所沢市教育委員会委員定数条例の廃止案を追う
明日から行われる委員会審査までに間に合わせたい気持ちで急いで書いているので、内容にムラが多いのはご容赦いただきたい。また、おそらく近日中に公開されるであろう市教育委員会会議1月定例会 (掲載予定ページ) の会議録もあわせて見るとベターだろう。〔追記(2月29日)〕1月定例会の会議録がこちらのページに公開された。掲載ページの URL が不安定に見えるので、もしリンク切れになった場合は教育委員会会議のページから「教育委員会会議録(令和5年度)」をたどっていただきたい。〔追記ここまで〕
「所沢市教育委員会委員定数条例を廃止する条例制定について」は、現在開催中の所沢市議会2024年3月定例会に議案第43号として上程されている条例廃止案である。市教育委員会委員の定数を5人と定めた「所沢市教育委員会委員定数条例」(以下「定数条例」という。)を廃止して「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が規定する4人とする議案であり、つまりは委員の定数をマイナス1するものである。
この記事ではこの条例廃止案に関する経緯を追いかけていく。本題に入る前に私の見解を述べておくと、当該議案は条例廃止ではなく人事案件として見るべきように思う。その理由は、そもそもこの定数条例が最初に制定された経緯からして人事案件として見るべきものだったからだ。委員定数の増減なのだから人事が絡むのは当然、というだけの話ではない。前市長が個別具体的な政策を推進するために、推進に理解のある委員を多数任命するために、定数条例は制定されたと見るべきなのだ。
定数条例の改正沿革
まずは定数条例がいかに制改定されてきたかを確認する。所沢市例規集で改正沿革を調べたところ、改正例規は2件あった。No.1 が2013(平成25)年3月の条例制定、No.2 が2015(平成27)年3月の改正だ。
このうち No.2=2015(平成27)年3月の改正は当時の『地方教育行政の組織及び運営に関する法律』の一部改正に伴うもので、教育長の説明では「新たな教育長は教育委員ではなくなるため、委員の定数を6人から5人に定める」としていた。つまりは定義の変更による整理であって、本質的な定数(教育長を除いた委員は5人であること)に変わりはなかった。
したがって、委員の定数を5人とした本質的な条例制改定は、当初の No.1=2013(平成25)年3月の条例制定によるものである。ここから先ではこの制定時の経緯を追う。
定数条例制定案上程直前の市教育委員会の動き
2012年12月26日 ― 市教委12月定例会
条例は議会で議決されるものだが、教育に関する条例案は議会に上程される前に教育委員会で議論されることがある。定数条例もそれに該当し、2012(平成24)年12月26日に開かれた市教育委員会会議12月定例会では「所沢市教育委員会委員の定数について」が協議事項に挙げられていた。
教育総務部長の説明では、当時の藤本市長から指示があり、2013(平成25年)4月1日から教育委員を1名増員し、6人体制にしたいので検討してほしい、とのことであった。なお「1名増員し、6人体制」という人数については、当時は教育長も教育委員に含まれていたことに注意されたい。つまり、元々は教育長1名と教育長でない委員4名で合計5名だったところ、教育長でない委員を4名から5名に増員し、合計で5名から6名にしたい、ということである。これだけなら純粋な定員増だけにも見える。
2013年1月16日 ― 市教委1月臨時会
定数増の案件は、次の市教育委員会会議1月定例会を待たず、1月臨時会でも議論される。所沢市の教育委員会会議で臨時会が開かれることは、開催履歴を眺めた限り、珍しいことのように見える。少し長くなるが、臨時会が開かれた経緯を含む発言として、この臨時会における佐藤教育長の発言を次に引く。
1月30日 ― 市教委1月定例会
その後の1月定例会では「議案第31号 所沢市教育委員会委員定数条例制定について」が議題となり、出席委員全員が賛成し原案どおり可決された。
市議会2013年3月定例会
教育委員会を通過した定数条例案は、直近の市議会である2013(平成25)年3月定例会において、議案第17号「所沢市教育委員会委員定数条例」として審議された。
2月20日 ― 提案理由の説明
2月26日 ― 担当者による議案の説明
3月1日 ― 議案質疑
議案質疑では石本議員、小林議員、久保田議員から質疑があった。
3月18日 ― 委員会審査
当時の所管は教育福祉常任委員会であった。賛否は分かれ、意見では継続審査すべきが1、反対が2、賛成が2であり、委員会としては多数決で原案どおり可決すべきものとした。
この中で反対意見を示した脇委員は市立小中学校の学期制について触れ(当時の所沢市は二学期制であった)、議案第17号は当時の藤本市長の公約であった三学期制を一気に実現させるための提案とも読める、といった旨の踏み込んだ意見を示している。少し長くなるが、反対意見全体を次に引く。
3月25日・26日 ― 常任委員長報告、討論、採決
3月25日には吉村委員長が報告し、26日には討論と採決が行われ、定数条例案は起立多数で可決された。
3月26日 ― 教育委員任命の同意
定数条例案の可決後、3月26日にはまた、教育委員の具体的な人事案件として、議案第36号「教育委員会委員任命の同意を求めることについて」が上程された。被任命者は内藤隆行氏であった。
