すずなりんご

ものを書くのが好きです。 ただいま、「ヤクザのせいで結婚できない!」を投稿しております…

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ものを書くのが好きです。 ただいま、「ヤクザのせいで結婚できない!」を投稿しております。 ヤクザの家の娘が見合いしまくる話です。ラブコメ好きの方、ぜひお読みください。

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ヤクザのせいで結婚できない! ep.102

 結婚式の日はよく晴れたいい天気だった。  雲一つない青空を鳥が横切っていく。古びてはいるけど厳かな雰囲気のある社殿からは、祝詞が途切れ途切れに聞こえてきていた。参道の向こうにある駐車場には、黒塗りの高級車がずらりと並んでいる。 「……空、綺麗だな~……」 「こんなところで何してるんですか」  あたしは危うく飛び上がりかけた。いつの間に現れたのか、朱虎が柱に寄りかかってこっちを見ている。 「探しましたよ。腹が痛いんじゃなかったんですか?」 「え、えーと……治まるまで休憩

    • ヤクザのせいで結婚できない! ep.101

       朱虎の影が濃く畳に落ちる。おじいちゃんはしばらく動かなかった。 「――そうか。お前ェ、覚悟決めてるってェんだな」  冷え冷えとした言葉に、朱虎は何も言わずさらに頭を畳にこすりつけた。  誰も、こそりとも音を立てなかった。それなりの修羅場をくぐってきてるはずの組員たちが誰も動けず、息をのんで事態を伺っている。斯波さんがひたすらおろおろとしていた。  あたしは、何だかぼうっとしていた。  何度も何度も朱虎の言葉が頭をリフレインする。    気持ちを殺しきれなかった?   殺

      • ヤクザのせいで結婚できない! ep.100

        「オヤジ、この度は誠に申し訳ありませんでした。自分の身勝手で、組にもオヤジにもご迷惑をおかけいたしました」 「……おゥ」  朱虎の言葉におじいちゃんは一言唸ったまま、むっつりと黙り込んだ。重苦しい空気のなか誰も言葉を発さず、身じろぎもしないまま時間が流れていく。 「……おっ、おじいちゃん! これには理由があって……!」 「志麻、お前ェは黙ってろ」  おじいちゃんは傍らに置いてあった煙草盆から煙管を持ち上げた。ひと吸いして吐き出した煙が、じっと頭を下げたまま動かない朱虎の

        • ヤクザのせいで結婚できない! ep.99

           結局、肋骨が何本か折れていて、あたしは大先生の病院に数日間入院する羽目になった。なかなか熱が下がらなくて、一時は結構深刻だったらしい。目が覚めた時はおじいちゃんがのぞき込んでいて、ニヤリと笑って「目ェ覚めたか、志麻。ちと寝すぎだぜ」といつもの調子で言った。その目が真っ赤だったのに、すごく申し訳ない気持ちになった。  毎日お世話に来てくれていた斯波さんやミカの次にちょくちょく来てくれたのは環で、「肋骨が折れるとどんな支障が出るんだ?」とか「マフィアの息子はどんな言動だった?

        ヤクザのせいで結婚できない! ep.102

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.98

           いない。  朱虎がいない。  さっきまで居たはずなのに、どこにもいない。  こわばった指を何とか引きはがして銃を投げ捨てた。立ち上がろうとしても足に力が入らなくて、あたしは這いずるようにして手すりへ近づいた。  暗い海と波の音があたしの体ごと引きずり込んでいくみたいだった。  震える指で手すりに縋りつく。じわりと涙がにじんで、見下ろす海がぼやけた。 「ウソでしょ……やだ、やだよ……」  船が大きく震えた。  サンドラはもう逃げられただろうか。  あたしも行かないと。  

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.98

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.97

           空から降ってきた威勢のいい声に、驚きのあまり体の痛みも一瞬吹っ飛んだ。見上げると、強いライトでこっちを照らしながらホバリングする機体が夜空に浮かんでいる。 「俺ァそんなヘタレに盃やった覚えはねえぞ、分かってんのか! まだ無様ァ続けやがるなら、てめェその場で腹切りやがれっ!」 「ちょっ、組長サン! 落ちるって!」 「そう片側に寄ってしまうとヘリのバランスが崩れる。組長どころか全員落ちるぞ」  完全に聞き覚えがある声だ。あたしは思わず叫んだ。 「おっ、おじいちゃん!? そ

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.97

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.96

           朱虎はさんざんバカにするけど、あたしにだってちゃんと考える頭はある。  騒ぎの中に突っ込んで行ったって、何もできずに捕まるのがオチだ。なのであたしは、暗がりに紛れてこそこそと近づいて行った。ラッキーなことに甲板の上には崩れた荷物やら何やらが散乱していて、身を隠す場所には困らない。 「フフン、あたしだって一度は潜入成功してるんだから。こんなの余裕だし」  サンドラから借りたワンピースが黒いのもあって、あたしは誰にも気が付かれずに騒ぎの近くに転がっているコンテナの陰に滑り込

