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名もなき、バス

ただ、自由に飛んでいたかった。
青い空を飛ぶ鳥のように。
なんのしがらみもなく、誰の顔色も気にせず、自分の思いのままに。

自由に。

だけど、自由って何?
自由になれば私は幸せ?
わからない。

じゃ、私は何をしたいの?

でも、もうどうでもいいっか。
もう、私と言う存在はこの世から消え去ったのだから。

 そんな事を考えながらバスはただ暗闇を走り続ける。

「あなたのお友達もその後、色々と大変でしたよ。自分が誘って自殺したのに自分だけ生き残り、あなたの両親から相当責められ、罵られましたから」
 運転手のその言葉に、急に現実に引き戻されたかのような、憎しみの怒りが込み上げてきた。
 萌を責めた?
自分達の行いを棚にあげて?
何アイツら。
相変わらず人ばかり責めて自分達を正当化する腐り切った親の皮を被った屑のくせに。
 怒りでどうにかなりそうな時に運転手はミラーで一瞬こちらを見て私の表情を確認してから口を開いた。
「でもそれを知ったあなたのお姉さんがあなたの日記をご両親に叩きつけて、それを見た両親は自分達に非があったと認めて泣き崩れています。そこからちゃんとお友達さんに謝罪をし、あなたのお姉さんがご両親の手を取り、共に歩見出した、きっかけでした」
 運転手の言葉に怒りは収まり、黙ったまま聞いている。
「お友達さんは当初は自殺未遂を何度も繰り返して結局、病院で拘束されて生きる気力が無くなっていました。そんな時にあなたの日記をお姉さんが持ってきたことをキッカケにお友達さんは生きる気力を取り戻し、自らの足で立ち上がりカウンセラーとしてたくさんの悩みを抱えた人に寄り添い、その人達に光を与えています」
 ああ、萌はやっぱりすごい子だった。あの子の笑顔に人間性は私ですら変えた。

 人生が楽しいって、おもえた。

「お友達さんをいじめてた人達はあなたがある程度調べてた証拠とプラスに、あなたのお姉さんがさらにいじめてた証拠を粘り強く探して見つけだし、しっかり社会的お仕置きをされてそれ以降はいじめもなくなりました。いや〜、あなたのお姉さん、敵にまわしたくないタイプですね」
 私は姉の意外な行動に驚いたものの、確かに幼い時、幼稚園で男の子にからかわれて泣いてる私の前に立ちはかり、守ってくれた事を思いだした。

 そっか、忘れてただけだ。
 大きくなって、ただすれ違いの日々で本来の姉の頼もしい姿を忘れ、姉と言う人物を勝手に決めつけてただけだったんだ。
 話をすれば良かったなぁ。 

 なんか、色々と後悔が出てきたけど、それも人生か。
 少し笑みが出た私を運転手はミラー越しに確認をした。
 そして、私の日記の最後の文章が前方に映り出された。

 萌と出会って、私の真っ暗だった人生に再び優しい光を照らし、私を笑顔にしてくれて私は幸せだった。
 萌には生きててほしい。
 醜くて嫌な事ばかりの世の中。まさに生きにくいけど、萌の笑顔は周りをも幸せに出来る力があるって、私が身をもって知ってるから。
 もし萌がまた苦しんだり悩んでいるなら上を見上げて。
 青い空から鳥として萌を見守ってるから、決して独りじゃない、私は常に萌の味方だから。

 私の日記が終わった。
 萌がこの日記を抱えてわんわん泣いている。
 日記を見つけ、読んだ姉も泣いていた。
 両親も。

 私はただ青い空を自由に飛ぶ鳥のようになりたかった。
 でも自由って結局なんだろ?
 私にはわからない。
 ただ、大切な人達と一緒にたわいもなく日常を笑いながら過ごしたかった。
 私がもっと別の形で努力すれば変わってたのかもしれない。

 自分がした決断に少し後悔あり。

 でもそれで周りが笑顔を取り戻せたなら、私は悔いはなし。
 
 安堵の笑みを浮かべながら窓に頭を寄せ眠りについた。 
 バスに暖かい光が差し込み、朝陽が辺りを照らした。

 バスは停留所に停まった。
「ご乗車、ありがとうございました」
 バスの扉は開き、そして誰の姿もないまま再びドアが閉まり、走りだした。

#小説 、#姉妹、#友達、#自殺

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