りんご農家を継がなかった落語家の農業体験記【師匠に贈る初めてのりんご】
「りんごは贈らなくていいからな。」
師匠、春風亭昇太に入門して、はじめに言われた言葉である。
僕の実家はりんご農家である。
改めて書くが、りんごのりんで昇りんという。
師匠は全国の知り合いからいろんなものをいただくのだが、その中にりんごも入っている。しかも師匠は当時独身で、ひとりでたくさんは食べきれないということで、りんごは送らなくていいとなったのだ。
そんな師匠から、さまざまな言葉を今みでにいただいてきた。
その中で師匠がよく言う言葉がある。
「独演会はやっとけよ」
自分が今、どれくらいの人を呼ぶことができるのかの指針にもなるし、そのお客さんをたった1人で満足させなければならない。力をつけるためにもやっておいたほうがいいとのことだった。
その言葉もあり、ぼくは今年都内で初めて独演会をやることにした。
見ての通り。
りんごに完全におもきを置いた写真である。
裏もある。
もう、りんご持っちゃってます。
こんだけ、りんごを全面に出しているわけだ。
実家のりんご農家を継いでないくせに。
この会では、りんごの販売も行う予定だ。
もうここまできて売らない理由なんてない。今までも売ってきたし。
ちなみにりんごがどのようにできるのか?
みなさんは知らないことだろう。
僕も細かいところまでは答えられる自信はないが、今年はけっこう山形に帰る機会も多く、いろいろと手伝えた。
その部分だけでもお伝えしておこうと思う。
春。
りんごの花が咲く。
ご覧の通り、きれいな花である。
野菜や果物の花というのは実はきれいで、この野菜がこんなきれいな花を咲かせるんだというのが、けっこうある。だが、例外はある。
それは、みょうがだ。
なんとも言えない。
なんかぬめ〜っとしているのだ。
りんごの花の咲き終わりから仕事がはじまる。咲き終わりの花を摘まなければならない。そうしないと、養分が花の方にいってしまうそうだ。
しばらくすると実ができる。
花が咲いていたところにこうして実がなるなだ。一つのところからいくつか分かれている。このままだと、養分が分かれてしまうとのことで、摘果作業を行う。一番大きい身を残して、あとは切り落としていくのだ。
こうしてみると、罪悪感がある。
さて、そこからどんどん実が大きくなり、赤く染まっていく。その間も、消毒をおこなう。とても繊細なのだ。
また、日光でりんごは赤く染まる。そのため、葉が多いと、葉っぱの形でそこだけ青く残ってしまうことがある。そこで、葉を軽くとったり、玉まわしという作業がある。
どうしても、日光が当たる場所とそうではない場所がでてくるので、りんごをくるくる回し、青い部分を日光が当たりやすい向きに変えてやるのだ。
こういう地道で細かい作業が美味しいりんごに繋がるわけだ。
ここで、独演会で販売するりんごを紹介しよう。日光で染まるのを利用して、昇りんと書いた黒い文字のシールを貼る。そこだけ昇りんと青く字が残るのだ。
これから、収穫の時期になるわけだが、このようになる。
手前味噌だが、評判がいい。
去年僕は結婚した。結婚式には師匠や一門の皆さんに出席していただき、出席者にはその昇りんりんごを配ったのだ。それを師匠が持ち帰り、おかみさんに
「昇りんの結婚式に行って、りんごもらったよ。あいつ実家がりんご農家なんだよ。」
と話したらしい。すると、
「え、そうなんだ。私りんご好きなのに。送ってくれないんだね。」
師匠からすぐに連絡がきた。
「今すぐ贈れ」
今まで贈れることができなかった父と僕はもちろん喜んだ。
おかみさんのために、、、
というか師匠のために、すぐにりんごを贈らせていただいた。
しばらくすると、実家におかみさんからのお礼状が届いたとのこと。さらに師匠から、
「うちの奥さんが、今まで食べたりんごで一番美味しかったって言ってたよ」
なんということだろう。
師匠に初めて褒められた。
そりゃ、落語のことじゃないけど。
というか、俺のことでもないけど。
もちろん、リップサービスもあるだろうが、そんなのは関係ないのだ。感謝しかない。
あ
り
が
と
う
ご
ざ
い
ま
す
!
と、お伝えした。
また、りんごのために落語会に来て、落語はついでの人お客さんだっているのだ。
もはや、りんごのいや、父のファンである。
今度の独演会で販売。
てなわけで、
昇りんりんご、是非。
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