この議案に対しては荒川議員、赤川議員、脇議員が質疑し、採決では全会一致で任命に同意している。
定数条例制定前後の教育委員会の動き
ここまで見てきたように、定数条例の制定は藤本前市長が三学期制を一気に実現するためのものであったという見方がある。これを念頭に当時の教育委員会の動きを見てみよう。
「新たな三学期制」の検討
「"所沢" "三学期制" "二学期制"」でググると「所沢市立学校学期制検討委員会<まとめ>」なる PDF 文書が市サイトでヒットする(掲載ページは探し当てることができなかった)。この文書には次のように、2013(平成25)年7月の教育委員会会議の定例会で「学期制についての再考が促された」とあり、そこから立ち上がったプロジェクトで「新たな三学期制」が検討された旨の記載がある。2013(平成25)年7月と言えば、前述した定数条例が可決された3~4か月後である。
2012-2014年の教育委員会委員の人事
定数条例が制定された前後の市教育委員会委員の人事がどのようであったか、藤本前市長が就任した2011(平成23)年の終盤から見ていこう。市教育委員会会議録や市議会会議録を調査し、まとめるとおおむね次の表のとおりであった。
藤本前市長の就任以前から務めている教育委員(表中の京谷委員およびその左側の委員)は、藤本市長の就任後、任期満了にともなって再任命されていないことがわかる。その代わりに新たな委員(吉本委員およびその右側の委員)が任命されており、2014年10月には教育委員の刷新が完了している。
教育委員の学期制に対する温度感
教育委員の学期制に対する温度感は、吉本氏が委員になった後、2012(平成24)年2月の教育委員会会議定例会の会議録を見ると分かりやすい。当時の佐藤教育長および冨田委員長は二学期制に賛成、京谷委員はどちらかと言えば三学期制に賛成だが変更には慎重、そして1月から新任した吉本委員は三学期制に賛成、という立ち位置に見える。同定例会に欠席していた守谷委員の温度感は調べ切れていないが、同委員は2012年7月で委員を辞職している。この辞職後の時点では、慎重な京谷委員を除けば、二学期制に賛成が2人に対して三学期制に賛成が1人と見ることができるだろう。
また、「学期制についての再考が促された」という2013(平成25)年7月の教育委員会会議定例会の会議録も見てみよう。中川委員や寺本委員は二学期制に懐疑的とでも言うべき立場のように見える。また内藤教育長は同定例会で次のように発言しており、二学期制にとらわれていないように見える。これらの3名は、その後の「新たな三学期制」への移行を鑑みるに、二学期制よりは三学期制に賛成の立場と見ていいだろう。
これらを踏まえて先ほどの表に戻ると、2013年4月の時点で、二学期制に賛成の委員は2名(佐藤、富田)、三学期制に賛成の委員は3名(吉本、中川、内藤)、変更に慎重な委員は1名(京谷)と見ることができるだろう。京谷委員と内藤委員を除けば2対2で拮抗していたはずが、定数条例の制定直後に内藤氏が任命されたことによって、二学期制側2に対して三学期制側3と明確に三学期制側に傾いたことが分かる。
まとめ
定数条例の制定は藤本前市長が三学期制を一気に実現するためのものであったという意見は、現在から過去を振り返れば、なかなかどうして妥当と言えよう。つまり、そもそも条例制定によって教育委員の定数を増やしたのは、純粋な定数改定のためというよりは、直接的な人事案件として見るべきなのだ。
であれば、今回の条例廃止により定数を減らすのも、純粋な定数改正のためというよりは、直接的な人事案件と見て然るべきだろう(控えめに言っても、そのように見ることが非とは言えないはずだ)。その人事の対象は、この3月末で任期を迎える吉本理教育長職務代理者だ。
最後に、今回の議案に対して私が思いついた賛否の態度を列挙してこの記事の締めとしたい。議員各位におかれましては、市民はここまでは調べて考えた上で議会を見ているぞ、ということを忘れないで本定例会に臨んでいただきたい気持ちである。
制定時のこういった経緯がそもそも歪なので、巻き戻すべきという意味で定数条例の廃止に賛成する。
条例制定後に市の小中学校ではいじめをはじめ様々な問題が起きており、教育委員を多くすることは必ずしもベターではないことが分かった。少数精鋭を是として、定数条例の廃止に賛成する。
小中学校での諸問題は、三学期制の導入にとらわれた前市長の人事によって引き起こされたものと見ることもできるだろう。吉本氏の再任命に反対するという意味で、定数条例の廃止に賛成する。
定数の削減案は教育委員会でもっと議論されてから議案として上程されるべきだ。本定例会で定数条例を廃止することには反対だし、適任者がいないのなら吉本氏には再任いただくべきだろう。
制定時の経緯は経緯として、「教育に関し、より広く住民の声や意見をいただき、その意見などを反映させ教育委員会をさらに充実したものにする」という点は是だと思うので、定数条例の廃止には反対する。すぐにでも適任者を探し、本定例会に追加議案を出して任命すべきである。
定数条例の廃止には反対だが、本定例会の会期中に適任者を見つけられるかは難しいだろう。そこで、年度明けの6月までに臨時会を招集し、それまでに適任者を探して任命してはどうか。(←定数条例が「5人以下」としていれば筋は通りそうだが、明確に「5人」としているので難しいかもしれない。)