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被服に付された【BOY LONDON】

判決   :令和2(ワ)23616号 商標権侵害損害賠償請求事件
      令和2(ワ)23627号 商標権侵害行為差止請求事件
言い渡し日:令和4年12月8日
裁判所  :東京地方裁判所
※商標権・判示事項関連部分の概要。事件の詳細は判決を確認ください。
※サムネイル内使用の画像を含む判決関連画像は判決別紙より。
 

【原告(権利者)】

【原告(権利者)】

アングロフランチャイズリミテッド(英国)
●英国のロンドンに本社を置く民間有限会社であり、「ボーイロンドン」のブランド名による衣料品等の製造販売を主な業としている。
●商標権
登録商標:
①第4169226号(平成10年7月24日登録)
②第5704331号(平成26年9月26日登録)
③第5802810号(平成27年10月30日登録)

第25類 「履物、運動用特殊ブーツ、被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、仮装用衣服、運動用特殊衣服」 他

【被告(使用者)】

PAGE-OVER株式会社
●インターネット等による通信販売及び日用雑貨品等の販売等を業とする日本の株式会社。
●遅くとも平成31年2月頃から、「BOY LONDON 日本公式通販サイト」との名称でウェブサイトを開設し、使用製品を販売。
●使用製品:フーディー、ティーシャツ、スウェットシャツ、クロップトップ、ジャケット、ブルゾン、等
●使用標章

【争いない事実】

●登録商標①~③と使用標章①~③は同一又は類似
●使用商品は、原告商標の指定商品に含まれる

●本件訴訟提起に先立ち、使用者に対し、
①被告標章を被告商品又はその包装に付してはならない
②当該商品等を譲渡等してはならない
③被告標章を付した製品を宣伝用ウェブサイトに販売のために展示してはならない
④広告等に被告標章を付して電磁的方法により提供してはならない
⑤「ANGLOFRANCHISE」の商号を使用し、同商号を使用した商品を譲渡等してはならない
ことを求める仮処分命令の申立てをし、申立てを認容する決定あり。
 

※侵害認めてる?・・・終わり?

●裁判所は、本件を民事調停に付し、調停に代わる決定(差止請求及び廃棄請求に関する部分を認容し、損害賠償請求に関する部分を350万円の限度で認容)をしたところ、使用者は異議を申し立てなかったものの、商標権者が異議を申し立て、同決定はその効力を喪失。

【主な争点】

(1)不正競争行為の成否 (省略)
(2)サブライセンスの成否 
(3)並行輸入の成否
(4)商標法38条2項の適用の可否
(5)損害額
(6)差止めの必要性

PART1:侵害成立する?

【当事者の主張】

<サブライセンスの成否>※経緯把握のために。
使用者:
●1992年、商標権者は、米国において「BOY LONDON」を商標登録。1994年にBLUS社に、1998年にアングロフランチャイズ社(米国:AFUSA社)に譲渡。
●1999年、AFUSA社が全世界的な「ボーイロンドン」商標・事業権を買収したとの報道あり。
●1990年代後半、ボーイロンドンインターナショナル社(BLI社)がAFUSA社を買収。つまり、全世界の「BOY LONDON」に関する商品販売権は、BLI社が獲得!
●BLI社は米国・モンゴル・ベトナムで「BOY LONDON」の登録商標を所有。BLT社はジャアングループ(JG)に「BOY LONDON」の商品化ライセンス契約。使用者はJGと「BOY LONDON」商品の販売及び商標の使用についてサブライセンス契約。
●商標権者は1993年から休眠、2020年でも1名会社。実質的な代表交代を契機に動き出し、登録商標②③を取得して、使用者に権利行使!
商標権者:
●AFUSA社やBLI社に対して、登録商標も全世界に関する商品販売権も譲渡していない

