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暇なら私の書いた小説を読んでくれ

本文と写真には1mmも関係はない

どうせならカフカとかにしてくれ

目が覚めたら僕は芋虫だった。

昔の小説にそんな話があったとか無かったとか。とにかく僕は芋虫だった。ひんやりした土の上に這いつくばっていたし、両手両足の感覚は無く、文字通り芋虫のようにしか動かせる感じではなかった。芋虫のようにというか、芋虫なんだけど。

正直に言うと結構パニックだったし、寝る前にたまにしている異世界転生妄想でもさすがにこんな展開は無かった。転生したら芋虫でした。おしまい。

終わってしまった。

いや確かに現世の徳は足りてなかったかもしれない。徳が足りないと人に生まれ変わる事が出来ないとか虫になるとか何とか、誰かが言っていた気がする。何かの授業だったかもしれない。つまり僕自身がそもそも前世で徳を積んだ虫だったのかもしれなかったわけで、僕の徳が足りないとまた虫に戻るとかなのかもしれない。

でもだからと言ってそこまで悪い事をした記憶もあんまり無かった。いやだから悪い事をしなくても元々徳とやらが足りないのか?
そもそも徳って何だよ?電車で席を譲るとか?

というかつまり僕は死んだのだろうか。彼女のひとりも作る事無く、未成年で、親友が1人いて、それなりに未来のある若者だったはずなのにいつの間に死んだんだ?
僕の最後の記憶は、とりたてて特別なことの無い日にとりたてて特別なことをせず眠りについたぐらいだった。

「おい」
「ぎゃあああ眩しい!!」

明るい明るい明るい。誰だ急に電気をつけた奴は。


「うわ、なんだお前」

眩しい。眩しいが良く見えない。芋虫だから。

「いも……なんだって?ああ見えないのか」

ビリビリビリ

「痛い!!!」
「うるさい!」

目から何かを剥がされた。いや、多分ガムテープだ。僕は芋虫のように身動きが取れない。目にガムテープを貼られていた。そんな趣味はない。つまりーー

「拉致監禁!!!!!」
「うるっさい!」

ぼかん。殴られた。

「いててて」
「なんでこの状況ででかい声を出すんだ……おい、助けに来たぞ」
「リーダー」
「俺のことはわかるんだな?」
「リーダーっぽい」
「ふざけんな」

頭を捕まれた。目が慣れてきたので辺りを見回す。見覚えはないがどこかの簡易的な倉庫のようだった。裸の蛍光灯が眩しい。

「……私に最初から猿轡がされていなかったという事は叫ぼうが問題ないんでしょう。どうも混乱が激しいので薬物を投与された可能性があります」

僕は僕らしからぬ口調で話していた。

「そうだな、見張りすらいなかった……すぐ医者に連れていきたいが俺1人で抱えて歩くのは骨だ、歩けるか?」

リーダー。たぶんリーダーだ。僕はこの人を知っている。

「芋虫なので」
でもぼくいもむし。

「歩けるな、行くぞ」
はい。



以上が僕のここに配置されてからの初任務の顛末であり、コードネーム『キャタピラー』の由来である。
ちなみに今も当時も未成年ではないし、未来もなかった。

僕の職業はとある組織の末端で日々とある犯罪をする事だ。未来があるわけがない。

「おい、キャタ」
「呼びにくくないですかそれ」
「タピラー」
「タピオカ大好きみたいな」
「いいから返事しろ」
「普通に呼んで下さ……はい」

リーダーは僕と同じアパートに住むおっさんで、別に黒ずくめだったりはせずいたって普通の犯罪者だ。僕にとっては恩人でもあるのであまり言いたくはないがネーミングセンスが無い。

「この間のやつな、ダメだったわ」
「そですか」

僕の初仕事の依頼人は、上手くいかなかったらしい。とくに悲しくはない。

幸い脳への後遺症もあまりないが、正気に戻った僕の方がよほど芋虫だった。


僕が前回簀巻きにされて転がされていたのは、別に何かをしくじった訳ではない。
それが仕事なのだ。誰かの代わりに誘拐されたりして、誰かの代わりに殺される。
すると、僕は死ぬことになるのだけどあら不思議、生き返っちゃいます。
だいたい闇社会の人相手だと死体が消えても怒られないからいいんだけど、たまにちゃんと死ななきゃいけないことがあって検死とか火葬とかは結構つらい。
一応切り刻もうが灰になろうが生き返るんだけど、普通に痛覚もあるし。

のでお抱えのお医者さんなんかはいたりする。
よくできてるよね。


さて依頼人本人は生き延びて雲隠れしてから報酬を払うんだったかな。
ひょっとして死に損だったかもって思った。
とはいえ死ぬだけというのは結構楽で、
例えば誘拐したり殺す側は協力者だったり同業者だったり、取り立て屋とか敵対勢力だったりする。彼らは普通に犯罪なので準備も隠匿も大変だ。
僕はといえばまあだいたいホイホイついて行って死ぬだけでいい。簡単だ。

それにしてもダメだったというのは、つまり雲隠れに失敗したのだろう。依頼人は僕の友人だった。
つまり僕は友人の代わりに誘拐されて死んで、友人は逃げようとして死んだのだ。


「死んでみるといつも思うことがあるんですが」
「おう」
「蘇生後しばらく昔に戻るみたいですね、10代の……高校生ぐらいの頃の自分でした」
「よくあるよ、1番『自分』なんだろう」
おっさんは新聞を読みながら腹をかいている。前時代的な人だ。

「俺たちが他人の代わりに死ねるのは、その『自分』があるからだ。自我とも言うが……とにかくリセットされてもそこに戻ってくる。セーブデータだな」
「リーダーはいつに戻るんです?」
「俺のことはいいんだよ。ほれ」

封筒を渡される。滲んだ文字。見覚えがある。厚み。重さ。
これが何なのかはすぐわかる。

「失敗したんじゃ……」
「前金ってもんがあるさ」
「ああ……」

僕の友人はどこへ行ったのだろう。
金を払って僕を誘拐させて、僕を殺した親友は。

「そですか」

瞬きをした次の瞬間、知人のことを頭の奥に押し込めた。

芋虫なので。


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