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ヘルシンキ|よいとこ

平らな国フィンランドに到着しました。サマータイムなので時差は6時間。

入国審査の列が非常に遅く、予定より40分以上遅れましたが、TAと参加学生計17名と空港で現地合流。ほっ。ホステルまで一般の路線バスで移動します。チケット買うのもひと騒動。

今回ヘルシンキで滞在したアパート。Kruununhakaエリアの集合住宅の一戸(写真右側の一階)。

学生はホステルですが、自分はエアビーで見つけたユニットにチェックイン。Kruununhaka地区にあるアパートの一階のスタジオ。オーナーの女性は元ノキア勤務で、20年前くらいはロンドンと東京を二週間ごとに行ったり来たりしていたという知日派の方だった。キッチンや洗濯機、アイロンなども完備なので長期滞在にはやはりホテルより優しい。これから一週間の家。

今のシーズン、日没は22時40分頃なので、今日はアアルトの自邸とスタジオのツアーを17:30から20:00頃までやっていただきました。夏のヘルシンキでよかった。

疲れてアパート近くまで帰って来るが、2分ほどあるくとこんな素敵な水辺が。ヨットの浮かぶ水面の向こうには再開発エリアが望める。

流石に時差ぼけで早く起きてしまうので、アパートから歩いてマーケットスクエアへ。Old Market Hallで朝ごはんを。

今回のワークショップのテーマは新しい学びのための空間。まずはアルヴァ・アアルトのフィンランディアホールの外観だけ見学した後に、昨年2018年12月にオープンしたばかりの中央図書館Oodiへ。ALAアーキテクツの設計。3階は空港のような大空間があり、雲になぞられた曲面の天井の下に、両端に丘のような床が作られている。

2階はファブラボと、クッキングスタジオと、借りれる小部屋や読書室などの集合。3Dプリンター、カッター、大型プロッターやカッティングマシン、ミシン、刺繍機、Tシャツプリント台などありとあらゆる機器が並ぶ。この空間を夜の22:00まで使えるヘルシンキ市民になりたい。

中央図書館Oodiのパンフレット。図書館の理念のいくつかのキャッチフレーズが掲げられているが、Oodi is about partnership, Oodi is about activity, learning and communality, Oodi is about moments for yourself と綴られ、ことに Oodi is about democracy and equality というフレーズに痺れる。
図書館のパンフレットですよ。

ヘルシンキ大学の図書館Kaisa Taloへ。図書館がいかに大事にされているか分かる。入館、滞在は大学図書館であっても一般市民をふくめて開かれている。

アアルトの国民年金局。今回は残念ながら外しか見れませんでしたが、自分としては一番好きかも。変形な敷地の中での建ち方が良い。

アアルト設計の文化の家へ。アアルト財団のスタッフの説明を聴きながら内部も見学。

アアルト自邸のなかのアトリエ。事務所が小さかった当時はリビングに隣接したこのアトリエで仕事をしていたとのこと。一番奥の窓際がアアルトの席。

アアルトのスタジオ。プライベートツアー。

ユハ・レイヴィスカスの教会。ミュールマキ教会を見学しようと調べていたのですが、修繕中で入れないということで、グッド・シェパード教会へ。公共交通機関だと不便かなと思っていたのですが、バスであっさり行けました。さすがヘルシンキ。良い建築は学生にもすぐに分かるようです。

マーケットスクエアからフェリーで15分ほどの湾に浮かぶ要塞の島、世界遺産・スオメンリンナ要塞へ。要塞の島もいまは一大観光地。カフェやレストランもあるし、ピクニックを楽しむグループがいっぱい。

学生を連れてセウラサーリ屋外ミュージアムへ。木造の古建築を移築してつくったもの。ロシアのスーズダリの古民家園と比べると、地域のせいか、年代のせいか、装飾などは少ないあっさりデザイン。ログのうえに縦ばりの仕上げを施したものも多い。

小屋などの屋根は下地の上に白樺の皮を敷いて防水し、半割の細い丸太などで押さえたもの。

フィンランド版高杉庵。熊や狼から守るための倉だそうです。

今回一番萌えたのは、「CHURCH BOATS」という海や湖を渡って教会へ向かうためのボートを格納する小屋。ログを井桁に組んだ柱で屋根を支えている。屋根はくの字に彫り込んだ材を上下に互い違いにかぶせて水路を作ったもの。

学生と離れてヘルシンキ中心部から8キロほどのViikkiへ。前回は北側の街区にある木造の教会を見たのだが、南側にあるエコタウンEco-Viikkiは未見だったので訪問。Viikki そのものは広いエリアなので、移動の車の中で情報を見つけてあたりをつけて見学。グリーンフィンガーと名付けられている住区を区切る緑地帯が、予想以上に繁った緑と市民農園からできていたのにびっくり。2004年に竣工しているそうなので、完成後15年くらい。素晴らしい。http://www.uit.gr.jp/members/thesis/pdf/honb/403/403.pdf

Viikki からアアルト大に戻る途中で、中村さんに教えてもらった屠殺場のリノベーションのスペースでひと休み。作業スペースであったろう中庭が夜はいい雰囲気で使われていそう。夜にまた来てみようかな。

