2018年7月の自選30首(濱松哲朗)
Twitterで「自選30首」というワードを見かけたので、折角なので僕もやってみます。『春の遠足』(第3回現代短歌社賞次席作品。2017年、同人誌「京都ジャンクション」にて誌上歌集として発表)収録分と、それ以後の作品から選びました。現時点での30首です(なので、気が変わったり既発表の新作が溜まったりしたら新しいバージョンを上げるかもしれません)。
・『春の遠足』(2009-14、未刊)
紫陽花を今年は何処で見るのだらう単色刷の街に暮らして
夕焼けに続きの言葉見つからず君はひとつの衝立である
あの夏の夢でわたしは君だつた歩道橋から鳥を見てゐた
あの頃に戻りたいとは思はないさうすれば父がもう一度死ぬ
返答を思ひ付かざれば飼ひ犬の胸のあたりの癖毛をなでる
人はきつとゆつくり死んでゆくのだらうゆつくり生きてゆく為に死ぬ
欲望も願望も展望もない 家賃は明日引き落とされる
長すぎる影は栞になるだらう夏は未完のままに過ぎゆく
私など幾らでもゐる 足音を出しつぱなしにする人の海
てぶくろを雪にうづめることばかり考へてゐた それほど赤い
歩み来し枯野に色を足すやうにやさしさといふ切手を貼りぬ
やがてわれも人間をやめる日を迎へとぎ汁のごとく流れてゆかむ
バス停がいくつも生えてくるやうな雨だねきつと海へ向かふね
夏の夜のフライドポテト聞き役の四人でずつとつまんでゐたり
読みさしの詩集のやうに街があり橋をわたると改行される
声はもう焼け跡だから 仕舞つてもいいよやさしい晩年なんか
かつてここを市電が通つてゐたらしい始発の似合ふ川べりである
・『春の遠足』以後(2015- )
暗殺をのちに忌日と呼び換へて年譜にくらく梔子ひらく
笑つたはうがいいと思つて空を見る 僕は雨宿りに慣れてゐる
楽しかつた楽しかつたと言ひながらまたしても湖底に帰つてしまふ
ぼくたちはまあるいみどりのやまのてせんまんなかとほるやつゆるさない
まだ届くやうな気がして手をのばすそしてくりかへされる花冷え
倚りかかるほどにあなたは森になる僕はゆつくり生みなほされる
ゆるせ、とは生者の言葉 いちめんに贄なる花の諦観の充つ
落涙の前ぶれとして微笑めばわれにこの世のひかり眩しも
なんとなく知つてゐる葬列のごときものわが耳に来て耳より去りぬ
ミラノ風ドリアつついてしばらくは本題に入らないといふ意志
奪はれてもうばひかへしてしまつたらおまへの顔のわたしが笑ふ
卵入り納豆ごはんかき込めば箸はかなしく軽やかに鳴る
哀しみは少し遅れてやつてくる旋律はやがてヴィオラに降りて
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