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おかあさんゆび(第10話)

華「何ですか?私に言って無い事って…。」

ユミ「あたし、左眼見えてない。」

華「えっ…」


ユミ「たぶんな。ずっとそうかな~と思ってたんだけど、やっぱりそんな感じ。最後の試合で眼底骨折した時医者に言われたんだよ。『いずれ見えなくなる可能性がある』とか何とか言ってたかな。でもタバコ吸いたくて医者の話最後まで聞かなかったから分かんないけど。」

華「それなら早くお医者さんに見てもらって…」


ユミ「それはいいよ。多分治んないだろうし、今片方見えてるから。実際あたしの脅威の反射神経を持ってすれば360度見えてるのと変わらないしな。たださ〜…。」


華「ただ?」


ユミ「片眼見えないキャバ嬢って引くだろ?」

華「いや、それはよく分かりませんけど…。」


ユミ「まあ何でも潮時ってあるじゃん。でもあたしだってただ隠居するだけじゃないからな。やろうとしてることはある。」

華「そうなんですね。それって…。」


ユミ「密造酒を作る。」


華「いやいや、このご時世アル・カポネみたいな事ってないですよね?(でもユミさんならやりかねない…かも)」


ユミ「まあそれは冗談だけど、正確には農業からスタートかな。あたしもともと酒の神じゃん。日本もドイツも酒は美味かったけどさ、何かこう、もっと美味い酒ってありそうな気がすんだよね。だったら自分で作ってみるのもいいかなってさ。1回釧路帰って、それから北海道のどこかで雇ってもらうよ。」


華「ユミさんも色々考えてたんですね…。でも・・・これでユミさんとあきら君とお別れか・・・。大丈夫かな、あきら君。」


ユミ「まあな。あきら、華の事大好きだからな。」


華「いえ、あきら君だけじゃなくて私も大好きです。それよりあきら君、最近サッカーをお友達と始めてて凄く仲良くなってたみたいだし、あと凄い上手いってお友達のお父さんも言ってたので、そっちも大丈夫ですかね…。」


ユミ「それなら大丈夫だろ。『ボールは友達!怖くないさ!』って言っとけば。」


華「かなり意味変わってますけど…。」

ユミ「じゃあさ、1つ約束してくんない?」


華「何ですか?」


ユミ「日本にはあたしたちが少し早く帰る。帰る日、華はあきらに会わないで欲しいんだ。」

華「えっ…。」


・・・

・・・・・

・・・・・・・


華「それって、お別れ言えないって事ですね…。」


ユミ「まあそうなるな。でも、最後に会っても会わなくても悲しいのに違いはないから。あたしに少し考えがあるから、任せてくんない?」


華「はぃ。もちろんユミさんにお任せしますが・・・。」


・・・

・・・・・

・・・・・・・


ユミ「別れって寂しい…な。」

華「です…ね。」




第12話につづく




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