高専生の王道?少数派な高専生が、高専の真の価値を明らかにしようとしている

鈴鹿高専生物応用化学科 5年
大久保和樹

大久保さんは鈴鹿高専を休学して東京へ進出。ITベンチャーでインターンシップをしながら、高専生をアクティブにするためのメディア「高専マガジン」の立ち上げを行っています。一見、高専生としては異端なように見えますが、そこに隠されたメッセージを明らかにするために、大久保さんに取材を行いました。

大久保和樹(鈴鹿高専)
1998年三重県松阪市生まれ。2014年に鈴鹿高専生物応用化学科に入学。4年次が修了した段階で休学し、東京に進出。フラー株式会社にてエンジニアインターンとして活躍する傍ら、自身と同じような悩みを抱えた高専生を救うために「高専マガジン」のプロジェクトを主導する。現在、CAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

自然科学の神秘に惚れ込み、高専に飛び込んだ

中学生時代に理科が特に好きだったという大久保さん。しかしながら、単純に実験大好きというだけではなく、そこには壮大な自然科学の興味があったようだ。

「とあるドラマで『シュレディンガーの猫』というキーワードが紹介されていました。気になって理科の先生に尋ねてみたところ、先生も説明に困るくらいの難題ということを知りました。その時から、量子力学を始めとする自然科学に魅了されました。未知なことも多い領域ということや、哲学的な考えに近いところが大好きです。」

そのような興味を抱く中で、進路選択の時期に差し掛かり、大久保さんの中で高専に白羽の矢がたった。

「高専の説明会に参加したところ、高専の先生はほとんど博士号を取得しており、15歳からそのような研究者による授業を受けることができ、さらには実験までもできるとのことでした。その時に高専に進もうと決心しました。」

量子力学は中学校の理科の先生でも難しい分野。その興味を満たすためにはいち早く最先端の研究者の授業を受けたい。そのような思いで大久保さんは高専を選んだ。

拍子抜けしてしまった高専生活。進路に苦悩する日々。

勇んで高専に挑んだ大久保さんだが、正直なところ期待はずれな点も多かったという。

「意識の差にびっくりしました。大好きな自然科学分野の議論を出来るものと思っていましたが、周囲の同級生は全く興味を示していませんでした。」

煮えを切らした大久保さんは、鈴鹿高専において唯一量子力学をメインテーマとする研究室の門を叩いた。その時、まだ高専1年生だった。

「快く話は聞いてもらえたものの、高専1年生ということもあり、数学的な知識が著しく不足していて戦力にはなれませんでした。それでも、独自に調査して日本科学協会のサイエンスメンターから量子力学のレクチャーを受けるなどチャレンジを続けました。」

とにかく量子力学に惚れ込んでいた高専時代の大久保さん

めげずに自らの興味を満たすために勉強を続けていた大久保さんだが、一方、英語学習については悩んでいたという。

「すごく英語が苦手でしたし、勉強する気力も起きませんでした。ただ、このままだと編入試験で希望する大学に進めないのではという危機感もありました。そこで、留学をして自らを背水の陣に追い込めば成長できるのではないかと考えました。」

しかし、高専在学中の留学は非常にレアケースであるため、先生からは大学に進んでから留学を考えてみてはどうかとなだめられたとのこと。腰を折られた形になってしまった大久保さんは、進路について悩む日々に突入してしまう。

活発な人々に触発されて東京へ。そして「高専マガジン」の立ち上げ

なんとか留学するために休学が決まったもののもやもやとした日々が続く中、大久保さんは興味の赴くままに、大阪で行われていたあるライターのセミナーに参加した。これがすべての突破口となる。

「セミナーに参加する人々は本気の人たちばかりで、心を揺さぶられました。これをきっかけにさらにアクティブな人々の話を聞いてみたいと思い立ちました。」

走り出したら大久保さんは止まらない。

「様々な起業家の人々と話をさせていただいたのですが、その中で自分の欲求を満たすのは東京だとアドバイスされました。『君はパンチが強すぎるから東京に行け』と(笑)。ワクワクが止まらなくなりました。」

その時、『高専マガジン』の構想が立ち上がった。

「高専では疎外感を感じていましたが、このように活発な人々と出会うことで自分の道が拓けた気がします。この体験をメディアを通じて高専生に伝えることができれば、自分と同じように悩んでいる高専生の励みになるのではと考えました。」

高専マガジンはなかなか一歩が踏み出せない高専生の背中を押すメディア

とにかく色々な人の話を聞いて、それを伝えるメディア『高専マガジン』を作ろうと鈴鹿を飛び出して東京に向かった。現在、大久保さんがインターンシップで所属するフラー株式会社も、最初は取材準備の一環で訪ねた会社だった。

「まずは高専を知っている人々から取材していこうと思っていたのですが、たまたまフラーの渋谷さんのTwitterを見つけました。高専卒で若手起業家として名を馳せている人がいるのかと衝撃を受けました。メッセージを送ったらすぐに会っていただけました。」

志を持って行動したら、志を持った人々と自然と出会うことができる。非常に新鮮な体験ばかりだ。

「このまま高専に残っていたら、様々な後悔を引きずり、くすぶっていたかもしれません。」

高専生の王道?この違和感を乗り越えた時に見えてくる真の高専

高専マガジンは新たな高専の定義付けを行おうとしている。高専生ならではの王道は存在するが、からなずしも高専生の進路はそれだけではないようだ。

「『高専マガジン』は王道の進路に違和感がありながらも、なかなか行動できない高専生の起爆剤となるメディアです。自分はたくさんの人々に刺激されて今チャレンジをしていますが、そのようにどんどん飛び出していく仲間は高専界隈にもいるよということを伝えたいと思います。」

口ぶりは淡々としているが、その想いは非常に熱い

様々な高専出身者と会ってきた大久保さんだが、少数派の高専出身者にはある共通点があるという。

「高専の王道から外れた人々の方が、みずからが高専で何を学んだかをよく考えている気がします。高専は5年間と長いため、考える時間も長いです。その時間を有意義に活用して考えた人ほど、伝統に溺れずに自らの道を開拓していると思うのです。結果としては王道から外れていても、ある意味最も高専を発射台として活用できた人なのだと思います。」

大久保さんの想いは、高専に新鮮な風を吹き込む。メディアというプラットフォームに、今まで少数派だった人々が集い、そこに地域や学科や学年は関係ない。この潮流は高専の真の価値を明らかにしてくれるのかもしれない。

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