合わせて目まぐるしく切り替わる景色が楽しくて楽しくて。
跳ねるような曲調に合わせて心はいつの間にか箱を飛び出し、アキバの街から散策を始めている。
こんなに心躍る週末をいつまでも過ごしていたい。けれど今にも沈もうとする夕日に優しく肩を叩かれる。
それならせめて記憶と記録に収めて、この音と景色を忘れないように。
「for good」のイントロに、理由も分からず終わりを予感する。
衣装も戻り、懐かしささえ覚える音に幸せの勘定を任せて、ただ揺れている。
好きだ。ひたすらにこの曲を好きでいた。
サビのドラムが、魂を揺らす割れが、それに続く切ないジャズピアノと、ノスタルジーを引き出すピッツが。
[ahi:]の作る音が。yosumiの歌声が。
しばしば目を瞑り、彼女の織りなす世界に浸る。
声がどこまでも透き通って。
伸ばした手からすり抜けるように、ふわり消えていった。
そして容赦なく、ライブは最後の曲へと進む。
『君のことも忘れていくの。いつかいつかは』
声が、夜の空気と溶け合う。そのシルエットも曖昧になっていく。
yosumiが「夜」そのものになっていく。
こんなに近くに見えているのに、彼女は一人で踊っている。
手を伸ばしても決して届かない。触れられない。
だからこそ美しくて、可憐で。
『綺麗だ』
口の端から漏れたそんな言葉が、今この心を満たしている全てだった。
この詩に救われてきた。
きっと、どうか。
これからもずっと。
終わりに
それから彼女は、アンコールの2曲を歌い上げた。
ため息の出るような夏の終わりとともに、第1部は幕を閉じる。
エンドロールの後。拍手の中、告知を見てさらに歓声のボルテージが上がった。
1つはひとひらのMV公開。さっきの今かと驚き、さらに公開日時を見て驚く。なかなか飽きさせてくれない。
もう1つは来月、M3秋に関する告知だった。正式な発表が楽しみだ。
浸る間もなく特典と荷物を受け取って、妹を駅まで送り届ける。
道中彼女の口から出る感想の嵐に、首が折れるくらいの頷きを返していた。
勢いそのまま、駅前の店で諦めかけていたファンレターを書き上げて。
駆け足でエンタスへ帰るなり、ワイパさんの心地良くも乱暴なくらいにアゲてくれるDJで踊った。
彼女のライブパートは第1部と同じ構成だった。
繰り返す夢のような時間に、より詳細に、より彩やかに。
記憶を補い、上書きしていく。
そうしてもう一度終わりが来て、アンコールで飛び跳ねた。
頭より先に、体がその音を思い出していた。それもなんだか嬉しくて堪らなかった。
良い音楽は、何度聴いても良い音楽だった。みんなで声を出して踊るのが新鮮で、楽しかった。
大好きな音楽たちだった。
また、どこかで。
駅前で腰掛けて、ただ時間が過ぎるのを待っている。
ライブが終わった後しばらく経っても妙に離れがたく、結局追われるようにしてエンタスを後にした。今だって素直に家路につく気にはなれない。
広場には光に濁ったぬるい空気が立ち込めているけれど、それが不思議と嫌ではなかった。
感想をぽちぽちと書き留めていると、「ひとひら」MVの公開時刻になる。
4分と少し。視聴を終えてイヤホンを外し、ふっと息をついたとき、嗅ぎ慣れない、けれどどうしてか「好きだ」と、はっきりそう思える香りが鼻先をくすぐった。
たった今、心臓が止まって仕舞えばいいのに。
そうしたらきっと、いつまでもこの煙を胸の中に閉じ込めておける。
いつまでも、貴女を忘れないでいられる。
仄かに立ちのぼるそんな思考を、冗談だと誤魔化した。気味が悪いと笑った。
次があるんだ。次の音が、次の景色が。
そんなの、あまりにもったいない。
勢いをつけて立ち上がり、ぐいと体を伸ばす。それから今度は浅く、浅く息を吐いた。
気づいた頃には失くしてしまうだろうこの香りが、せめて今夜眠りに落ちるその時まで残っていてくれたら。
そんな願いをかけて、俺はようやく改札へと歩き出した。
EC1.1 呼吸さえも一つに混ざる (feat. yosumi)
EC1.2 夏のリトゥール (feat. yosumi)
EC2.1 窓辺のモノローグ (eharamiori remix)
EC2.2 for good (VIP remix) (feat. [ahi:])
コラボドリンクの旅する喫茶さん、絶対行きたい。可愛くて美味しかった。
↓最高に幸せな空間です。9月末まで。ぜひ
ほぼ自分が読んで思い返すための文章ですが、読んでyosumiのライブ行きてえと思ってくれる方がいたら今度ぜひ、乾杯しましょう。
誕生日、おめでとうございました。
楽しい一年になりますように。
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