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戦時に背中を預けられない人を採用することこそ、崩壊のはじまり。

Netflixの元チーフタレントオフィサーの Patty McCord の Podcastインタビュー が面白くてこちらのnoteにまとめましたが、

このPodcastは彼女の本の宣伝なわけで、それがようやく日本語版が出たので読んでみました。カルチャーデックの内容やPodcastの内容と当然かぶる部分が多かったですが、大変面白かったです。

組織を創ることを自分のミッションとしているひとりとして、おさえておくべきポイントを備忘録代わりにnoteします。人事と名乗っている人、ハイパフォーマンスの組織を創ることを生業としている方は必読の書。

この本はネットフリックス創業の歴史をふり返る本ではない。事業環境の急激な変化に柔軟に適応できる、ハイパフォーマンス文化を育むための方法を、あらゆるレベルのチームリーダー向けに説明する本である。

実際Netflixは2回も大きなPivotをしている。DVDの宅配レンタルで成功していた会社が、その成功を捨ててストリーミング配信事業へ転換、さらにはオリジナル映像作品に今年1.4兆円費やすという無類のコンテンツメーカーへ大変身。それを支えたのは、文化と組織であることは間違いないですよね。先見の妙があるCEOがトップダウンで意思決定を下しても、文化や組織がそれに絶えられないと戦略は形だけで終わります

ネットフリックスでは、規律をもって実践してほしいと経営陣が思う行動を、全員にあますところなく繰り返し伝えた。まずマネジャー全員から始めた。会社の哲学と経営陣が実践してほしいと望む行動を、一人残らずすべての人に理解してもらいたいとの強い思いから、リードはそれを説明するためのパワーポイント資料をつくり始め、私とほかの経営陣が一緒に完成させた。これが、ネットフリックスの「カルチャーデック」だ。
この資料は経営陣が従業員に求める行動であるとともに、従業員が経営陣に求めるべき行動でもあることを、はっきり説明した。カルチャーデックは一度に作成されたわけでもないし、リードと私の2人だけで作成したわけでもない。それは、経営陣全員が社内リーダーの助けを借りて、文化を形成するうちに気づいたことを書き留めたもので、命をもち、呼吸をし、成長し、変わり続けている。

こうやってできたのが有名なスライド「カルチャーデック」。あくまで社内の文化を創るために、10年以上の歳月をかけて社内向けに作ってきた、というのがポイント。結果オープンにすることによってスライドは1800万回以上閲覧されるのですが、そんな良質なコンテンツをあくまで社内向けに創っていたということ。つまりそれだけ組織作り、文化作り、社内コミュニケーションに時間と労力をかけていたということですね。さらに大切なのが、それが生きたものになるように常に変わり続けるということ。

「XをしたらYの報酬が得られる」と従業員に伝えるのは、ものごとが不変だという前提に立っている。しかし今日のビジネスに不変のものなどない。
大きくなったチームからイノベーションを起こす能力や機動力が損なわれる理由の一つは、チームの運営が大変になり、従業員に適切な行動をとらせるための制度や方針を設けるからだ。
従業員を信頼し、自分で責任をもって時間を管理させることは、彼らに力をとり戻させるために私たちがとった初期の施策の一つだった。
変化に対応できる体制を整えるうちに、会社全体に信頼感が生まれた。力を合わせれば会社を進むべき方向に進められるという信頼感、必要な変化について誤った情報を与えられないという信頼感

人事考課を廃止した背景には、この考え方がある。何より人事考課は時間がかかる。そして、時間をかけて目標設定したものは、急速に変化するビジネス環境において前提が簡単に覆る。なのであれば、そんなもの無くして従業員全員をAdults(大人として扱う)として信頼し、自由と責任を与える。変わりに徹底的に情報は共有し、各自が自主性を持って判断し、行動できるようにする。そんなロジックが根底に横たわる。

これ言うのは簡単。そんなの分かってるよ、と大きな拡大する組織の力学の中心にいるとそう言ってしまいたくなるけど、やっぱり本質ですよね。これをやりきるには相当胆力がいると容易に想像がつきますが、それをやってのける実行力にこそ価値がある

「この会社の問題」を「この会社の同僚」と解決したいと思いながら、毎日会社に来たくなる。

優秀な人材が自社で働いている状態が、どういう状態だったらベストなのか。この一文に勝るものは無い。良い。うまい。働く人のモチベーションの唯一の源泉は「誰と何をやるか」。これに尽きる。

慣習を捨て去るのは痛快だった。

ここがすごく好き。一見好き勝手やってるだけに映ってしまうけど、こういった感覚を持ってないと楽しくないです、我々組織を創る側の仕事が。地味で泥臭い、人間臭い仕事が多いですからね。

多くの企業が研修に大金をかけ、従業員に仕事から長時間離れることを強いる。こうしたお金と時間、労力の大部分が、的外れのことに費やされている。スポーツのコーチがいうように、パフォーマンスを上げる方法を学ぶには、実戦を積むのが一番だ。

