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庄司薫「狼なんかこわくない」

この本を見つけたのはたまたま。大阪の古書店でぼーっと本棚を見つめてたら見覚えのある作家の名前と目があった。「赤ずきんちゃん」以外の本を売り物で見たことがなかったのでびっくり。他に目当ての本があったにもかかわらず、そのプレミア感にそそわれてつい買ってしまった。

ちょっとがっかりしたのが、この本は小説ではなかったということ。僕はてっきりこれが「薫くん四部作」の一つだと思っていたので、エッセイだと知って「ちぇ、なんだ…」と思った。でもよくよく考えてみたら庄司薫のエッセイってちょっと面白そうとも思えてきた。小説のスタイル自体が赤裸々タイプだし。

まさか、とも予想通りとも言えるのだが、この本は「若さ」について書かれていた。そうこなくちゃという感じである。読んでいくと思いのほかエッセイとして成り立っているので感心する。

一番斬新なのが、普通の作家ならここまで正直に自分の思っていることを書けない、というところまで書いてしまうところだ。庄司薫は得意のおふざけ文体で誤魔化しているけれど、内容は誰もがあえて書かなかった鋭い指摘ばかり。僕は他人をべた褒めするのは自分の価値を下げるみたいであまりしたくないけれど、序盤の「夢のない大人を冷笑的な目で見る子供」という部分あたりから読んでいてニヤつきを抑えることができなかった。言いたいことを全部言ってくれるのだ。同世代の作家志望は庄司薫という存在が嫌で嫌で、それでいて気になってしょうがないものであったに違いない。

芥川賞を取って間もない作家、つまり新人がこう堂々と自分の弱みを曝け出すのが珍しい。というよりも、こんな自分語りが読み物として成り立っているのが素晴らしい。「庄司薫なら何を言っても面白い病」にかかっているのだ。

僕は17や18の時に何も考えていなかったんだと、この本を読んで改めて思った。村上春樹を読むときも思うが、そんな小さい頃にヘミングウェイやドストエフスキー、谷崎潤一郎なんて読んじゃいない。周りの大人から見れば真っ当な17歳だなと思われていたに違いない。もっと昔から古典文学やジャズまたはロックンロールに触れ、高校の教師に一目置かれるスノッブな17歳でありたかった……


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