流血

全く気付かなかった。
通りすがる人々は懐疑そうに私の姿を見ていたが、
誰一人、右手から流血していることを教えてくれなかった。

 
 

私自身、変な視線を感じたものの傾奇者として、
数奇の目で見られていたから、人々の目など気にすることは
無駄な気がして、一切気にしなかった。

 
 

気になりだしたのは、水面に映る自分を見てからだ。
妙に顔が青白い。疲れている感じはあるが、気のせいだろう。
ほどなくしてまた歩き始めた。
やはり、さっきの感覚は気のせいではないような気がしてきた。
ふと皆が目を見やると右腕の傷口から流血しているではないか。

 
 

いつからケガしたのか分からない。記憶もない。
ただ、あの傷口は以前の戦いで敵に傷を負わされてしまった箇所だ。
以前というがもう半年ほどは経つのに…

 
 

傷口から流れ出る血を見ていると、自分の弱さが出てくる。
人から言われた軽蔑の言葉。それに打ち勝てず泣いている自分。
愛したい人に愛してると伝えられなかった後悔。
傷がつくずっと前に起きた出来事なのに、心が弱っているからか
余計なことを思い出してしまった。

 
 

だけど、今の俺には関係ない。
生きているだけでも十分。
例えこのまま血が止まらなくて死んでもかまわない。

 
 

どんなことがあっても生き続けていればよいことがある。
自分になしえたいことがある。
また愛してくれる人や愛したい人に出会えていない。
楽しみたいこともできていない。

 
 

血を流したままでも構わない。
血を流した数、流れ続けた時間はきっと強さに変わる。
傷口は生き恥なんかじゃない。
誇りとして堂々と曝して生きてやるさ。
生きた「証」として。


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