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研究開発の基礎知識

はじめに

このコンテンツでは、民間企業が研究開発を行う際の基礎知識を紹介します。下記の日本プロジェクトマネジメント協会の書籍等を主な参考資料としています。

参考書籍:研究開発を成功に導くプログラムマネジメント

研究開発の分類

OECDによる研究開発の分類

OECD(経済協力開発機構)が策定した、各国における研究開発に関するデータの収集・報告のための国際的マニュアルである「Frascati Manual 2015(フラスカティ・マニュアル2015)」によると、研究及び試験的開発とは利用可能な知識を新たに応用・考案するために行われる創造的かつ体系的な作業と説明しています。ここでの研究および試験的開発は「基礎研究」「応用研究」「試験的開発」の3つに分類されます。

出典:OECD Frascati Manual 2015

「基礎研究」は特定の応用や利用を考慮にいれないという点、「応用研究」は明確な実用的な目的又は目標に向けて行われるという点が特に重要です。

総務省統計局による研究の分類

総務省統計局による科学技術研究調査の調査票によると、研究は「基礎研究」「応用研究」「開発研究」の3つに分類されます。

出典:総務省統計局 2023年科学技術研究調査 調査票記入上の注意(企業A・B用)

「基礎研究」の成果は、一般に学術論文の形で発表されるという点、「応用研究」の成果は、一般に排他的な利用権(特許など)が認められるという点が特に重要です。
「開発研究」はOECDによる研究開発の分類における「試験的開発」に対応したものです。「開発研究」は、実社会で実際に利用可能な形にする研究という点も重要です。

ストークスによる研究の分類

アメリカの科学技術政策研究者であるドナルド・ストークス(Donald Stokes)の科学的研究分類によると、「根本原理の追求の有無」「用途の考慮の有無」という軸で4象限に分類されます。これをパスツールの4分類と呼んでいます。

出典:文部科学省 戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会 報告書(本文)

「純粋な基礎研究」の代表的な研究者は、量子力学や原子模型で有名なボーア(Niels Bohr)です。
「用途を考慮した基礎研究」の代表的な研究者は、発酵の原理や狂犬病ワクチン開発で有名なパスツール(Louis Pasteu)です。
「純粋な応用研究」の代表的な研究者は、電球や電話の発明で有名なエジソン(Thomas Edison)です。
日本の政府が推進する研究開発の取り組みでは、「用途を考慮した基礎研究」に注力しています。

研究開発と事業化

研究開発は、一般的に事業化される(社会に広く利用される)ことによって成功と見なされます。研究開発および事業化について、日本プロジェクトマネジメント協会の書籍に基づき「研究」「開発」「事業」に分類して後述します。

研究

日本プロジェクトマネジメント協会の書籍によると、研究とは新たな知見を明らかにすることと定義されています。研究は「基礎研究」「応用研究」の2つに分類され、「基礎研究」はさらに「理論研究」「実験研究」に分類されます。

出典:研究開発を成功に導くプログラムマネジメント|P.3

開発

日本プロジェクトマネジメント協会の書籍によると、開発とは新しい技術を現実化・実用化することと定義されています。開発は「製品開発」「サービス開発」の2つに分類され、「製品開発」はさらに「システム開発」「部品開発」に分類されます。「システム開発」はさらに「システム設計」「実証試験」に分類されます。

出典:研究開発を成功に導くプログラムマネジメント|P.4

ここでの「開発」は、OECDによる研究開発の分類における「試験的開発」や、総務省統計局による研究の分類における「開発研究」とほぼ対応しています。これらの情報を総合すると、「開発」とは、実社会で実際に利用可能な形にすることと説明できます。

事業

日本プロジェクトマネジメント協会の書籍によると、事業とは生産・営利など一定の目的を持って、継続的に組織・会社・商店などを経営することと定義されています。

一般的には民間企業が商品やサービスの生産、販売、およびサービス提供など、利益を生み出すための活動全般を指すことが多いようです。
一方で、利益を追求するだけでなく社会的な課題解決や目的達成のための事業活動も含まれます。社会的企業や非営利組織団体の事業がこれにあたります。

また、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)では、省エネルギー・環境分野や産業技術分野などの研究開発事業を推進していますが、これらはある目的を持った研究開発を継続的に運営する事業を行っていると解釈できます。

出典:研究開発を成功に導くプログラムマネジメント|P.5

一般的な民間企業が事業を拡大するパターンとしては、製品やサービスを徐々に立ち上げて市場が形成されてきたら製品やサービスを拡大して売上を伸ばし、M&A(Mergers and Acquisitions:合併、買収)などを手段として活用しながら事業規模拡大を図ることが多いです。

研究/開発/事業のまとめ

「研究」は大別すると「基礎研究」「応用研究」に分類されます。「研究」の延長としての「開発」もあり、「研究」と「開発」は一部で重なる部分があることがわかります。
「開発」は大別すると「製品開発」や「サービス開発」があり、特に「製品開発」では「研究」の成果物を活用したり、「研究」の延長として「開発」をすることがあります。
また、「開発」は実社会で実際に利用可能な状態にすることが目的になります。言い換えれば「開発」は実用化することが目的であると説明できます。

出典:研究開発を成功に導くプログラムマネジメント|P.12

「研究」および「開発」の結果、実用化できる状態となったものは「事業」として社会に実装されていきます。「研究」「開発」の結果や成果は「アウトプット」と呼ばれ、「事業」によって社会にもたらされる価値を「アウトカム」と呼びます。
研究開発を開始する際には、実用化可能な状態である「製品コンセプト」を定めておく必要があります。「製品コンセプト」は、技術や研究開発の成果を起点に検討するシーズオリエンテッドと、社会やユーザの課題解決や要求を起点に検討するニーズオリエンテッドを組み合わせて検討します。
「製品コンセプト」は、シーズオリエンテッドとニーズオリエンテッドの片方だけでは決まらないことが多いので、必ずニーズとシーズの両方を見据えて、仮定や仮説を用いて定めることになります。



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