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想いと憧れの先に 【795文字】 #逆噴射小説大賞2023 応募作品

TVからの警告音と共にテロップが流れ、
ヴィランによるテロ行為が
行われたニュースが流れ始める。

ヒーローの両親と兄は
すでに現場に向かい救護活動を行っている。

TVでは報道できるギリギリの
現場映像が流れる。
私も現場に向かいたかった。
しかしヒーロー免許のない私が
現場に行く事はできなかった。

ヒーローに、なれなかった私は
サポートチームの一員として
ラボで働いている。


私は湿った手でハンドルを強く握り
ラボに向かった。

ラボの大画面では現場の様子が
鮮明に映し出されていた。

使用されたモノが私の作成した
アイテムだと確信した。
背中に冷たいモノを感じる。


繁華街の中心で使用された影響で
辺り一帯は、地獄絵図のようだ。

口元を抑えトイレに駆け込む研究員。
私も口元を両手で抑える。

口角が上がっているのを
見られる訳には、いかない。



ヒーローになるのが当然だと
育てられてきた。
しかし私の身体的欠点が見つかり
ヒーローへの道は絶たれた。


その代わり、私には
祖父の技術を受け継ぎ
ヒーローのサポートアイテムを
作る才能があった。

ラボでは、ヒーローが要望した
内容に合ったアイテムを
研究し開発していく。



私は心の片隅に、
ほんの僅かな闇を抱えていた。
それはヴィランへの憧れ。
家族にも周りにも、誰にも気づかれては、
いけない私の想い。

ヒーローは出動要請命令があれば
すぐ出動するのがルールだ。

普通の家庭では当たり前の事が
我が家では当たり前ではなかった。

ヒーローはみんなの為に戦う。
みんなのヒーローだから。
愛する人より大勢の人々を優先する。

私は愛する人を優先したかった。

私のほんの僅かな闇が
悲劇の舞台を作り出した。
極秘にヴィランに依頼されて
殺傷能力の高いアイテムを作成した。



阿鼻叫喚している人々の表情が
私には笑顔に見え、
悲鳴は声援に聞こえた。

歓喜で涙が頬を伝う。

これから始まる
更なる悲劇に私は身震いした。
私の震えはラボの研究員と
同化していただろうか。



【続く】


#逆噴射小説大賞2023
#小説

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