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第149回 源頼政の最期

宇治の平等院での戦いでは、源頼政の次男兼綱が父を逃げのびさせようと、引き返しては戦い、引き返しては戦っていました。しかしそれも平家の大勢についに首を討たれました。
それを見て、頼政は以仁王に、
「宮、宮だけでも南都に落ち延びて下され。拙者はここでお暇(いとま)つかまつりまする」
頼政はそう言って涙しました。
以仁王は静かに頷くと乳兄弟の宗信と共に三十騎ほどで落ちて行きました。
頼政は渡辺唱(となう)を召し、「我が首を打て」と命じました。唱は涙をはらはらと流して「よう打てません。ご自害の後、給わります」
と言いました。頼政は、「まことにも。我が老首を人に見せるでないぞ」
と言い、声高に十ぺん念仏を唱えて、辞世の句を詠みました。
「埋もれ木の花咲く事もなかりしに 身のなるはてぞかなしかりける」
ー自分の一生は埋もれ木の花の咲く事のないように、世に埋もれて栄華に時めくこともなく、今こうして哀れな最期を遂げる。悲しい事だ。

そうして頼政は自害し、唱が首を取って、泣く泣く石と一緒に布に包み、宇治川に投げ入れたのでした。(続く)

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