<並行輸入の成否>
真正商品の並行輸入に該当するためには、輸入元の外国における商標権者と日本の商標権者が同一又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得る関係にあることが必須の前提条件
使用者:
登録商標の真の権利者もBLI社であるから、同一の出所といえる。BLI社は、商品の品質管理を直接的に行い得る立場にあり、その商標が保証する品質と原告商標が保証する品質には実質的に差異がないといえる。
商標権者:
日本の権利者は、商標権者自身であり、BLI社とは経済的に同一人と同視し得るような関係にもない。商標権者は、米国で製造される商品の品質管理を行うことはできない。 

【裁判所の判断】

<サブライセンスの成否>
●商標権者は、自身が所有していた米国での商標をBLUS社に譲渡したものの、飽くまで米国における商標の譲渡にとどまるものであり、全世界における商品販売権を譲渡したとの主張を裏付ける契約書等の客観的証拠はない。報道の事実は認められるものの、報道を客観的に裏付ける譲渡契約書、譲渡代金の振込記録その他の客観的証拠が提出されていない。
●全世界の商品販売権を取得した時期やAFUSA社の所有者又は経営者につき、報道や供述と使用者の主張が整合していない。
●上記の報道の一事によって、AFUSA社が、日本を含む全世界的な商標権を取得したことを推認するに足りず、その他の本件証拠を精査しても、上記事実を認めるに足りない

 <並行輸入の成否>
●日本における商標権者がBLI社であることを前提として、要件を満たすと主張するものであるが、上記同様、その理由はない。 

PART2:損害額はいくら?差止め必要?

【当事者の主張】

<商標法38条2項>
※38条2項「商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。」 

商標権者:
●独占的通常使用権者は、登録商標の使用による市場利益を独占し得る地位にあることにおいて商標権者や専用使用権者と異ならないから、独占的通常使用権の侵害による損害の賠償請求の場合においても、類推適用し得る
●商標権者は、2013年に設立されたボーイロンドン(HK)社(BLHK社)の子会社であり、BLHK社に登録商標の使用を許諾し、日本への「BOY LONDON」関連商品の販売は、BLHK社が担ってきた。BLHK社は日本における独占的通常使用権者
●BLHK社は独占的通常使用権者として損害賠償請求権を商標権者に譲渡。
●上記請求権と選択的に、商標権者としての商標法38条2項に基づく損害賠償も請求
使用者:
独占的通常使用権者の損害についてこれらの規定を類推適用することはできない
●そもそもBLHK社は独占的通常使用権者ではない。従前は、他社が商品販売を行っていると主張していたし、契約書もなく、ライセンス料も一切受けていない。
休眠会社であり、侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等、損害の発生の基礎となる事情は存在しないため、商標権者としても38条2項の適用はない。

<損害額>
商標権者:
●38条2項に基づく損害額
・店舗(心斎橋店、ECモール及びラフォーレ原宿)における2019年12月3日までの使用製品の販売粗利は*****円。
・上記以降販売していないと言っていたが、販売していた証拠あり。推計利益*****円
・公式ストアの売上は店舗の実績から考えれば******円はくだらない。×使用者の平均粗利率49.5%。
・加えて、弁護士費用は200万円をくだらない。
●38条3項に基づく損害額

※38条3項「商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」

・使用商品であれば、通常、売上高の約31%がロイヤルティ額。使用料率は、販売額の20%を下回らないというべきであり、仮処分決定後の販売については、販売額の100%をもって使用料相当額とすべき。
・計算すると1600万円!!
・加えて、弁護士費用は160万円をくだらない。
使用者:
●38条2項に基づく損害額
・12月3日に商品の販売は停止。
・使用製品の限界利益は、粗利から直接経費を差し引いた*****円である。
・①販売態様等の相違(店舗vsネット)、②使用者が使用製品の広告宣伝、③商標権者はライセンス料を受け取っていないことからすれば、使用製品の販売によって原告の利益が減少したという関係になく、損害の推定は、少なくとも99%は覆滅されるべき。
※(商標権者の反論)①全世界的なブランドである「BOY LONDON」について、販売店舗の地理的な商圏は無関係、②使用者の広告宣伝は、通常行われる域を出ていない、③BLHKから損害賠償請求権を譲り受けており、ライセンス料を受け取っているか否かは、推定の覆滅に影響しない。
●38条3項に基づく損害額
被服の分野における商標のロイヤルティ料率は、平均4.9%であり、最小値は0.5%であるから、使用標章の使用料率は、多くとも0.5%。 

