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【書評】『無敵の天才たち スティーブ・ジョブズが駆け抜けたシリコンバレーの歴史的瞬間』(Doug Menuez・著、山形 浩生・翻訳 翔泳社)

 これは夢見る大人のための絵本だ。

http://books.rakuten.co.jp/rb/12928932/
http://www.amazon.co.jp/dp/4798138576

 仕事や、技術や、成功に夢を見ない人が読んでも何も感じない。はっきりいって奇跡の結晶とも言える本なのだが、この同時代性をどう受け止めるべきかをまず把握しておくためにも巻末の山形浩生の文章を読んでから本編に入ろう。

 この本の欠点を先に挙げておく。批判的精神を持って読んでいたとしても、吸い込まれてはいけない。これは偉人の伝記に近い性質を持っている。リンドバーグの伝記を読んでも冒険家としての成功を約束されたわけではなく、やくざ映画を観たからといって命を投げ出す子分がついてくるわけでもない。

 あくまで指し示しているのは写真から伝えられる、同じ時代に同じ場所でこれだけの人たちがそこで活躍してきて現在私たちの生活があるという事実の重みだけだ。その意味では、理解できない人がいたとしても何一つ不思議は無い。

 この本の良い点はたくさんある。まず、なんつーか楽しい。まだ名を成し遂げる前の、あるいは苦悩の表情が、間近に、赤裸々に写真に映し出されている。何もかもが、微笑ましい。ああ、いいなあ、と思う。先駆者の、掘り出された姿そのもの。

 チラッと観るだけではすぐ終わってしまう本であって、やはり何度かテーマを持って読み返しながら自分の心に焼き付けたり、もしもあれがこうだったらみたいなifを考えるときのイメージ元にしたり、いまここが次世代の本になるような代物であるならば自分は何を表現しようとするだろうという妄想だったり、写真だからこそ語り出せる網膜にひっかかる別の何かがこの本には詰まっている。

 言っておくが、何かを得ようという本ではない。バイブルにするような代物でもない。ただただこの人たちが手に届くところで同時代に生み出したモノがいまの私たちの世界を形作っているのだ、ということを思い返すための福音なんだろう。

 その意味で、人を選ぶ。この本のタイトルや、掲載されている人物を見て、少しでも「おっ」と思った人は、オサレな装丁の中に潜む深い意味を思い知るといい。

 私も三度ほど読み終わった後で、最近ちょっと夢を見ることが足りてないなと思い返した。そういう本。全員に、ではないけど、お奨めする本です。

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