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「枯れた技術の水平思考」を個人ゲーム開発で使う方法

■枯れた技術の水平思考とは

"枯れた技術の水平思考"とは、任天堂の初期のヒット作である「ゲーム&ウォッチ」「ゲームボーイ」を生み出した横井軍平さんの考え方を代表するものです。

技術者というのは自分の技術をひけらかしたいものだから、最先端技術を使うということを夢に描いてしまい、売れない商品、高い商品ができてしまう。

値段が下がるまで、待つ。つまり、その技術が枯れるのを待つ"枯れた技術" を(深く垂直に掘るのではなく広がりを) "水平" に考えていく水平に考えたら何ができるか。そういう利用方法を考えれば、いろいろアイディアというものが出てくるのではないか。

横井軍平・著 『横井軍平ゲーム館』 (アスキー 1997年)

すでに時代遅れになった技術でも、新たな使い道を見つけることで「今までなかった商品」が開発できる、という考え方です。これは「古いものが良い。新しいものはダメ」という老害的な考え方ではなく、「技術が普及して目新しさがなくなっても、使い方次第で人を驚かせるようなものが作れる」というものです。

また、最新技術の世界で勝負すると「性能」や「機能」の差で戦うこととなり、少しでもライバルよりもパフォーマンスを上げるために開発費の高騰を招くこととなり、大きく疲弊することになります。そういったレッドオーシャン(競争が激しい戦場)で戦うよりは、世界初のものを作って「ブルーオーシャン(競合が存在しない市場)」を狙っていった方が楽に戦える、といった考え方です。

■「枯れた技術の水平思考」を個人ゲーム開発に応用するには

"枯れた技術の水平思考" は企業戦略的な意味で使われることが多いように感じます。なので、そのままでは個人ゲーム開発に転用するのは難しい気がします。そこで、解釈を大きく広げて考えてみます。

* 最新技術 (難しい技術・難しいゲーム) を目的とすると売れない商品となる
* スキル不足の分野は "引き算" で考える
* 制限がある中で、もの作りをする
* 世界初を目指して差別化を目指す

▼最新技術 (難しい技術・難しいゲーム) を目的とすると売れない商品となる

ゲームを作る人はたいてい普通の人よりもゲームに詳しいです。だからと言ってその知識をひけらかすように「斬新な新しいシステム・複雑なシステム・難易度の高いゲーム」を採用すると普通の人に理解されないようなゲームとなってしまいます。多くの人に遊ばれるゲームはとてもシンプルなルールを採用したゲームです。例えば「スーパーマリオブラザーズ」をヒットさせた宮本茂さんも、「スーパーマリオブラザーズ」が評価されていた半分以上の要素はそれまでのゲームにもあったものだ、としています。

▼スキル不足の分野は "引き算" で考える 

横井軍平さんは技術者として任天堂に採用されたのですが、実は学生時代は成績がそれほど良くなく落ちこぼれの部類だったそうです。そういった経緯を踏まえて「枯れた技術の水平思考」を考えると、この思考法は「落ちこぼれの技術者が生き残るための戦略」であったのかもしれません。

個人でゲームを作っていると、他のすごいスキルを持ったクリエイターのゲームと比べて、自分のゲームは技術が足りない、アートや演出がかっこよくない、など自己嫌悪に陥ることが良くあります。
そういった場合に、それらと真っ向から勝負するようなアートを目指すのではなく、要素を "引き算" で考えます。例えば絵の解像度を下げ、色数を減らす(白黒を中心にするなど)ことでスキル不足をうまくごまかす、という方法があります。

横井さんが開発した「レフティRX」というラジコンカーは、当時ブームだったラジコンカーがとても高価だったのを、左にしか曲がれないという簡易的な操作にしたことで価格を通常の 10分の1 にまで下げました。さらにそれを応用した「チリトリー」という世界初のお掃除ロボットを開発しています。

▼制限がある中で、もの作りをする

任天堂を象徴するキャラクターである「マリオ」は「ドンキーコング」というアーケードゲームで誕生しました。これは宮本茂さんの功績ですが「マリオ」のあのデザインは、限られた解像度の中、少ないアニメパターンで、ゲーム内で起きていることを説明するために作られたとのことです。
例えば当時の技術では、転んだ時の髪の揺れを表現するのが難しかったため、帽子をかぶせることで転んだ表現をやりやすくしたそうです。

