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No.1 マイクロバイオーム研究の最新論文紹介(微生物、腸内細菌の最前線)

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、マイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年あまりで指数関数的に増えています。(どうでもいいけど最近まで「指数対数的」やと思ってた。どんな的やねん)

私自身すべて追えないのが現状ですが、'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!

(今回は年末年始で3週間分もためてしまって、凄まじい量になってしまいましたので、明日公開分と分けます)


【妊娠や女性ホルモンとマイクロバイオーム】

炎症性腸疾患(IBD)の発症リスクと母乳育児の関連についてのレビュー

[Review Article]
(タイトル)An Overview of the Influence of Breastfeeding on the Development of Inflammatory Bowel Disease
(タイトル訳)炎症性腸疾患(IBD)の発症リスクと母乳育児の関連についてのレビュー
(概要)母乳育児は世界的に推奨されているが、IBDの発症リスクとの関連も研究されている。こういった研究をまとめたところ、マウス実験では母乳がIBDリスクを下げるというデータがあるものの、ヒトの場合は変動要因の多さや研究手法の違いなどの影響で、結論を出せないというのが現状。
(著者)Benjamin Bertinら
Univ. Lille, Inserm, CHU Lille, U1286-INFINITE-Institute for Translational Research in Inflammation, F-59000 Lille, France
(雑誌名)nutrients
(出版日時)22 November 2023
(コメント)なし

マウス実験;高脂肪食を摂取することで起こる腸の透過性が、妊娠によって保護される

[Regular Article]
(タイトル)Pregnancy Protects against Abnormal Gut Permeability Promoted via the Consumption of a High-Fat Diet in Mice
(タイトル訳)マウス実験;高脂肪食を摂取することで起こる腸の透過性が、妊娠によって保護される。
(概要)肥満が世界的に増える中、肥満によるリーキーガット(腸の透過性上昇)による健康へのダメージが明らかになりつつある。この論文では、妊娠マウスでは高脂肪食摂取によるリーキーガットの発生が防がれることを示している。
(著者)Caio F. Biolcattiら
Laboratory of Cell Signaling, Obesity and Comorbidities Research Center, University of Campinas, Campinas 13083-864, Brazil
(雑誌名)nutrients
(出版日時)8 December 2023
(コメント)著者らの出身であるブラジルでは肥満が社会問題となっており、肥満の妊婦も増えている。妊娠がリーキーガットから妊婦を保護するとすれば、妊娠とマイクロバイオームを理解する助けになるだろう。

腸マイクロバイオームは女性ホルモンの変化に応答し、代謝を悪化させる

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2023.2295429

[Regular Article]
(タイトル)Gut microbiome responds to alteration in female sex hormone status and exacerbates metabolic dysfunction
(タイトル訳)腸マイクロバイオームは女性ホルモンの変化に応答し、代謝を悪化させる
(概要)去勢したメスのマウスでは、腸の透過性が増大し、消化管の炎症を起こした。高脂肪食はこの傾向を増悪させた。
一方、去勢後の腸内細菌叢の変化は、低脂肪食マウスにのみ見られた。
さらに、去勢マウスの便を移植されたマウスでは、体重増加や代謝機能の変化、炎症などが見られた。
これらの結果から、腸内細菌叢は女性ホルモンの変化に応答し、代謝機能の悪化を促進していることを示した。
(著者)Tzu-Wen L. Crossら
a Department of Nutrition Science, Purdue University, West Lafayette, IN, USA;b Division of Nutritional Sciences, University of Illinois Urbana-Champaign, Urbana, IL, USA
(雑誌名)Gut Microbes
(出版日時)28 Dec 2023
(コメント)女性は、男性に比べて腸内細菌叢が変化しやすい傾向があるように思うが、女性ホルモンが大きな役割を果たしているのかもしれない。

【マイクロバイオーム全般】

食事と腸マイクロバイオームの関係をイタリアとオランダのコホートで検討する:タンパク質と食物繊維の比率が鍵か?