<差止めの必要性>
商標権者:
仮処分決定後も、店舗又はウェブサイトにおいて被告製品の販売を継続していたから、今後も販売を再開するおそれが高い
使用者:
標章の使用及び製品の販売をやめている。被告製品を販売していた店舗に係る契約は解約し、JGとの関係が悪化し、被告製品を仕入れることが不可能。
調停に代わる決定に対し、異議を申し立てておらず、製品の販売等を再開する意思がないことは明らか

【裁判所の判断】

<商標法38条2項>
●証拠によれば、BLHK社が登録商標を付した商品を日本向けに販売しているものの、他社も、日本向けに「BOY LONDON」商品の販売を行っているため、BLHK社は、独占的通常使用権者には当たらない。よって、BLHK社が独占的通常使用権者であることを前提に、同社に商標法38条2項が類推適用できるという商標権者の主張は、その前提を欠く。
自身でBLHK社が独占的通常使用権者である旨主張しているとおり、商標権者は、登録商標を付した商品を日本において販売していないから、商標法38条2項を適用する前提を欠く。

<損害額>
(1)商標法38条3項に基づく損害額
●被告製品の売上高  証拠及び弁論の全趣旨によれば、
・本件仮処分決定前の使用製品の売上高は、*****円。
・本件仮処分決定後も、使用製品の販売を続けたところ、同決定後の売上高は、*****円と認めるのが相当。
・日本公式ストアの売上高は*****円であり、ECモールの売上高に含まれる。
●実施料率  証拠及び弁論の全趣旨によれば、
一般的な被服のロイヤルティ料率は、平均が4.9%、最大で7.5%
実施料率は、仮処分決定前は10%の限度で、決定後は、決定後も被告製品の販売を続けたという侵害態様の悪質性を考慮して20%の限度で認めるのが相当。
・商標権者が主張する他社と締結したライセンス契約は、年間の最低ロイヤルティ料5万6000米ドル、最低使用料超過部分のロイヤルティ料率を7%と定めるものであるから、全体のロイヤルティ料率は、売上高によって左右されるものであり、売上高の規模を異にする本件に適切ではない。
●(まとめ)商標法38条3項による損害額は、本件仮処分決定前の売上高である****円に使用料率10%を乗じた****円と、決定後の売上高である*****円に使用料率20%を乗じた****円との合計額である292万1388円と算定される。
●本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用相当損害額は、30万円と認めるのが相当である。そうすると、損害額は、合計322万1388円と認められる。

<差止めの必要性>
・店舗での販売をせずとも、ウェブサイトでの販売は可能かつ容易である上、使用者が、仮処分決定後も販売を続けていた事情その他に本件に現れた諸事情を踏まえると、使用者は決定に対し異議を申し立てずこれを真摯に受け入れる姿勢を示し侵害態様の悪質性が相当程度低減している事情を十分に斟酌しても、なお差止めの必要性があるものと認めるのが相当。 

【結論】
・使用者は、商標権者に対し、322万1388円及びこれに対する令和2年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
・使用者は、使用標章を、使用商品又はその包装に付してはならない。また、使用標章を付した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供してはならない。また、販売のために展示してはならない。商品に関する広告、価格を内容とする情報に、使用標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
・使用者は、使用標章を付した商品を廃棄せよ。
・訴訟費用及び調停費用は、これを11分し、その7を商標権者の負担とし、その余は使用権者の負担とする。

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