学生をキアズマで放牧した後、TAの学生を連れてTervasaari島のレストランに。スーラの絵のような風景がそこかしこに。土曜日とはいえ、いいなあ。


そしていよいよワークショップ会場でもある、オタニエミの旧ヘルシンキ工科大学、現在のアアルト大学へ。

ヘルシンキ工科大のころの建築学部だったあたりの階段。階段の勾配のいろいろをレリーフのように表現。これ芝浦にも欲しい。

建築の講評会などにも使った広い廊下のようなスペース。壁には図面を貼り出した押しピンの跡が無数に。背面となる中庭に面した側には間接光が入るアルコーブをもつ壁が。

音が反響して実際には講評の声が聞き取りにくいとかw

アアルト大のキャンパスの中にあるオタニエミの教会。残念ながら修繕中で入れませんでした。外ではスケッチをする学生たちが。

アアルト大のキャンパスそのものを素材に。アアルト建築の中でアアルトを学ぶという贅沢。

ワークショップの作業の合間に9つの英語のレクチャーをうけます。アアルトの設計の教室で。

芝浦工業大学の学生のためわざわざスェーデンはストックホルムから来ていただいたランドスケープアーキテクト事務所Manda Worksの主宰者Martin Arfalkさん。日本で言うところの都市計画、都市デザイン、建築デザイン、ランドスケープデザインなどを全て取り込みながら大きなスケールで具体的に体験や空間の質を描き出す力量に驚嘆する。日本には肩書きはともかくここまでやっている人は居ないのでは。

ワークショップの作業に取り組む学生たち。アアルトの建築と家具に取り囲まれて。360度アアルト。

今回のアアルト大学滞在中の9つのレクチャーの中でもある意味もっともインパクトがあったのは副学長でキャンパス改造の責任者でもあるAntti Ahlava教授の新しい大学像、キャンパス像の話し。アアルト大学はもともとあったヘルシンキ工科大学、経済大学、美術大学の3つが統合して2010年に設立されたもの。フィンランドでは3番目の規模の大学。フィンランド最大のヘルシンキ大学には建築学部はないので、建築学部がある大学としては一番大きい(フィンランドにはそもそも建築を学ぶ大学は3つしかない)。
国立大学ではあるが、収入のうち国からは6割、企業からの資金が4割とのこと。

三大学の統合は、工学、建築、デザイン、美術、経済を統合したイノベーションの拠点を作るという国家的な戦略があるということで、実際フィンランドの起業の半数以上はアアルト大をベースにスタートしているとのこと。実際に多くのスタートアップが入るスペースをみた。「イノベーション」を掲げ、実業と密接な関係を築くのは、企業からの資金を獲得していく方法でもあるし、企業側も社内では生み出せない新しい発想や技術、人材を獲得したいというWin Winの関係があると思う。
さらに驚かされたのは、アアルトのマスタープランを見直し、多くの建物をこれからキャンパス内にどんどん建設していくプランがあると同時に、空き教室を減らし、最大の空間効率を上げようとするアプローチがとられてていること。
日本でも知られるようになってきたMaaS(Mobility as a Service)という言葉に対応して、Campus as a Service、School as a Serviceというワードも出てきた。
もちろんアアルトの建築が集中する中心部分は保存地区的に残されるが、周囲の開発はかなりのボリュームのようだ(それでも日本的な感覚からは余裕があるかもしれないが)。
また、写真に写っているようなアプリを使って空き教室をスタッフや学生が学習や教育のためにリアルタイムに予約できる仕組みや、大学内の空き教室を使ってその日その日で違う教室で教育を受ける付属小学校や高校の設立など、アグレッシブなもの。
このような大きな変革は5年ほどまえに起こった、国からの交付金が急に大きく減額され、教員スタッフの1/3を解雇せざるを得なくなった事件がきっかけということだ。残された土地と建物を最大限に活かし、世界的なイノベーション拠点として生き残る、という明確なビジョンを感じる。
もちろん教育の場として本当にそれで良いのか、という議論も活発なようだが、そのようなダイナミックな議論があること自体が大学を活性化させていくのだろう。
いろんな意味で良いショックを受けたアアルト大学滞在でした。

アアルト大学と芝浦工業大学はMOUを結んでいますが、これまで建築系の交流はそれほどありませんでした。近い将来、交流を盛んにできるよう、アアルト大学の先生方とディスカッションをもちました。もっとたくさんの芝浦の学生にヘルシンキ、アアルト大を経験してほしい。

夜、というか気分的には夕方ですが、ヘルシンキの建築家ペッカ・パッカネンさんとお話し。彼がデザインした、マーケット・スクエア前の仮設のサウナやプール、カフェレストランなどの複合施設で。都市計画にのらない仮設建築の提案で、非常に多くの交渉を要した建築だそうだ。マーケットスクエアや湾の島々、グッゲンハイム・ヘルシンキが建ったであろう敷地なども望むことができる(彼は同美術館のローカルアーキテクトを勤めるはずだったそうだ)。この春から自分自身が設立した建築設計事務所を離れ、木造建築に特化した新しい建築設計事務所を立ち上げたそうだ。いろいろ野心的なプロジェクトがスタートしているようで、素晴らしい。

昨年2018年9月にビルディングランドスケープの研修として所員をひきつれてフィンランドツアーををして以来、意外に早い再訪となった。多くの発見と出会いのあった旅。

また来ます、ヘルシンキ!

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