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文藝春秋4月号「太陽の季節」


雑誌を買ったのが3日前の夜で、その帰りの電車で読み始めて、今朝の電車で読み終えた。文庫なら残りのページ数が厚みで分かるが、雑誌だと小説はあくまで全体の一部になっているため、突然読み終わるのが面白い。

石原慎太郎の本は初めて読んだ。僕としては政治家よりも小説家のイメージの方が強い。いや、小説家と言うよりも芥川賞の選考委員の方がしっくりくる。

まず、全体の感想。この「太陽の季節」は、もっとグロテスクで生々しい話だと思っていた。というのも、石原慎太郎が芥川賞の選考委員を辞めた時「足をすくわれる小説に出会えることを期待していたが、駄目だった。日本文学は衰退の一途をたどる」的なことを言う石原慎太郎の動画をユーチューブで見た。「太陽の季節」が「性と快楽に向き合った小説」ということを前から選評で知っていた。なのでこの本も選考員が呆れ返るほどぶっ飛んだ内容、早い話僕は「限りなく透明に近いブルー」を想像していた。

しかし、いざ読み始めていくとボクシングを始める序盤のシーン以降は徐々にあっさりとしたスケッチ風の小説にシフトしていき、主人公の独り語りも多くなってきた。僕はこういう小説は好きだが、石原慎太郎はもっとガツガツした作風なのだと思っていたので、若干拍子抜けではあった。そして読み進めていくうちに石原慎太郎に親近感を持ち始めた。なんだ、結構可愛いことを書くじゃないか、と。


展開がサクサクしてるのがこの本の一番の魅力だと思う。余計なことは書かず、会話文も大体が一行で収まっている。英子と龍哉、ほぼこの2人だけで話が進んでいくのが読んでいて楽だった。新人賞の小説によくある「これいつまで続くのだ・・・」という冗長な感じが全くない。

英子が妊娠した時、「またこの手のオチか」とは思った。というのも、昔の面白い小説は大体妊娠か裁判のどちらかが絡むからだ。ただ、英子が死んだことを知った龍哉のどこにもやれない心情の描写は良かった。龍哉がどれだけ英子のことを好きだったのかが疑問だ。他にキーとなる女性の登場人物がいたのならわかるが、この短い小説では龍哉の性格の根本となる部分まではわからなかった。ただ自分が龍哉とは全く違う性格で、僕の周りにもこんなやつはいないということは分かった。

最後にサンドバッグを叩く描写は、23歳の石原慎太郎が「このオチはイケてるな」とニヤニヤして書いたのが見えた。それを引いても良い終わり方だった。まるでこの2、3行を書くためだけに設定をボクシング部にしたかのようだ。次のページが別の記事になっていたので余計に唐突な終わり方だった。あと20ページくらいはあるかと本気で思っていたのだ。ボクシングの大会でボコボコにするとか、されるとか。この引き際は素晴らしいと思った。


この文藝春秋に載っていた「太陽の季節」は当時の印刷のままである。漢字が難しく読み仮名もないので、普通にわからない漢字が結構あった。でも面白いことに、漢字が読めなくても前後の文脈で「多分これはあの漢字だろうな」と予想できてしまう。他に面白かったのが小説内の広告だ。デザインが昭和で、今ではまず見れないだろうなというのが何個かある。正直、特にファンでもない石原慎太郎の「太陽の季節」のためだけに1000円払ってこの分厚い雑誌を買うかは本屋で1人悩んだのだが、今となっては買わないのはあり得ない。文庫本ならいつでも買えるが、2022年4月号はこのタイミング限りだ。

思わず笑ってしまった広告。JALはまるで落書き。トランジスタラジオ、、、今のスマホみたいなもんだろうか

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