人事という枠内で仕事をしていると、こうなってしまいがち。だからこそ人事であれば誰より事業を知らないといけない。企画や研修も大事だけど、本質的にはそのメンバー、チームが事業で結果を出せるか否か。人事は自分の領域内のソリューションに逃げてはいけない。

経営上層部は、事業に関する問題を従業員に知らせると不安が高まると考えがちだが、知らせない方がずっと不安を煽ることになる。

これもすごく本質だと思う。オープンになりきれない組織は、きっとここの感覚が弱い。もしくは、単純に背中を預けられない人ばかりで採用に失敗している。結局戦時に背中を預けきれないような人を採用してしまっているから、いざという時に肝心なチームプレーができない。ここが全てのスタートライン。ここでしくじると、この本で言っているようなことは全て実行しきれない。なぜながら日本で「解雇」のカードを切るのは、容易なことではないですからね。

データが説明責任の盾として用いられることに警鐘を鳴らす。主観的な判断を下す責任を回避するために、データが利用されることがあるというのだ。定量データをもとにした意思決定が好まれるのは、決定がまちがっていたことが判明したときに、データに責任を転嫁できるからでもある。

HRテックのトレンドや、データ至上主義にも警鐘を鳴らす。データに逃げると、目の前の従業員のインサイトや空気を読む努力が削がれる。

新しい人材を150人雇うより、2倍の経験を積んだハイパフォーマー 75 人を、2倍の給与で雇った方がよくないかしら?

これもすごく本質だし、異論がある人は少ないと思う。でもそれができないのは、それをやってしまうと社内に大きな給与格差が出てしまい、それを説明できないから。ただ、説明できないという時点で、適切な人事評価ができていないということの裏返しとなる。彼女はこうも説明している。

私たちは、今十分な給与をもらっていないから安く雇えそうだというだけの理由で、採用を決めることに興味はなかった。また、本気で誰かを採用したいと思えば、それに見合うだけのオファーを出せる自信があった。多くの企業がやっているように、正規分布にしたがう給与に6%の成功報酬と厳格な給与レンジといった、きっちりとした報酬体系を決めていなかったから、必要なだけの金額を自由にオファーすることができた

さらに、採用に関してはこのようにも。

もしあなたが精神を解き放って、実現するかどうかもわからない革新的なことを考えるのが好きなら、グーグルが向いていますよ。うちでは一つのことしかやりません。そして一つのプロダクトで顧客を楽しませることに全身全霊を傾けています。だからそれに情熱がかけられないのなら、ぜひグーグルへどうぞ。すばらしい会社ですよ、うちとはまったくちがうだけで
優れた人材を採用するということは、最適なマッチングを実現するということだ。ある会社のA級プレーヤーは、別の会社に行けばB級プレーヤーになるかもしれないし、その逆かもしれない。人材に高い業績を挙げさせる黄金法則を見出すために、とほうもない労力が費やされ、あの手この手の評価方法が試されているが、そんな一般原則などあるはずがない。

我々がどんな人を求めているのか。どんな人はいらないのか。他社に流されず、明確にするところから採用はスタートする。

採用とセットの、オファー金額、給与の問題に関してはこのようにもまとめている。

優秀な人材が、会社をやめない限り自分の価値に見合う金額をもらえないような制度は廃止しようと決めた。
トップレベルの給与を出せば、すばらしい才能と経験をもち、ふたり分の仕事ができ、会社の価値を大きく高められる人材を雇えるかもしれない
たしかに給与は不平や噂の格好のタネになる。でもだからこそ、透明性を高めるべきだというのだ。オープンな姿勢でいれば、なぜほかの人があれだけの給与をもらっているのかと従業員に聞かれたときも、説明することができる。金額のちがいを説明する適正な根拠をもつことによって、業績志向の文化が強化される。従業員に公開できる根拠がないという場合、なぜないのかをよく考えた方がいい。

給与情報を公開することが従業員の感情を害すると思われがちなのは、業績への貢献度よりも上司のおぼえや年功などがものをいう不条理がはびこっているせいでもある。実際の貢献度をもとに給与が支払われていれば、こんなふうに説明できる。「彼女は年俸 32 万5000ドルで、あなたの年俸に比べて不当に多いと思うかもしれないが、彼女のおかげでうちは厄介な状況から5回も抜け出すことができた。彼女の優れた決断が会社にもたらした価値を計算すると、こうなる

人事ごとは何かとブラックボックスが多い。むしろそうであることが当たり前のような常識があるが、結局「説明できないもの」を無くすことにこそ全てのカギあるように思えてならない。そして、それができるメンバーだけを採用すること

最後に、

著者のPattyがNetflixに在籍していたのは1998〜2012。今のNetflixはもっともっと前進し、進化しているだろうし、とは言え事業も前提条件も異なるのであれば、しっかり咀嚼して取り入れるべき本質的な考えは取り入れつつ(WHYの部分)、HOWやWHATはそれぞれの組織に本当に合った形で実行されるべきですね。

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