[Regular Article]
(タイトル)Relationships between diet and gut microbiome in an Italian and Dutch cohort: does the dietary protein to fiber ratio play a role?
(タイトル訳)食事と腸マイクロバイオームの関係をイタリアとオランダのコホートで検討する:タンパク質と食物繊維の比率が鍵か?
(概要)イタリア人男性19名、女性20名、オランダ人女性30人の食事記録と腸内細菌叢を解析した研究。食物繊維の絶対量を増加させるよりも、食事中のタンパク質と食物繊維の比率が腸内細菌叢に大きな影響を与えることを示唆している。
ただし、被験者数が少ないことや、オランダ人男性がいないことを研究の限界としている。
(著者)Silvia Tagliamonteら
Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, Parco Gussone Ed. 84, 80055, Portici, Italy
(雑誌名)European Journal of Nutrition
(出版日時)27 December 2023
(コメント)マイクロバイオームはリレー式に食べたものを消化していくので、なにか一つを加えるよりも、比率(バランス)が大事だという理屈は、これまでの研究とも矛盾しない。

マイクロバイオームと多発性硬化症への介入治療に関するシステマティックレビュー

[Review Article]
(タイトル)Modulating the Gut Microbiome in Multiple Sclerosis Management: A Systematic Review of Current Interventions
(タイトル訳)マイクロバイオームと多発性硬化症への介入治療に関するシステマティックレビュー
(概要)多発性硬化症患者における食事療法、プロバイオティクス治療、FMT、断続的断食などの効果について、2011年から2023年までの13件の研究をまとめている。
(著者)Anthi Tsogkaら
Second Department of Neurology, Attikon University Hospital, School of Medicine, National and Kapodistrian University of Athens, 157 72 Athens, Greece
(雑誌名)Journal of Clinical Medicine
(出版日時)2023 Dec 11
(コメント)なし

大腸がんの腸内環境における腸マイクロバイオームの役割

[Review Article]
(タイトル)Gut microbiome: decision-makers in the microenvironment of colorectal cancer
(タイトル訳)大腸がんの腸内環境における腸マイクロバイオームの役割
(概要)大腸がん患者における腸マイクロバイオーム(腸内細菌)のメタゲノム解析により明らかになりつつある事柄をまとめたレビュー。
良性ポリープの悪性化や成長、転移に関連する腸内細菌が見つかり、「発がん性細菌」という呼び名も提案されている。(Escherichia coli, Fusobacterium nucleatum, enterotoxigenic Bacteroides fragilisなど)
特に初期の大腸がんでは、腸内で特定の細菌が優勢であり、これが腸細胞のDNA損傷と染色体不安定性の増加により腺腫やさらには悪性腫瘍へとつながっている。
腸内細菌の代謝産物が腸内環境に与える影響も考慮すべき。
(著者)Jingrun Hanら
Department of General Surgery, The First Affiliated Hospital of Dalian Medical University, Dalian, China
(雑誌名)frontiers in Cellular and Infection Microbiology
(出版日時)2023 Dec 12
(コメント)がんの発生から、がん発生後の腸内環境への影響まで、様々な細菌との関連がまとめられている。

腸マイクロバイオームの多様性、構成、代謝に対するエクササイズの効果:異なる研究間の矛盾と将来へ向けて

[Review Article]
(タイトル)A systematic review on the effects of exercise on gut microbial diversity, taxonomic composition, and microbial metabolites: identifying research gaps and future directions
(タイトル訳)腸マイクロバイオームの多様性、構成、代謝に対するエクササイズの効果:異なる研究間の矛盾と将来へ向けて
(概要)運動をすると腸マイクロバイオームに影響があるのかどうか、19のヒト研究と13の動物研究をまとめている。半数以上の研究が、両者に関連はないと結論している一方、短鎖脂肪酸を出す細菌の増加や多様性の向上を認める研究もあった。
研究によって結果がまちまちなので、運動とマイクロバイオームの関係を知るには、標準化された方法が必要。
(著者)John M A Cullenら
Department of Nutrition and Exercise Physiology, University of Missouri, Columbia, MO, United States
(雑誌名)Frontiers in Physiology
(出版日時)19 December 2023
(コメント)なし

今日は以上です!

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