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あのコの友達が好きだった

恋には後悔がつきものである。

後悔をしないためにはどうしたら良いかと問うのであれば、自分の直感に従うべきだ。他人が何と言おうが、自分が好きと思った感覚がきっと正しい。

自分が選ぶべき相手はあの人だったのだという若すぎた日の後悔の物語がここにある。

[合コンでの出会い]

出会いのきっかけは始めて参加した合コンであった。

社会人となり地方から東京に出てきた19歳の時の事となる。合コンを企画したのは当時働いていた会社内で知りあった友人の誘いであった。

そこで紹介された女性メンバーも同じ会社の社員である。当時就職した会社は大企業であり、同じ敷地内で仕事をしているとは云っても、このような機会がなければ一生知り合う事はなかったかもしれない。

5対5位の飲み会で全員が同い年であったと記憶しているがそのうちの2人、ひとみとあさみとはその後も複数人で遊びに行ったり、飲みに行ったりという仲になった。

交流を深めていくうちに僕はひとみとあさみの両者に好感を抱くようになった。

ひとみは整った顔立ちで口数はそれほど多くない大人しい雰囲気の女性。あさみは美人といえる容姿ではなかったものの、明るくて話しやすい女性であり、自分との相性の良さを感じた。

ひとみとあさみは友達同士の仲である。いくら2人に好感を持ったとしても両方にアプローチするのはさすがに節操がなさすぎる。

僕は心の奥底にある本音を問われたならば、間違いなくあさみのほうが好きであった。だが本心とは逆の行動をとってしまった自分がそこにいた。

単純明解な答えだが僕は容姿で好きな人を選んでしまったという事だ。それが男性の性的本能と云われたらそれまでかもしれない。だが理由はそれだけではなかったと思う。

女性とお付き合いするなら綺麗な人を横にして歩きたい。そんな気持ちが心の奥底に間違いなくあった。つまりこの僕は自己顕示力の固まり。別の言い方をするならば承認欲求が強すぎる男という事。常に周囲の評価を意識しており、認めて欲しいと考えている。自分に対する自信のなさの表れであろう。

そんな半端な気持ちは見透かされていたのかもしれない。ひとみをデートに誘ったところでまったく反応は芳しくなく、ひとみとのおつき合いは諦めざる得なかった。その後、気まずさからか友人同士の飲み会にひとみが顔を出す事は無かった。誰もその事について口を出す人は居なかったものの、僕はいつも心の奥のほうで後味の悪さを感じていた。

[言えなかった好きのひと言]

ひとみとは会えなくなったが、あさみとは友人を通して飲みに行ったり、遊びに行ったりという交流は定期的に続いていた。

あさみはひとみと僕の経緯はおそらくは知っていたと思うのだが、まったく口にする事も態度に表す事もなく、いつも明るく接してくれた。そんなあさみにはいつも元気付けられ、以前にも増して惹かれる思いが強くなっていた。

僕はだんだんとよりあさみを好きになっていたのと同時に、あさみの僕に対する接し方の変化も感ずるようになってきた。それは決して悪い反応ではない。言葉には出さないが、僕に好意を寄せていると思わせる態度が幾度となく感じられた。僕は今まで感じた事がない始めての感覚に戸惑いを隠せなかった。

そしてある日の事、僕にとっては決定的なチャンスが訪れた。この日は僕と友人とあさみとあさみの1年年上の女性先輩と4人で飲み会を行った。とは言っても、前日に別の飲み会があり、二日酔いをした僕はこの日はアルコールはご遠慮していた。

しかしながら宴は盛り上がり、二次会ではカラオケボックスになだれ込み、気がついたら終電を過ぎる時間となってしまった。

あさみ以外のメンバーは歩いて帰れる距離に自宅があったのだが、あさみだけは電車での移動が必要で、お酒を飲んでいなかった僕が車であさみを送っていくという流れになったのである。

思わぬ展開で二人きりというシチュエーションとなった事で、緊張のためぎこちない会話になってしまった記憶がある。よって細かい内容はよく覚えいない。ただ、デートに誘うチャンスはここしかないと頭の中でぐるぐると思いを巡らせていた事だけは鮮明に覚えている。

そして、あさみの自宅近くに車は到着したのだが、デートの誘いを切り出そうとしたその時、ひとみとの経緯が頭の中をよぎってしまったのである。

ひとみが駄目だったから友達の私に来るわけ?と思われる事を瞬間的に恐れてしまったのだ。

今思えばあさみはそんな事は気にしていなかった可能性が高い。その後も変わらず友達としての付き合いを続けてくれたのだから。

そんな事で躊躇してしまった僕は結局、切り出すタイミングを逃してしまったのである。

チャンスの女神は前髪しかないって言葉は本当だと思う。一瞬の躊躇で前髪を掴み損ねた女神はもう戻ってこないのだ。

その後もきっかけを掴めぬまま時は過ぎ、やがて僕は転勤の辞令によりこの地を離れることになった。

あの時、あさみを誘ったらどのような結果が待っていたのかは分からない。例えうまくいかなかったとしても、その傷はその時代の海の底に沈めていく事ができる。

その証拠にひとみに振られた事は今となっては思い出す事は殆どない。

だが気持ちを伝えられなかった後悔は何十年経っても背負っていく事になる。おそらくは墓場まで背負っていくものと覚悟している。

願いがひとつだけ叶うならもう一度戻りたい。

19の春の日へ

-終わり-





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