[memo]社会疫学

社会的要因がどれくらい健康に影響しているのかについて、疫学的なアプローチから考える学問が社会疫学。

「健康」は、遺伝子や生活習慣など生物学的要因だけで決まるわけではなく、「社会的要因」も重要である。「健康の社会的決定要因」としては、個人の所得や家族状況、友人・知人とのつながり(社会的ネットワーク)などの「個人の社会・経済要因」、あるいは国の政策や職場・コミュニティーでの人のつながりの豊かさ(ソーシャル・キャピタル)を含む「環境としての社会要因」がある。

健康の社会的決定要因を調べてみると想像以上に大きな健康格差をもたらしていることは少なくない。例えば学歴など。低学歴であることが多くの疾患発症に影響しているが、学歴は介入不可能である。でるなら、介入可能なものはあるか?介入に効果はあるのか? その探求こそが社会疫学の核心である。

JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)プロジェクトは、健康長寿社会をめざした予防政策の科学的な基盤づくりを目的とした研究プロジェクト。「健康の社会的決定要因」の重要性を示し、「健康格差」の実態を明らかにすることで、介護予防戦略見直しの方向性を見出すことを目的としている。
https://www.jages.net/about_jages/

JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)の主な研究成果
https://www.jages.net/kenkyuseika/paper_eng/

■食料品店の主観的利用率の低下は、死亡率の増加と有意に関連
Int J Behav Nutr Phys Act. 2018 Oct 19;15(1):101. PMID: 30340494

■社会的交流はうつ病を予防する上で重要であり、生活習慣の中で社会的交流を促進し、高齢者にケアを提供できる体制を確立することは、うつ病を予防するための社会的政策として有益かもしれない。
Aging Ment Health. 2018 Nov 8:1-10. PMID: 30406670

コミュニティレベルでのスポーツグループ参加を促進することは、高齢者のうつ病の予防のための人口ベースの戦略として効果的であり得る
Med Sci Sports Exerc. 2018 Jun;50(6):1199-1205. PMID: 29298218
週に2回の運動で高齢者のうつ病を予防できるかもしれない。
Sci Rep. 2018 Jul 25;8(1):11224. PMID: 30046117

■要介護認定を受けていない高齢者約3万人あまりを対象にした2003年調査で、低所得層や低学歴層で、高所得・学歴層に比べ、要介護リスク割合が高い(近藤克則: 検証『健康格差社会』-介護予防に向けた社会疫学的大規模調査. 医学書院, 2007)

■認知症と社会的環境要因
認知症の有病割合はこの30年で減っている(N Engl J Med. 2016 Feb 11;374(6):523-32PMID: 26863354)がその間に画期的な新薬や予防法が開発されたか?社会との多様なつながりのある人は認知症リスクが低下する可能性がある。高齢者において、コミュニティセンターの使用が定期的に社会参加を促進し、生活機能の維持に貢献することを示されている(Res Aging. 2018 Oct 16:164027518805918. PMID: 30326775)

■低所得ほど笑うことが少ない(BMJ Open. 2018 Jul 5;8(7):e019104. PMID: 30046117)かもしれないが、笑いは、高齢者の一般的および精神的健康を促進するための重要な要因となる可能性があるJ Nerv Ment Dis. 2015 Dec;203(12):934-942. PMID: 26649930)

■高齢者の社会参加とインフルエンザ感染のリスク
BMJ Open. 2018 Jan 24;8(1):e016876. PMID: 29371265

地域ごとに環境条件が違っていることによって地域間格差が生まれている可能性はないか。言い換えれば、環境要因の影響が見落とされていたのではないか。バイオメディカルからソーシャルモデルへのパラダイム。コミュニティーが予後決定因子の一つというのは非常に大事な視点。

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