見出し画像

第31回 親友との別れと夫の出立。

香子が賢子を出産する少し前に悲しい出来事がありました。二人の親友が相次いで亡くなった事が分かったのです。
一人は藤原実方の娘。実方は藤原行成と些細な事で争いました。雨の中で桜を実方が見ていたのを行成が「馬鹿な事」と陰で言っていたというのです。短慮な実方は怒り、無抵抗な行成にとびかかり、冠を落としてしまいました。当時、冠や烏帽子をつけない事は恥部を出すに近い事でした。『源氏物語絵巻』では瀕死の柏木が夕霧に会うというので烏帽子をわざわざ病床で被っています。それを一部始終、運の悪い事に一条天皇が見ていました。
「奥州の歌枕を見て参れ」実方は奥州に左遷されたようなものですが、香子の親友である娘も同行しました。百人一首の「めぐりあひて・・・」の相手はこの娘だと思うのですが。(私見)父が罪びとなので、こっそり久しぶりに夜に会いに来た。本当に貴女だと分からない内に帰ってしまった・・・
そして実方と娘は同日に謎の死を遂げたというのです。殺されたのでしょうか?

そして従姉でもある親友はこれまた父(香子の叔母の夫)が肥前守になり、ついて行って九州の男性と結婚して(京都にいる時すでに結婚していた説もあり)娘を九州で産んでいたのです。しかし若くして病死してしまったという事でした。その忘れ形見が九州から来る事から、「玉鬘」が九州から来ると言うインスピレーションになった。(これまた私見です)

そして同じ年の11月、夫宣孝は宇佐八幡宮の仕事で豊前に出立する事になりました。
「豊前とはまた遠い所・・・」
親友が亡くなった同じ九州でした。乳飲み子を抱えて香子はやはり宣孝を頼っていました。宣孝は明るくからからと笑って、
「何、ふた月で仕事は終わる。来年早々にまた帰ってくるよ」
そう言って宣孝は出立して行ったのでした。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?