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おかあさんゆび(最終話:前編)

あれから2年後、とあるリハビリ施設・・・。



あきら「ん?誰この着信。しかも120件って・・・。」



スマホから再度着信音が・・・


テ~ッ、テ~レレレレレレレ~レ♪


あきら「はい、もしもし・・・。」


ユミ「グオラァ!!! 何で一発で出ないんじゃぁ!!! いつからそんな調子乗ったクソガキに成り下がったんじゃゴラァ!!!」


あきら「あ、やっぱ母さんか。何この鬼電? しかも何年振り?」

ユミ「う~ん、何年ぶりかな。確かあきらが中学出てスペイン行って以来だから・・・計算出来ない。」


あきら「15年振りかぁ。何してたの母さん?」


ユミ「あたしの話の前にさ、あんた怪我したんだって? だっさ。」

あきら「それ実の息子に言うセリフ? もう少しは心配したら?」

ユミ「でも生きてんじゃん。命に関わるやつだったらあたしも号泣して抱きしめてあげるよ。」

あきら「まあ確かに死にはしないよ。リハビリすれば普通に歩けるようにはなるみたいだから。」

ユミ「っていうかさ~、あんたがドイツにいるのこの前スポーツニュースで初めて知ったからさ~。あきら有名になってたんだね。」

あきら「だからもう少し自分の息子に関心を持つというか・・・。」

ユミ「関心はあるけど、あたしもそんなに暇じゃないからね。で、あんたの怪我のニュースもたまたま近所の食堂のテレビで見てさ。あきらは怪我してたら暇でしょ?」


あきら「いや、今もリハビリ中だし。これはこれで毎日忙しいよ。」

ユミ「い~や、暇だね。だってあたしがそっちに行くんだから。暇に違いない。」

あきら「え?母さん来るの?何しに?」

ユミ「久しぶりにドイツって聞いたらさ~、トーマスの店のこと思い出してさ~。あれは天国だったよね。久しぶりに顔でも出してやろうかと思ってさ。あいつも喜ぶだろ?」

あきら「っていうか、そもそもトーマスさんの店ってまだあるのかな?」


ユミ「だからあんたに連絡してんじゃん。ちゃんと調べておきなよ。あと、飛行機のチケット手配よろしく。それから、あたしの世話係にグッドルッキングガイ2名も忘れずに。」