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.96

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.95

           廊下はすっかり傾いていた。どこかでゴボゴボと音がして、船が不気味に揺れている。 「時間はなさそうですね」  朱虎が呟いた。壁に手をつきながら体を引きずるように歩いている。額には脂汗がびっしょり浮かんでいて、足元はふらついていた。 「ねえ、あたしに捕まったら? 支えてあげるよ」 「ありがたいですが、気持ちだけで」  返す声はしっかりしているけど、息が荒い。ずっと押さえている脇腹はじわじわと赤いものが広がっていた。 「朱虎、それ……」  ずん、とひときわ大きな揺れと

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.95

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.95

           何!? なぜ!? 何で!?  膨大なビックリマークとハテナマークが頭を埋め尽くしたけど、唇の感触が全てを吹き飛ばした。冷たい朱虎の唇があたしの熱を吸ってあっという間に熱くなる。この前の『お手本』とは全然違う深いキスは長くて、終わるのかと思ったら何度も続いて、まるで食べられているみたいだった。  ショートした頭の隅の隅で、三回目だ、とちらりと思った。  いや、二回目ってことになるのかな? それともやっぱり、これが初めてカウント?  ていうかキスってこんな激しくて長いものなの

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.95

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.93

           あたしがどうにか機関室にたどり着くまでに、二度大きな揺れが来た。そのたびに船は大きく傾いて、不安定で小刻みな振動がずっと足元から伝わってくる。廊下はほとんどまっすぐ歩けないほどで、壊れたものが散乱していた。  何度か黒服に出くわしそうになって慌てて隠れたりしたけど、黒服たちの方もそれどころじゃないって感じだった。慌ててどこかへ走っていったり、怒鳴り合いをしたりしている。  どう見ても『計画通り』って空気じゃない。訳が分からないけど、こっちにとっては好都合だった。 「混乱し

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.93

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.92

          「なんですって!? そんなこと聞いてないわよ、ジーノ!」  あたしより先に声を上げたのはサンドラだった。慧介さんにしがみついたまま、きっと下からにらみつける。 「レオがこんなこと企んでるって分かってたなら、どうして私に言わないの!」 「君に言っても無駄だったからだ、サンドラ」  慧介さんは柔らかく首を振った。 「今、日本に来ているロッソファミリーの構成員は全員レオの息がかかってる。君の味方はこの船にはいない」  サンドラは眉をひそめた。 「何言ってるの? そんなは

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.92

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.91

           特別製、かつ改良版ペンダントの威力は絶大だった。小さなモチーフのどこに仕込まれていたのか不思議なほどの催涙ガスが勢いよく噴き出し、レオの顔面を襲う。 「がっ……うぁああぁっ!?」  レオは言葉にならないわめき声をあげながらのけぞった。首を絞めていた手が外れて、あたしはその場に転がった。 「アハハッ、ざまーみろっ! ……うっ、ゲホゲホッ」  思わず笑った拍子に少し吸い込んでしまって涙目になりながら、あたしは手を伸ばした。  同じくうつむいて咳き込んでいるサンドラの手を

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.91

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.90

           荒々しい足音が戻ってきたのは、それから十分もたたないうちだった。  ドアが勢い良く開かれ、不機嫌そのものといった顔で踏み入ってきたレオが足を止める。 「……勝手に入ってこないでって言ったでしょ」  サンドラはぐったりとソファにもたれかかったまま、レオを睨みつけた。手には小さな銃を構え、まっすぐにレオを狙っている。  レオは銃口に視線を落とすと、焦る様子もなく唇の端を上げた。 「何だ、起きたのか。俺の部下はどうした?」 「あなたの部下なんて知らないわ」  サンドラはせ

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.90

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.89

           危うくこぼれかけた声をあたしはなんとか飲み込んだ。  あのバチッという音は覚えがある。ものすごく近くで聞いた、というか食らった。  あれは――スタンガンだ。  でも、何で?   どうしてレオがサンドラにスタンガンなんか?  いったい何が起こってるんだろう。少なくとも、とんでもなくヤバいことであるのは確かだ。  心臓がドクドク波打って、嫌な汗がにじむ。  助けに行かないと。   でも、あたしじゃとてもレオにはかなわない。  武器になるものはないか見回したとき、不意にドアの向

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.89

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.88

          「ん? 朱虎君、どうしたんだい僕の部屋まで」 「先生。一昨日くらいから黒服がやけにすくねえが、何かあったんですかね」 「ああ、イタリアへ戻ったらしいよ。船にたくさんの男がうろついているのは嫌だ、取引が終わったんだから最低限の人数だけ残して出ていけってサンドラが言ったらしい」 「へーえ。……で、例の金髪は」 「レオは残ってる。サンドラのサポート役だからね」 「仔猫の守りに猛獣をくっつけたんじゃあたまらねえな。……残ってる面子の顔ぶれ、分かってるか」 「え……いや、僕は黒服の皆さ

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.88

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.87

           喫茶店の外でうろうろしていたミカにもう一度船に行くことになったと告げると、仰天して飛び上がった。 「なっ……なんでそんなことになるんだよ!? アホか、そんなもん行く必要ねーだろ! もう終わった話じゃねえか!」 「ううん、終わってない」  あたしは首を振った。 「あたし、本当はまだちゃんと朱虎と話してないの。サンドラと朱虎が……その、いちゃつくとこ見ちゃって」  でも、サンドラによるとあれは『サンドラが頼んでやった』ことで『朱虎はサンドラが好きじゃない』はずなのだ。

          ヤクザのせいで結婚できない! ep.87