プラセボをしっかり飲むと死亡リスクが低下するという現象は一体何なのか。

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 服薬アドヒアランスの維持・向上が大事だとするコンセンサスがある。残薬問題やコストの問題などもあるかもしれないが、しっかり薬を服用することで、想定された通りの薬理作用を発現させ、理想的な環境下で薬剤の恩恵を受けることができる、そんなことを意図してこのコンセンサスが成立しているように思う。

 服薬アドヒアランスが良好であれば、患者の予後も良好なのだろうか。服薬アドヒアランスと死亡リスクの関連を検討した21研究(解析対象46,847例)のメタ分析によれば、服薬アドヒアランス不良と比較して、服薬アドヒアランス良好で、死亡リスク低下 (オッズ比0.56[95%信頼区間 0.50~0.63])が示されている。

Simpson SH.et.al. A meta-analysis of the association between adherence to drug therapy and mortality. BMJ. 2006 Jul 1;333(7557):15. PMID: 16790458

確かに予後は良好なのかもしれない。しかし、薬剤カテゴリ別の解析結果はやや衝撃的である。

・beneficial drug therapyの服薬アドヒアランス良好で死亡リスク低下
 オッズ比0.55[95%信頼区間0.49~0.62]
・harmful drug therapyの服薬アドヒアランス良好で死亡リスク増加
 オッズ比2.90[95%信頼区間1.04~8.11].
・プラセボの服薬アドヒアランス良好で死亡リスク低下
 オッズ比0.56[95%信頼区間0.43~0.74]

 harmful drug therapyの服薬アドヒアランスを向上させると死亡リスクが増加するかもしれないという結果が示されており、単に服薬アドヒアランスを向上させればよいのか、という問題を顕在化させている点は注目に値する。しかし、さらに僕の関心を引き寄せるのは、プラセボの服薬アドヒアランスが良好でも死亡リスクが低下しているという結果だ。

 確かにプラセボ効果は侮れない。3か月以上続く慢性腰痛を有する97人を対象としたランダム化比較試験では、「これは薬効の無い薬」と説明されて飲んだプラセボでさえ、プラセボを飲まない場合に比べて、腰痛症状を改善したことが報告されている。

Carvalho C.et.al. Open-label placebo treatment in chronic low back pain: a randomized controlled trial. Pain. 2016 Dec;157(12):2766-2772. PMID: 27755279

 しかし、プラセボ効果だけで、死亡リスク低下を説明するのはなかなか困難ではないだろうか。疼痛の軽減というある種の主観的な効果と、死亡リスクの低下という、どちらかといえば客観的な効果を同列に語ることは困難だし、そもそも薬理作用を有さないプラセボで死亡リスクが本当に減るのだとしたら、生物とはいったい何なのか、哲学的な問題を提起するだろう。本稿では、このプラセボの服薬アドヒアランス良好状態が患者予後を改善するという、不可解な現象について考察する

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