Ask no questions and hear no lies.


※『詐欺師は天使の顔をして』のネタバレ有

 大学三年生の春の話である。
 後輩の呉塚要が恋人を作ったと聞いた時、子規冴昼は「また要が何かを企んでいるなあ」と思った。真実の愛に目覚めた可能性だってなくはないけれど、それよりは何かしら理由があると邪推した方が確度が高い。だって、要だし。
 冴昼の個人的な考えでいくと、要は恋人の一人でも作った方がいいんじゃないかと思っている。勿論、何かしらの打算が働いていないタイプの恋人である。野心と権力に人一倍取り憑かれた人間の行く先を考えるとちょっと怖いところもあるし、少しでも人間味を獲得してほしいという思いからである。
ただ、あの要がポッと芽生えた愛情なんかで変わるのだろうか? という思いもある。それこそ魔法めいているし、要のあの執念深さは呪いというより祝福なのだ。正直、彼ほど人生を謳歌している人間はいない。要は一体どんな社会人になるのだろうか。

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