ぼくの宿が京都市に殺されかかってる件

はじめまして。僕は京都市で小さなホテルの運営をしています。

こんな話をしても大多数の方には無関係だとは思うのですが、この数年宿泊業に携わってきて、日本の闇みたいなものも見えて来たし、こんな事がまかり通っては行けないと思うので文章にしました。

もくじ

概要:京都市のはしご外し条例がひどい。

経緯:言う通りにしたのにこの仕打ち。。。

問題点:前提をごそっと変えられたらそりゃ利益なんて出ないよ。

具体的な金額:想定してない人件費がゴソッと・・・

こんなことしてていいの?:もう日本は貧乏なのに・・・

これからどうなる?:あの有名ホテルもアウト!?

京都市議会議員に電話してみた:いろいろ聞きました。

裁判の可能性:京都市相手に裁判!?

【 概要 】
京都市の条例改正(厳密には条例の運用規定のようなものらしいですが)がとんでもないはしご外しになっていて、すでに泣き寝入りしている事業者や、これから死んでいくことが間違いない事業者がたくさんいる。ってな感じです。その中には僕も入ってます。もちろん僕自身が物理的に死ぬわけではありませんが、数年かけて育ててきた事業が死んでしまうのはすげー悲しいです。(死なないように手は打ちますが、何もしなけりゃ殺されそうって話です。)

【 経緯 】
京都市はもともと日本で増えていた「違法民泊」を徹底的に取り締まっていました。これ自体は住宅宿泊事業法という法律ができたので仕方ないとは思いますが(住宅宿泊事業法の良し悪しに関しては別の機会に。)、この法律ができる前から京都市は「民泊は違法だから、旅館業法の簡易宿泊所の許可を取りなさい。」というような誘導をしてきました。

京都は数年前まで圧倒的な宿泊施設不足が問題視されていたので、違法民泊はだめだけど、簡易宿所の許可をとらせて、行政の管理の下、主に外国人観光客を誘致したかったのでしょう。その結果、京都市内の簡易宿所の数は爆発的に増え、また同時に中規模以上のホテルも増えに増え、更に現在でも建設が進められている宿泊施設がめちゃくちゃたくさんあります。

あっという間に宿泊施設が充足した京都市は条例を変えてきました。これは全国で京都市だけの厳しい内容になります。

ケースA:2室以上、または10人以上の施設

変更前:スタッフの常駐義務なし。

変更後:客がいる限りは、(実質24時間)スタッフの常駐義務を課す。

ケースB: A未満の施設

変更前:とくに義務なし

変更後:800m以内に人員が常駐する施設外帳場を設け、常に駆けつけ可能にする

【 問題点 】
当たり前の話ですが、あらゆる事業を始まる前にはFS(フィージビリティ・スタディ)と言って、簡単に言うと「こんくらい儲かるからやろうぜ」っていう試算をします。最低でも3シナリオくらい描いて、一番ひどいケースでも大丈夫だよねってことで事業をスタートさせるわけです。

で、当然その際の人件費の試算は常駐しないパターンで計算するわけです。実際小規模施設において深夜フロントに人がいたところで、全くやることがありません。お客さんも寝てるものそりゃ。きっとスマホゲームは捗るでしょう。

そもそも別に常駐しなくても問題ないから従来の条例ではそんな義務がなかったわけで、今回の改正は完全に小規模事業者狙い撃ちの「いじめ」であると感じています。

【 具体的な金額 】
ケースA
例えば、今までは適法の運用方法として、7:00~17:00までスタッフが館内にいたとしましょう。(フロントに居る必要性はありません。)これが、常駐義務化により17:00~7:00の14時間分の人件費が追加で発生します。京都市の法定最低賃金は909円。22:00-5:00は25%の法定深夜割増対象になるので、1時間あたり1,136円になります。

1日あたり
1,136 x 7(深夜分) + 909 x 7 (通常分)= 14,315円

1ヶ月30日とすると、
14,315 x 30 = 429,450円

の追加経費になります。この金額をどう感じられるかは人それぞれだと思いますが、仮に今の価格相場で集客している2−3室程度の施設はほぼ確実に赤字転落すると思います。僕のところは8室ですが、京都は繁閑の差が激しいので、閑散期はやばいと思います。もういっそ閑散期は全館閉めてしまうほうが良いかもしれませんが、清掃スタッフのことなどを考えるとそうも行きません。

ケースB
施設外帳場は外注が可能なので、ケースAよりは導入しやすいと言えますが、なんせ範囲が800m以内なので、近くに外注可能な業者がいない場合は自分でなんとかする必要がありますし、この施設外帳場はホテル用地と同じ要件を満たす必要があるので、自宅マンションもダメだし、他の事業と併用もダメです。眼の前のコンビニに頼むってのもダメ。

外注費用の相場はまだ固まってませんが、聞くところによると2−5万円/月程度。大きな金額ではないとはいえ、このケースが該当するのは1部屋のみの施設だけですから、痛いのは間違いありません。