個人制作の場合、やろうとすればどこまでもこだわりを入れることが可能です。また、最近は動作する機器の性能向上により、なんでもできるようになりました。
ですが、あえて制限を加えることで、無駄な部分を削り、限られたリソースに注力することで良いゲームが作れるようになるかもしれません。

▼世界初を目指して差別化を目指す

例えばスマートフォン向けのゲームでは以下のジャンルが人気です。

* ワンタップで遊べるお手軽アクション・シューティング・タイミングゲーム
* 放置、育成ゲーム
* クラフト系ゲーム
* パズルゲーム
* シナリオ、ノベルゲーム
* 脱出ゲーム
* ストラテジー、タワーディフェンス、経営シミュレーション
* リズムゲーム

これをそのまま作ってしまうと、競合が多く、目立たないゲームとなってしまいます。なので、以下のゲームジャンルを作る、と考えてみます。

* "世界初" のワンタップで遊べるお手軽アクション・シューティング・タイミングゲーム
* "今までになかった放置、育成ゲーム
* "あり得ないクラフト系ゲーム
* "前例のないパズルゲーム
* "前人未到のシナリオ、ノベルゲーム
* "人類初の脱出ゲーム
* "誰も遊んだことがないストラテジー、タワーディフェンス、経営シミュレーション
* "史上初のリズムゲーム

というゲームジャンルで考えてみると、「なんかすごいゲームなりそう」となってテンションが上がる……、かもしれません。

■その他の横井軍平さんの思想

横井軍平さんは "枯れた技術の水平思考" の印象が強く、これについて語られることが多いですが、他にもゲーム開発に役立つ逸話があります。

* ゲームのアイデアを身につける方法
* 「誰かの反応」を考えてもの作りをする
* 良いアイデアは悪いアイデアを積み重ねることで生まれる

▼ゲームのアイデアを身につける方法

「ウルトラハンド」を作った時、横井さんは山内社長に "ゲームとして遊ぶ" ルールを提示することを命じられました。それは、単に玩具を作ったらそれでおしまいではなく、遊び方を提示することでそれが説明書の代わりにする、という考えがあったからだそうです。
この経緯があって、横井さんは単に面白いおもちゃを作るだけではなく、それを遊ぶための "ゲームのルール" を構築する力が身についたそうです。

ゲームのアイデアの発想力をつけるには、身の回りにある道具を使って「どういうルールで遊ぶと面白いか?」ということを考えてみると、思考力を鍛えることになるかもしれません。

▼「誰かの反応」を考えてもの作りをする

横井さんのアイデアの元になるのは、作ったものによって「相手がどういう反応をするのか?」ということを意識していたように感じます。
「ウルトラハンド」は伸び縮みする機構が面白くて、他の人に見せたらどういう反応をするのか、というところから始まっています。「ワイルドガンマン」はそれまであり得なかった、インタラクティブに映像が変化する技術を2台の映写機を使うことで実現しました。そのようなものは今まで見たことがなかったため大変驚かれ、世間で話題となりテレビ番組に出演するほどの反響でした。

ゲームを作るためにゲームを作るのではなく、「相手がどういう反応をするのか」を見るためにもの作りをすることでヒット商品が生まれるのかもしれません。

▼良いアイデアは悪いアイデアを積み重ねることで生まれる

もし私が犯罪をするなら、間違いなく完全犯罪です。だめなアイディアは頭の中で没にしている。他人から見ると、私は優れたアイディアを次々と出せる人間だと錯覚するかもしれませんが、だめなアイディアを頭の中で没にしているだけなんです

牧野 武文. 任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代 

横井さんをヒット商品をたくさん作っているので、何かすごい才能を持っているように思われがちですが、実のところは多くのアイデアをたくさん考えて、その中で最も優れたアイデアを厳選して形にしていたそうです。
なので、良いアイデアを見つけるには、失敗作の積み重ねが必要になるのかもしれません。

■参考になる本

"枯れた技術の水平思考" についてはネット上にも色々情報はありますが、横井軍平さんの思想をしっかりと理解したい場合はこちらの本がオススメです。



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