あきら「(一体何を言ってるんだか・・・)」

あきら「チケットは送るけど、母さん今どこにいるの?」


ユミ「あ、宮城の『由利酒造』ってとこ。あたし一応蔵元だから、そこに送ってくれれば大丈夫。」

あきら「へぇ。やっぱ母さん有言実行なんだね。凄いじゃん。」

ユミ「まあね。女に厳しい世界だったけど、目の前に現れた敵は片っ端からやっつけてやったから。そこで誕生したのがかの有名な『純米大吟醸酒 裏拳』・・・。」

あきら「あ、じゃあその話は改めて聞くから・・・。」


ユミ「あとおやつは300万までOKだったよな? それから・・・。」

あきら「わかったわかった。じゃあ一回切るから。」





1週間後・・・



ユミ「ウィ~ッス!!!」

あきら「ほんとに来たんだ、やっぱり何か嬉しいもんだね。」


ユミ「やっだ~、あきらったら~♪ お母さんそんな風に言われたら、もう照れちゃう~♪♪♪」

あきら「そんなキャラだったっけ・・・???」


ユミ「あたしこれでも伝説のNO.1キャバ嬢だった時代もあったからさ。それを基に作られた曲が中島みゆき先生の『時代』・・・」

あきら「絶対違うでしょ。それこそ時代合ってないし・・・。 あ、トーマスさんの店はまだあったよ。結構繁盛してるみたいだね。」

ユミ「へぇ、まああたしが鍛えたんだから当然っちゃあ当然だけど。」


あきら「で、ちょっとこっちも忙しくてさ。まだトーマスさんに行くことは伝えられてないんだ。といっても俺も20年以上行ってないし・・・。」


ユミ「だ~いじょうぶだって、行けば分かるよ。さあレッツバスロマン!!」

あきら「(なにそれ・・・、バスロマンって・・・。)」



トーマスの店・・・


ガチャ・・・



ユミの脳内
ユミ「おお、トーマス!! 元気してたか!!」
トーマス「アア!! ユミサン!! オヒサシブリデス!! サア、コッチヘ。タノシクノミマショウ!!」


実際の会話

ユミ「おお、トーマス!! 元気してたか!!」

トーマス「ああ!! 神よ!! まだあなたは私に試練を与えようと言うのですか!! あの悪魔がまたやってくるとは!!」



ユミ「あきら、トーマスあんなに喜んじゃってな。やっぱり感動の再会に涙はつきもんだよな。」

あきら「(いや、怖くて泣いてるし・・・)」

ユミ「まあいいや、あいつは働かせておいて、我々はタダ酒を・・・。」

あきら「いや、今日は俺がご馳走するから大丈夫だよ。」

ユミ「お!!出来のいい息子だねぇ。まあどっちにしてもタダ酒には違いない♪」




あきらは当然ドイツ語を話せるため、この後は実際の会話・・・


あきら「トーマスさんお久しぶりです。僕のこと覚えてますか?20年以上前だから覚えてないですよね。」

トーマス「君の事は正直覚えてないけど、お母さんのことは脳裏に焼き付いて一時たりとも忘れたことはないよ・・・。」

あきら「あ、当時は色々ご迷惑かけてすいません。今日は僕が監視してますから大丈夫だと思いますんで。」

トーマス「絶対だよ!! 絶対絶対絶対絶対ぜっ~たいだよ!!」


あきら「は、はい・・・。」


ユミ「なに2人で盛り上がってんだよ。 ほらトーマス、次の酒よこしな。」

トーマス「は、はい。喜んで・・・。」


あきら「ところでトーマスさん、当時華さんっていう女性も一緒に来てたじゃないですか。あの方、今どこにいるかご存じですか?」

トーマス「華さん? ああ、あのユミ様と真逆の女神のような方ですね。ユミ様が居なくなった後は一度もお見掛けしていませんが・・・」

あきら「そうですか・・・。あの後こっちで絵画修復の勉強をするって聞いていたもので・・・。ありがとうございます。」




ユミ「ほらあきら、いつまでトーマスといちゃついてんだよ。こっちで飲むぞ。」

あきら「母さん、まあほどほどに・・・。」


ユミ「ところであきら、何でドイツなんて来たんだよ。」


あきら「え? そりゃドイツのチームと契約したからだよ。」


ユミ「ふ~ん、それだけ?」


あきら「うん・・・、それだけ、ではない。」


ユミ「じゃあ白状しな。お前がやったんだろ。ほらソーセージ食って全部言っちまいな。楽になるぞ。」

あきら「(今どきそんな取り調べないだろ・・・)」


あきら「母さん、華さんの事なんだけど、何か知らないかな?」


ユミ「なんだよお~ま~え~!!!!! やっぱ華にホの字なんだな!!!!! そうだろ? そうだろ?」


あきら「いや、そいういのじゃ・・・。」


ユミ「なんだよ~、隠すなよ~。 いいか、お前を勇気づけるために言うけど、かの有名な伝説のプロ野球選手ペタジーニ様はな、同級生のお母さんと結婚したんだぞ。年の差なんて気にするな気にするな!!!」


あきら「だから、そういうのじゃないって。 そりゃもう1回会いたいなって気持ちから始まってるけどさ。俺、母さんとの約束守ったじゃん?」

ユミ「何、約束って。燃えるゴミの日忘れないってやつか?」


あきら「燃えないゴミの日も覚えてるよ。そうじゃなくて、『世界中どこにいても見つかるぐらい有名になれ』って。今、自分で言うのも何だけど、結構有名になった気がしてさ。」


ユミ「ふ~ん。で?」


あきら「もう一回華さんに会って、俺、絵を教えてもらいたいと思ってるんだ。」

ユミ「あんたそんだけ有名人なら誰でも教えてくれんだろ。鉄拳とかいいんじゃない?あれ?鉄拳ってまだ生きてたっけ?」

あきら「いや、そういう問題でもなくてさ・・・。」


ユミ「でも何でサッカー選手が絵を習う必要があんの?」


あきら「あ、そこね。俺引退するんだよ。」


ユミ「ふ~ん。」

あきら「だいぶ膝の状態が悪くてさ。ちょっと前の状態に戻るのは難しそうなんでさ。」

ユミ「あっ、そ。で、絵に逃げんのね。」

あきら「いや、逃げるって・・・。」


ユミ「まあそれはそれで。あきらも大人だから自分で決めればいいんじゃない。でも、華ドイツにはいないはずだよ。」

あきら「え?母さん華ちゃんどこにいるか知ってるの?」


ユミ「一回連絡来たから。もう10年ぐらい前だけど。」


あきら「で、どこにいるの?」

ユミ「たぶんスペイン」


あきら「スペイン??? 俺いたじゃん!!!」




後編に続く





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