更に業者への外注による施設外帳場についても、スタッフ一人に付き5施設までしか受注できないという追加ルールの話も出てきており、こうなった場合当然外注コストも上がることが予想されます。

【 こんなことしてていいの? 】
以上が大体の経緯と問題点ですが、こんな事やってたら商売なんて誰もできません。ラーメン屋さん開いて営業して数年経ったら「ラーメン屋は常に二人以上のスタッフでないと営業を許さない。」って条例が出来たようなもんです。初期投資も価格設定もすべて一人で回すことを前提に設計した上で、行政の許可を得て営業していたのにもかかわらず、です。おそらくこのラーメン屋さんは潰れるでしょう。
背景には一部の無責任な簡易宿所運営者が原因となった近隣からの苦情が言われていますが、おそらく旅館組合も関係しているでしょう。もともと民泊への摘発が日本一厳しかったのもこの組合の圧力と言われています。

良くも悪くも話題になった民泊のおかげで出来た新しいカタチである最近の簡易宿所には良い側面がたくさんあり、例えば大阪は民泊特区を広く設定し、規制を緩和することでむしろそういった形の宿泊施設を推進しています。

日本が(で)お金を稼げる分野などそう多く残ってないのに、民泊やライドシェア(UBERみたいなやつですね)を実質的に殺していく様を見て、「あぁこの国はもう本当に転げ落ちていくしかないんだな」と思いました。貧乏まっしぐらのこの国が意味不明なプライドや排他性、潔癖性で「新しい稼ぐ道」を自ら閉ざしていく一方で新興国は貪欲にそういったものを取り入れてスピーディーに、日本人より安い人件費で動いています。そりゃ勝てるわけない(ちなみに僕は中国とタイで駐在員経験があります。)。

【 これからどうなる? 】
僕個人で言えばいくつか対策は考えていて、もしかしたらチャンスにもなるかなと思って各所と話はしています。当面は僕が住み着いちゃえば良いわけですから、短期的には難しいことはないんですよね。そうなったら暇なので、誰か飲みに来てください(笑)

全体論としてはほとんどの施設は様子見であると思います。深夜抜き打ちチェックは考えづらいので、おそらく近隣からのクレームなどをトリガーにして指導を行っていくのでしょう。

一つ興味深い対象があります。日本全国でも有名な「スーパーホテル」ですが、あのホテルはほとんどのケースでFC的に業務委託を受けた夫婦が住み込みで運営しています。つまり、「同一の建物に常にいる。」わけですが、実はこれ今回の条例の要件を満たしません。そもそも旅館業法の許可は「住居と客室が混在」している場合は受けられないので、別々の入り口を設けるなどして「住居と客室部分は完全に分離」させる必要があります。今回の条例で求めているのは「施設内への常駐」なので、あのスーパーホテルですら要件を満たすことが出来ません。分離している居住部分にいても、「施設内」にはいないことになります。少し前ですが、スーパーホテルの法務に電話して確認したところこの事実すら把握していなかったのでどうなるか見ものです。まぁその夫婦のどちらかに「ホテル内にいろ」と命令を出すことで解決するっちゃしますが。。。

【 京都市議会議員に電話してみた 】
この経緯を問題視する記事を上げていた村上市議という市議会議員がいたので、現状を聞くべく電話してみたら本人から折返しがありました。曰く、

・常駐義務は条例に書いてあるわけじゃなく、市役所が決めた運用ルール。法的拘束力はあるが、議会を通ったものではない。
・京都市は「絶対やる」という強硬姿勢である。
・京都市で最大議席数を持つ自民党、第2党である共産党(マジなんですよこれが。しかもたった2議席差)も全くやる気が無い。
・すでに損切りして売却している事業者もいるので、今から条例を変えるのは現実的に考えて難しい。

とのこと。ちなみに村上市議は次回の市長選に出られるそうで、ただでさえ5議席しかないこの会派は4議席に減少します。市議との会話での結論は「唯一可能性があるとすれば裁判。」ってことになりました。

【 裁判の可能性 】
実はこれ以前より某オンラインサロンで知り合った弁護士のかたと行政相手の裁判の可能性について話していて、流石に京都市の規制は厳しすぎるので、この規制自体の違法性が認められるという可能性は十分にあるとのこと。裁判所からの命令であれば京都市も動かざるを得ません。

正直悪目立ちはしたくないところはありますが、お金が集まれば訴訟もありかなと考えています。件数が集まればそう大きい負担でもないので(全体で300-400万程度)、もしお金出してくれる方いましたらご連絡ください。

【 最後に 】
行政の言う通りに許可取って、近隣クレームゼロ、Booking.comレビュー9.4を維持している僕にとっては迷惑きまわりないっていうか、ふざけんなよって話なんですが、これが日本の縮図っていう気もします。ちなみに京都市の現市長は、自分の所轄でおこった京都アニメーションの火災の直後の選挙応援演説で、

「火事は3分、10分が大事。選挙は最後の1 日、2日で逆転できる」

と言い放ち炎上した68歳の老人です。次の市長選にも出馬するそうです。

日本これでいいの?

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