見出し画像

第23回 「夕顔」のモチーフ

正暦5(994)年、香子(紫式部)25歳の夏。
無職の父為時は、従兄弟半にあたる具平(ともひら)親王(31歳:村上天皇第7皇子)の臨時の家司となっていました。
具平親王は教養豊かで香子も尊敬していました。そして具平親王は一族の気安さか、為時の甥・伊祐(これすけ)も家司として使い、また為時の妹の夫・平惟将の妹・大顔(おおがお)を愛人として男児まで成していました。

その夏の夜も具平親王は大顔を伴って遍照寺に泊っていました。
そして夜半に突如として香子がいる堤邸の門を叩く者がいました。惟将の使いでした。
「具平親王、火急の用とて為時殿と伊祐殿に来てほしいとの事です」
「どうしましょう、父上は別の邸だし」
とにかく為時の長兄の子として寝殿に寝ていた伊祐に連絡し、また為時にも連絡しました。

やがてだいぶたって夜明け前頃、為時と伊祐は帰ってきました。そして伊祐は筵(むしろ)に若い女を捲いて帰ってきました。黒い髪の毛がこぼれて見えていました。(このあたりは『源氏物語』でも描かれています)
「父上、伊祐様」
香子は二人から事情を聞いた。為時がまず話した。
「急に大顔が苦しみ始めたらしくて。我らが行った時にはすでに事切れていた。正室様の生霊かもしれぬ」
「まあ」
伊祐も話し始めた。
「それもえらい事だったが、大顔様には五歳の男児がいての。わしの養子にしてくれぬかと頼まれたのじゃ。正室様の手前、困っておると言われて」
ずいぶん無責任な話だと香子は思いました。後年、香子は、具平親王が亡くなった後、「夕顔の帖」として『源氏物語』に追加したのでした。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?