哀しきヒーローの定め Thank you Jesse, and Good bye.
9月30日(月)午後。
僕は京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」メンバーの一員として、歌舞伎公演で著名な「南座」(京都市東山区)のほぼ真ん前、「四条京阪前」バス停/Bのりばにいた。
14時46分。
そこから(もちろん全部、異国語で)「産寧坂に行きたいんだけど、どう行けばいいの?」と尋ねてきたのが彼だ。
彼こと、ジェシー(仮名)だ。
産寧坂に行きたいとは珍しいリクエストだが、ジェシーはくわえて清水寺に行けばいいのか、金閣寺に行けばいいのか迷っていたみたいなので、なるほど、産寧坂って言うかとにかく清水寺に行きたいのね、と察した僕は、Q&XLのヘンタイ知識により、通り向こうの「Aのりば」から207に乗るよう案内した(下車は「清水坂」バス停)。
丁寧に手を合わせて少し頭を下げ、片言の日本語で「アリガトウ」とジェシー。
僕たちは、無事に目的地にたどり着けるよう願いつつ、彼の背中を見送ったのだった。
その2日後。
10月1日(水)午後。
僕は清掃活動「プチコロリ」メンバーの一員として、名刹・嵐山にいた。この日は日本経済新聞の取材も入っていたので、ベタに盛り上がる超有名観光地に行くことにしたのだ。
15時12分。
約2時間に及んだゴミ退治の最終盤のことだ。
僕は「嵐山」バス停/Bのりばに、見覚えのある人物を発見する。
ああ、忘れてなるものか!
ああ、僕のジェシー(仮名)!!
たった3日間のうちに、この広い広い世界の片隅で(まあ京都市内やけど)、二度も偶然出会うことなんてある???
これはもう、なんかやで!
おれたちはあの~、その~、運命的なアレに導かれて出会うべくして出会った、なんかやで!
思わず興奮して両手を広げて近寄るが、なぜだか彼は微妙な表情を浮かべている。
どしたん? ジェシー? おれやん?
2日前の、南座の、バス停の、産寧坂の、清水寺のおれやん???
……って、絶対わかんないよね。
今日のおれ、真っ青やん。
真っ青っていうか、そもそも人間ちゃうやん。
ヒーローやん。ゴミブルーやん。
僕のジェシー。
礼儀正しい、素晴らしいジェシー。
観光客のお手本のようなコースを巡っているジェシー。
これほどまでに己を、いや、ヒーローとして生きる己の定めを呪ったことがあっただろうか。
マスクを脱いで、今すぐ強く彼を抱きしめたい。
でも、それはできない。決してできないことなのだ。
バットマン先輩、スーパーマン先輩、スパイダーマン先輩、タイガーマスク先輩、仮面の忍者・赤影先輩ほか多数。
今ようやく、パイセンヒーローたちの苦悩が、身を切るような痛みを伴いながら我が事として感じられる。
「Picture ok?」と、さらに近づく真っ青野郎を快く受け入れてくれたジェシー(いや普通、逆やで)。
そうして記念撮影を終えた別れ際、彼は僕たちに向かって手を合わせ少し頭を下げ、再び静かにこう言ったのである。
「アリガトウ」
ひょっとすると彼は、全てを分かっていたのかもしれない(んなわけ、あるかい)。
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