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空也上人

たまに実家に帰ると、驚くほど家の様子が変わっていることがある。居間に新しいソファーがあったり、母がハワイアンを始めて陽気なスカートが干してあったりとさまざまだ。
その中で最近特に驚いたのが、近所にある観音様の管理をするようになっていたことだ。話を聞くと、村の中で管理しているらしく、その担当になったとのこと。仕事内容は、毎日観音様の扉を開け、また御朱印を求められたら、参拝客の方がうちへやってきてそれを書くのだ。
夕方になると、母は「観音様の扉を閉めてくる」と一言いって閉めに行く。まるで裏口を閉めに行くような感覚でいつのまにか日常と化しているのが驚きだ。
村には観音様の他に神社があり、小さい頃はよくそこで鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、境内のまわりで遊んだものだ。また祭りや行事が神社や観音様で行われ、村とは密接な関係で、村の人々にとっては誰もが思い出の場所でもあるのだ。実家に帰るたびに神社と観音様には帰るたびにお参りに行ってしまう。特になにか願うわけでもなく、ただ手を合わせて帰るのだけなのだが、つい寄ってしまう。そういう人の営みや、思い出も含め広く言えば信仰ということにたるのだろうか。

『祈りたくなる』

先日、東京国立博物館で行われた特別展「空也上人と六波羅蜜寺」へ行ってきた。そこの目玉とされているものがこの空也上人立像である。

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【東京国立博物館ホームページより】

この像を見たときの感覚が『祈りたくなる』であった。なんとも言い表せないが、この言葉が一番しっくりくるのだ。細部まで丁寧なのはもちろんのこと、まず目がいくのが、口元からでているこれ。

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ホームページのブログの文章を抜粋すると、

人びとを救うために行脚しながら、南無阿弥陀仏の念仏を唱えている様が表され、
その念仏の一語一語がほとけ様となって、口の中から現れて出て来ているという奇跡を、立体として具現化しています。 

単純にデザインとして、インパクトがあり、かっこいい。まずこの宣伝を見た時の印象がそれで、生で見てみたいと思ったのだ。実際に目にすると、なんとも言い表せない表情で、角度によって見え方が変わり、何分でも見ていられるのだ。それを眺めていると、なんとも不思議な気分になる。それだけの力を持つこの空也上人立像。一体誰が作ったのかと言うと、大仏師運慶の四男、康勝(こうしょう)という人で、これが作った年齢が20歳そこそこらしい。
約800年前に作ったの像が今でも『祈りたくなる』と、そういう気持ちにさせるものを20歳そこそこの男が作ったのだ。これはたまらん。なんだか、ちょっと落ち込む。

この間、ラジオを聴いていると、31歳で有名アーティストはどんな曲を出しているかという企画をやっていた。数々の有名アーティストが様々な曲を出していたのだが、その中で福山雅治が31歳の時には『桜坂』をリリースしていたのだ。そして僕は今年31歳。なにも僕は成し遂げていない。やはりこれもちょっと落ち込む。
そんな話を兄弟子の昇市兄さんに話していると、

「俺はウサイン・ボルトと同い年の段階で全部諦めてるよ。」


素敵な励ましだ。たしかに人類最速のやつと比べて嫉妬してたら人生たまらない。
それでもなお、なにか成し遂げたいという考えがちらつく31歳。地道にいきましょう。

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